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篠田博之の「週刊誌を読む」

目立つ「社会への復讐」 続く大事件 孤立の果て

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 大事件が続いている。元厚生次官殺害事件で「年金テロ全情報」(週刊朝日)「年金テロ『天誅の時代』」(週刊ポスト)などと大見出しが週刊誌に躍っていたその最中に容疑者が出頭。「年金テロではない」と報道を否定した。

 でも、三十年以上前に愛犬を殺害されたという動機だけであの殺人事件を理解するのは困難だ。六月の秋葉原事件や、かつての宅間守死刑囚と同じく、自分を疎外する社会に復讐をしてやろうという意識が背景にあると考えるべきだろう。

『週刊文春』や『週刊新潮』はさっそく、この容疑者の四十六年間の人生をたどる特集を組んでいるが、一番不可解なのは、中学・高校時代の容疑者を知る多くの人が「大人しい良い子だった」と証言していることだ。最近は周辺住民にも怖がられる粗暴な人物だったというが、いったいその間、何が彼をそれほど大きく変えてしまったのだろうか。

 私は宮崎勤死刑囚や奈良幼女殺害事件の小林薫死刑囚など、凶悪事件の当事者と接触してきたが(拙著『ドキュメント死刑囚』参照)、「反社会性人格障害」と鑑定で診断された彼らは、いずれも社会や家族とのコミュニケーションが著しく断絶していた。

 孤立し絶望した個人による社会への復讐と言えるような犯罪が目立つのは、社会の何かが壊れつつあることの表れだろう。厳罰化といった対症療法だけでは、本当にこの社会は壊れてしまうと思う。

 今回の事件の背景について、コラムニストの中野翠さんは『サンデー毎日』12月7日号でこう書いた。「圧倒的な経済不安。先ゆきの暗さ。自分一人の力では抗い難い大きな流れ......」「今の世の中には世知辛く陰気な『やり場のない怒り』が充満している」

 同じ号でITジャーナリスト佐々木俊尚さんは、ネット社会の反応についてこう書いた。「社会に対する絶望的な怒りがあり、それは6月に東京・秋葉原で起きた無差別連続殺傷事件にも共通する。――ネット論壇を構成する人たちは、そんな印象を抱いている。だから彼らは被害者への同情と同じぐらいに、犯人に対してもある種の『共有感覚』を抱いているように見える」

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