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篠田博之の「週刊誌を読む」

首都圏連続不審死事件『週刊朝日』の異色傍聴記

「首都圏連続不審死事件」木嶋佳苗被告の裁判がさいたま地裁で進められている。もともと週刊誌による報道先行の事件だ。当然、多くの週刊誌が公判内容を報じている。 

その中で異例のページ数をさき、ジェンダーやセクシャリティに詳しい北原みのりさんの傍聴記を連載しているのが『週刊朝日』。女性読者の多い同誌ならではの切り口だ。

この事件のキーワードは「婚活」で、木嶋被告は、婚活サイトを利用して多数の男性に接触し、多額のお金を得ていた。しかもそのうちの何人かの男性が不審死を遂げた。検察が主張するような連続殺人事件だとしたらまさに戦慄すべきだが、北原さんは裁判を傍聴しながら別の問いを発し続ける。木嶋被告にとって男とはどういう存在だったのだろう、結婚とは何なのだろう、ということだ。

例えば第七回公判に出廷した男性は、木嶋被告の金銭援助要請を「母に泣かれたのでお金は用意できません」と拒否。木嶋被告は「ご両親に反対されても何とかしよう、という思いがあなたになければ、仕方ありませんね」と返信したまま連絡を絶つ。今思えば被害にあわずにすんだわけだが、親の反対で結婚をあきらめたというこの男性に北原さんは疑問を投げ、こう自問する。「ねえ愛って何? 結婚って何故するの? 女たちは、佳苗にそう、突きつけられているような気がしてくるのだ」

「2泊3日で婚前旅行に行きます」とブログに書いた翌朝、遺体で発見された男性について、第三回公判の傍聴記にはこう書かれている。「大出さんは女を知らなすぎた。法廷で"明かされる"大出さん像を聞く限り、女性観は貧困だった」

婚活サイトで知り合った男たちと木嶋被告との関係を、北原さんは醒めた目で分析していく。そこに浮かびあがるのは、異性とのコミュニケーションが不得手な男性たちだ。恐らく婚活サイトを利用している女性の側も同じだろう。そういう状況を利用したのが木嶋被告というわけだが、今の社会で男と女の関わりとは、結婚とは何なのか? 「婚活ブーム」に冷水を浴びせたこの事件は、そういう問いを我々に投げかけているように思える。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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