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「見込み取材」が過熱  女児殺害・知的障害者の事件

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 知り合いの熱血弁護士・副島洋明さんからメールが届いた。千葉県東金市で起きた女児殺害事件で逮捕された容疑者の弁護人になったという。さっそく事務所を訪ねて三時間近く話を聞いた。

 副島さんは、これまでも知的障害者の事件の弁護人をたびたび務めたベテランだ。知的障害者の場合、捜査官に誘導されるまま自供してしまう傾向があり、取り調べをどう可視化するかなど課題は山積だ。報道も、よく考えて行わないと、知的障害者への差別意識を助長する怖れがある。

 そうしたデリケートな事件であるにもかかわらず、この間の取材や報道は、そこに土足で踏み込むようなやり方だったらしい。逮捕直後には容疑者の母親の職場や、末期がんで入院中の父親のところへも、集団的過熱取材が行われたらしい。
 いや逮捕後だけでなく、この事件の場合、逮捕前から、容疑者に対する「見込み取材」が過熱していた。「事件直後、容疑者は『愛の水中花』を大熱唱していた」(サンデー毎日)「私は容疑者に無理やりキスされたーー千葉・東金『幸満ちゃん事件』」(週刊朝日)などと、週刊誌は容疑者への密着取材の模様を報道している。

 そのなかでも話題になっているのがTBSの女性記者だ。逮捕直後に同局は、容疑者がカラオケで熱唱する姿を放送したのだが、その女性記者ももちろん同伴しており、容疑者が勘違いするような行き過ぎ取材が行われていたのでは、と副島さんは憤っている。
 『フラッシュ』12月30日号は「幸満ちゃん事件『TBSスクープ美人記者』の"行きすぎ"取材」と題して、この話を報じた。また『週刊ポスト』12月26日号は「『幸満ちゃん殺し』容疑者に逮捕直前にできた『メル友』の〝正体"」と題し、容疑者が逮捕前、「メル友ができた」とうれしそうに語っていたが、それは女性記者のことではないか、と書いている。

 幼い女の子が殺害された悲惨な事件だから報道側が熱くなるのは仕方ない。しかし今回の事件が、知的障害者の問題を抜きに語れないものであることは明らかだ。そこに正面から踏み込む覚悟と見識を、報道する側が持ってほしい。

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