トップ> 篠田博之の「週刊誌を読む」 >『週刊新潮』記事に疑問                                                     山口母子殺害弁護団への批判過熱

篠田博之の「週刊誌を読む」

『週刊新潮』記事に疑問                                                     山口母子殺害弁護団への批判過熱

 ショックを受けた。本欄で二度にわたって取り上げた映画「靖国」が、東京で予定していた全ての映画館で上映中止になった。この事態は、この国の「言論表現の自由」が、相当危機的な状況にあることを示している。  この騒動のきっかけが『週刊新潮』の記事だったことは以前書いた。今回も同誌の事例を取り上げよう。

 四月二十二日に差戻し審判決が出る光市母子殺害事件の弁護団が三月十五日に集会を開いた。それを報じた『週刊新潮』4月3日号を見て驚いた。まず見出しがものすごい。

 「『屍姦再現写真』を前に大笑いした光市『母子殺害事件』弁護士たちの鬼畜発言録」 集会は、安田好弘弁護士を始め弁護団から十七人が出席し、彼らの主張を詳しく説明したものだった。参加者は約百五十人。オープンな集会だから弁護団に反感を持つ人も参加は自由だ。『週刊新潮』はそういう人の意見を紹介したものだ。

 例えば当日、安田弁護士が、殺害された乳児を「十一歳のお子さんです」と言って「あ、十一カ月ですね」と訂正し、他の弁護士から笑いが起こる一幕があった。同誌記事ではある参加者が匿名でこう非難している。

 「何の落ち度もない母親と乳児まで惨殺されている事件ですよ。そんな集会で、被告の弁護人から笑い声が出るなんて信じられますか。それも一度や二度じゃない。しかも冗談まで言ってました。いったいどういう神経をしているんでしょうか。あの弁護士たちは」 

 なるほど、そんなふうに感じた人もいたのか、というのが参加者の一人である私の感想だ。どう感じるかは人それぞれ自由だが、『週刊新潮』の記事が気になるのは、集会参加者の大半が同様に受けとめたかのように書かれていることだ。

 記事のリードはこうだ。「厳粛であるはずのそんな場で、何故か弁護士たちは時に声を上げ、信じ難い『鬼畜発言』を次々と発していたのだ」。被告人を許せないという立場からすれば、彼を弁護する説明自体が「鬼畜発言」になってしまう。 同弁護団へのバッシングについては昨年来何度か論評したが、この記事もその典型だ。判決へ向けてこれからどんなマスコミ報道がなされるのだろうか。