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2010年11月アーカイブ

1122日に都議会運営委員会に提出された性表現規制の〈都条例改定案〉を公開します。

 

6月に都議会で否決された青少年条例改定案だが、修正案が22日に明らかにされた。全文はこちらをご覧いただきたい。

⇒ 都条例改定案(全10ページ).pdf

この改定案は11月末開会の都議会に上程され、へたをすると12月半ばには事実上成立してしまう怖れがある。改定案が明らかになったのを受けて、日本雑誌協会や日本ペンクラブではさっそく、22日に委員会を開いて協議を行っている。

改定案では前回非難の的となった「非実在青少年」などの表現は削除されたが、これは石原都知事の言うように「わかりにくい」「誤解を招く」という理由によるもの。一部修正は施されたものの、性表現規制強化などの骨子は基本的に変わらない。

さて、3月から6月にかけて反対運動が大きく盛り上がり、それを受けて民主党都議からも反対意見が噴出することで前回の改定案は否決されたのだが、今回の修正案について問題は、都議会内部、特に民主党の状況がどうなっているかということだ。

1116日付の読売新聞では「これまで反対していた民主党も修正内容に同意するとみられ...」と報じられている。ただ1122日付毎日新聞では、前回も反対した都議会民主党・松下玲子都議が「条例改正でなくても運用で対応できるはず」と条例改定に反対意見を述べている。

いったいどっちなの?と思ってしまうだろうが、複数の情報を総合すると、都議会民主党全体としては、どうも修正案には賛成する可能性が強いようだ。前回も、もともと民主党としては賛成しようとしていたのを、反対世論の高揚でひっくり返した経緯があるが、今回は都側の根回しもかなり行われており、民主党が反対に回るのは相当厳しいようだ。個々の民主党都議の中には反対論者もいるから、まだ予断を許さない面はあるが、今回は前回よりもずっと厳しいことだけは知っておいた方がよい。

ただ、前回、漫画家や表現者などを中心に、かつてないほど規制反対の声が盛り上がり、それが奇跡的に事態を動かした前例もあるから、あきらめるのは早い。まず今回明らかになった改定案を分析し、どう考えるのか早急に議論を起こす必要がある。

しばらく休眠状態になっていた特設サイトも時間の許す限り、この問題を追跡し、今後、改定案をめぐる意見や経緯をお伝えしようと思う。この問題に関心のある人は、ぜひツイッターその他で、多くの人に、事態の緊急性を訴えてほしい。このままでは12月半ばにも決着がついてしまう公算が大だ。


死刑問題などで知られる作家/監督の森達也さんと、TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀さんが、11月24日(水)夜6時半から(開場は6時)ジュンク堂新宿店で、日本のメディアのありようについてトークセッションを行います。森さんの新刊『極私的メディア論』(創出版)と金平さんの新刊『NY発 それでもオバマは歴史を変える』(かもがわ出版)の発売記念イベントです。森さんの新刊は月刊『創』連載をまとめたものですが、金平さんも月刊『創』12月号(6日発売)で日本のメディアの現状について語っています。

オウム真理教、死刑問題、ドキュメンタリー論など様々なテーマに関わってきた森さんですが、それぞれのテーマについて提示している視点は基本的に同じです。それは「視点が変われば世界は違う」というものですが、『極私的メディア論』のコピーはそれに続けてこうなっています。「メディアが単一の視点しか提示しなければ多様な世界は矮小化される」。森さんの基本的な考え方はメディア批判にこそ集約的に示されるのですが、そのメディア論の集大成ともいうべきものが『極私的メディア論』です。こうしてまとめて読んでみると、森さんの視点が実によくわかります。ぜひご購読下さい。
[本文見出しより]
メディア批評は有効か/なぜテレビが問題なのか/メディアと天皇制は相似形/
忸怩たるテレビ出演/NHKの「過剰な忖度」/「わかりやすさ」を求めるテレビ/
メディアについての煩悶/事件報道と死刑制度/自主ではなく他律規制/
視点が違えば世界は違う/日本のメディアの不自由さ/他

トークセッションはジュンク堂新宿店の8階カフェを使い、入場料は1ドリンク代込みで1000円です。定員50名。トークの後、サイン会も行いますので、そのおり、名刺交換や挨拶をかわすことも可能です。予約受付はジュンク堂7Fレジカウンターにて、また電話予約も同店にて受け付けます。イベントの詳細などはジュンク堂のHPをご覧下さい。http://www.junkudo.co.jp/tenpo/evtalk-shinjyuku.html#20101124shinjuku
2010年11月24日(水)開演18:30(開場18:00)
 森達也×金平茂紀トークセッション「日本のメディアはこれでいいのか」
ジュンク堂書店 新宿店 TEL 03-5363-1300

 前回の公判に続いて被害者遺族の証言。特に9日は遺族の調書の朗読だけでなく、殺害された川口隆弘君(享年19)の父親が直接法廷に立って、1mほどしか離れていない加藤智大被告人に向かって詰め寄るという壮絶な意見陳述でした。傍聴席の最前列に座っていた私もハンカチで涙をぬぐいながらの傍聴。この日は女性判事もハンカチを出していました。

 父親の意見陳述はこんなふうに始まりました。
「加藤、よく聞け。俺はトラックではねられた川口隆弘の父親だ。俺の息子がどんなに苦しい思いで死んでいったか。俺はお前を絶対に許すことはできない」

 その後、息子の傷だらけの遺体と対面した時の様子、火葬した時の辛い気持、今年の成人式には息子が生きていれば出席したはずだと代わりに参加したことなどを切々と語りました。

 そして再び加藤被告人に向かい、こう詰め寄りました。

「17人も殺傷したお前にとって死刑は楽な死に方だ。お前に同じ苦しみを味あわせてやりたい。お前は頭はいいのかもしれないが、人間としては最低だ。掲示板でいやな思いをしたといっても、世間の人は皆いろいろなことを我慢して生きているんだ」

 そして最後をこう締めくくりました。

「世の中には死刑に反対する人もいますが、それは身内を殺されたことがなく、遺族の苦しみをわからない人だと思います。裁判長、極悪非道の加藤をぜひ死刑にしてください」

 この前には母親の長い調書(意見陳述)も女性検察官がモニターに写真を映しながら読み上げました。亡くなった一人息子が幼少からどんなふうだったかを切々と語ったのですが、この両親にとって息子の突然の死をまだ完全に受け入れることができないでいる、その思いを吐露したわけです。

 前回の公判で読み上げられた他の被害者遺族の調書でも、身内の無残な死を受け入れられず、神経科の医者にかかるようになったとか、睡眠剤なしでは眠れないといった体験が語られていました。身内を突然、理不尽な形で惨殺されたという体験は、こんなふうに遺族を後々まで苦しめるわけです。

 私も『ドキュメント死刑囚』に書きましたが、奈良幼女殺害事件の小林薫死刑囚の裁判で幼女の両親の法廷証言の時には法廷中が涙に包まれたのですが、この両親もいまだに娘の不条理な死を精神的に受け入れることができない状況でした。

 加藤被告人に向けられた父親の証言の最後に、死刑反対論への批判があったことも、私を複雑な思いにさせました。私自身はどちらかといえば死刑制度反対論者ではありますが、息子を殺された親の「犯人に極刑を求める」気持ちは当然だし、私自身も同じ立場なら同じ主張をするだろうと思います。だからこの父親の意見には同意します。

 ただ、私が前掲著書で主張したのは、凶悪事件の犯人にとって「罪を償う」とはどういうことなのか、個々のケースに即して考えようということです。この加藤被告の場合も、もう死刑を覚悟しているのは明らかで、恐らく一審で死刑判決が出て、本人が控訴取り下げで確定させる可能性は高いと思うのですが、ちょっと釈然としないのは、それが本当に彼にとって罪を償ったことになるのだろうか、ということです。ま、このへんは難しい問題で、私も加藤被告に即してこうだと断定的に語るほど整理ができていないのですが。

 次の公判は11日。被害者遺族の証言が続きます。 

 なおこの加藤被告の裁判については、『創』11月号(先月号)で北海道大学の中島岳志さんが14ページにわたって自分の見解を語っていますが、これもものすごく考えさせる内容です。関心のある人はぜひ読んでほしいと思います。