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篠田博之の「週刊誌を読む」

ロス疑惑報道に変化                                                     「書き放題」から呼称議論に

 『AERA』3月10日号によると「元社長の逮捕後、サイパンは日本人記者特需に沸いている」という。「地元紙サイパン・トリビューンに『日本のメディアが不振のタクシー業界を救う』という記事が掲載されたほどだ」。観光客の減少に悩まされていたサイパンでは、三浦和義さん逮捕後日本の報道陣が大挙押し掛けて異様な賑わいを見せ、そのことがニュースになっているらしい。

 日本でワイドショーを見ていても、三浦さんの映像や音声が連日飛び込んでくるばかりか、ジミー佐古田氏ら懐かしい顔やキャラの立つイケメン弁護士の登場、しまいにはアーノルド・シュワルツェネッガーまでが出てくるという、豪華キャストのドラマを見るような展開だ。

 一九八四年のロス疑惑騒動もそうだったが、こうした同時進行ドラマには、やはりテレビが威力を発揮する。後追いとなる週刊誌にはその分だけ工夫が必要になる。前出『AERA』は、スクープと銘打って「三浦和義と右翼」という記事を掲載しているが、中身は三浦さんが大物右翼と親交があったというだけの話。交友関係の広い彼のことだから右翼と知り合いでも不思議ではないのだが、三浦さんと右翼という組合せの意外性を強調して読者の関心をひこうという作戦なのだろう。 

 今回の大報道は、八四年のロス疑惑騒動を彷彿とさせるが、よく見ると二十年以上を経てメディアを取り巻く環境が変わったことも感じざるをえない。三浦さんの呼称を「容疑者」にするか「元社長」にするかという議論がメディア界で起きているのもそのひとつだ。 

 また三浦さんの妻の実名・顔写真をほとんどの週刊誌が伏せているのも変化の現われだろう。彼女側から弁護士を通じて報道に配慮するよう要請があったらしいが、二十四年前だったらここまで徹底はしなかったろう。作家の林真理子さんが『週刊文春』のコラムで「二十四年前はすごかった。どのマスコミも書き放題、追っかけ放題」と書いている。

 八四年のロス疑惑騒動は、まさに報道先行だった。その後三浦さん本人から約五百件に及ぶ名誉毀損訴訟を受け、大半はメディア側が敗訴するのだが、事件と無関係なプライバシーを暴いたという理由で敗れたケースも多かった。ロス疑惑事件とその後のメディア訴訟が、報道のあり方を見直すターニングポイントになったことは確かだ。