トップ> 篠田博之の「週刊誌を読む」 >福島第一原発現場に入った週刊誌記者

篠田博之の「週刊誌を読む」

福島第一原発現場に入った週刊誌記者

 『週刊朝日』9月16日号が、週刊誌としては異例の十ページをさいて「福島第一原発完全ルポ」を掲載している。福島第一原発の敷地内だけでなく、原子炉建屋の中にまで入ったルポである。

 新聞・テレビなど大手マスコミは原発取材について「○キロ圏内には入らない」という内部規制を行い、危険な最前線の取材はフリーが行うという棲み分けがなされていると言われてきた。『週刊朝日』の場合は、あくまでも朝日新聞社とは別の関連会社の発行だし、このルポもフリー記者が書いたものだ。だから棲み分けに従ってはいるのだが、ただ新聞社系週刊誌がこういうゲリラ取材を敢行し、掲載した意味は小さくないだろう。

 特集記事の冒頭のリードにはこう書かれている。「原発事故の現状は、国と東京電力の『大本営発表』でしか知ることができない。ほかの"目"が、現地に入っていないからだ」「現場で何が起きているのか――。その問いに答えたい本誌は『禁断の場所』に足を踏み入れた」

 どうしてその取材が可能になったのかという経緯については記事には書かれていない。だが、筆者のフリー記者・今西憲之さんは、講談社の雑誌『g2』にも同じ第一原発ルポを書いており、こちらには、少し踏み込んだ記述がなされている。それによると、今西さんを現場に入れたのは福島第一原発の現場の幹部の判断で、彼らは東電本社の広報のあり方に不満を持っているようなのだ。

 記者を内部に入れたことが発覚した場合、社内で問題になるのではないか、という問いに幹部はこう答えたという。「簡単なことです。(東電)本社が本当のことを広報しない。発表しない。それによって報道が歪められる。現場を見て、その通りに報じてほしいと思ったからですよ」

 今西さんはこう書いている。「記者が現場を伝えることを放棄してしまったら、存在価値はない。東電や保安院などのフィルターがかかっていない状態で自分の見たまま、感じたままの第一原発の現状を書きたかった」

 国や東電の情報公開のあり方だけでなく、マスコミ報道のあり方にも、今回の記事は一石を投じたと思う。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 福島第一原発現場に入った週刊誌記者

このブログ記事に対するトラックバックURL: