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篠田博之の「週刊誌を読む」

煽って騒動つくり出す                                                     映画「靖国」報道に疑問

 何だかなあ、と思う。『週刊新潮』3月20日号の「助成金750万円の『反日映画』靖国を巡る『検閲』騒動」という記事のことだ。

 既に報道もされているが、中国人の監督が作ったドキュメンタリー映画「靖国」が四月公開を前に不穏な動きにさらされている。十二日には国会議員を対象に異例の試写会が行われた。一部右派議員らが公開前に映画を見せろと要求したのがきっかけだ。事前検閲だと最初は反発した製作者側も、特定勢力でない全国会議員の試写なら、と了承し実現した。

 この映画には日本芸術文化振興会から七百五十万円の助成金が支出されているのだが、右派議員は「反日映画」に助成金を出すとは何事か、と非難しているらしい。

 私も昨年、映画の試写を見たが、はっきり言って「反日映画」と呼ぶのは無理がある。むしろ今の日本の空気に配慮し、バランスをとろうと気配りした節も随所に感じられる。難しいテーマを扱いながら、それをイデオロギーでなくエンターテインメントに仕上げている点ではよくできた映画といってよいと思う。 

 ただ、物議をかもすかもしれないなと思ったのは、戦時中の日本兵の残虐行為の写真をあちこちに挿入していることだ。「捏造写真」だと、この何年か真贋論争が起きている写真である。この写真と前述した助成金に、右派議員や右翼団体が反発しているらしい。へたをすると騒ぎはさらに拡大しかねない雰囲気だ。 

 で、何だかなあと私が思うのは、元々この騒動に火をつけたのが『週刊新潮』の昨年12月20日号「反日映画『靖国』は『日本の助成金』750万円で作られた」という記事だからだ。「反日映画に助成金を出していいのか」という主張は、この記事で書かれていたものだ。そうやって煽っておいて、「騒動になっている」と、今回報道しているのだ。  

 約一年前にも、同誌は『週刊金曜日』の集会で演じられた皇室風刺寸劇を「不敬」だと煽りたて、右翼の攻撃で寸劇が中止になる事件があった。今回も何やら似たパターンなのだ。

 日教組の大会が会場となったホテルから使用拒否を通告されたり、茨城県つくばみらい市のDV防止法をめぐる講演会が右翼の抗議を受けた市側の判断で中止になったりと、言論・表現をめぐる危機的な事件が続いている。そんな風潮に言論機関が棹さしていいのだろうか、と私は思うのだが。