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篠田博之の「週刊誌を読む」

『週刊朝日』連載中止事件の大々的なお詫びは内容空疎

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 いったいどうしちゃったの、という感じなのが『週刊朝日』だ。橋下徹・大阪市長の抗議を受けて佐野眞一さんの連載中止を決めた翌週11月2日号に「おわびします」という謝罪文を掲載した。

目次の次の見開き二ページにわたって、これ以上目立つ載せ方はないというほど大々的に謝罪文を掲載したのは、ある意味潔いとも言えるが、できればその潔さをもっと違う方に示してほしかった。

「差別を是認したり助長したりする意図はありませんでしたが、不適切な表現があり......」というのが謝罪の骨子だが、前号の記事中に被差別部落の地区名などを掲げたことに謝罪しているのか、あるいは橋下市長の血脈を探るといった企画、アプローチの仕方そのものが誤りだったと言っているのか、相変わらずわかりにくい。スペースは大きいが、内容空疎な謝罪なのだ。

橋下市長にあえてケンカを売りながら、抗議を受けた途端に連載中止を決めるというその対応は、かつて差別表現が見つかった時に出版社が慌てて出版物を絶版回収にしたのとそっくりだ。

そうやって表現を封印するのではなく、むしろどこがどう問題だったのか丁寧な説明をつけて、差別表現についての社会的議論を作るのが正しい対応だ。そんなふうに、この二十年ほどメディア界の対応も変わってきたはずなのに、その教訓はどこへ行ってしまったのだろう。

『週刊朝日』編集長は既に更迭され、佐野さんも口をとざしたままだ。出版社は第三者による検証を行うと言っているから、それにわずかな期待をかけるしかないが、どうもこれまでの対応は釈然としない。

謝罪を決めた決定要因とされている被差別地区の実名掲載については、昨年の『週刊文春』『週刊新潮』の橋下叩きではどうだったのか気になって調べてみたら、同様に地区名が掲載されていた。最初にそれを書いた『新潮45』の記事は雑誌ジャーナリズム大賞を受賞している。これではいったい何が問題なのか、読者にはさっぱりわからないだろう。  

『週刊朝日』がひどい過ちを犯したという印象だけが独り歩きしていく。これで本当によいのだろうか。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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