篠田博之の「週刊誌を読む」
ロス疑惑〝再燃〟に驚き リベンジ狙う興奮誌面に
三浦和義さんが逮捕されたというニュースが飛び込んできたのは二十三日、本欄原稿の前回分を書いている最中だった。新聞社から次々と電話が入り、コメントを求められた。私が三浦さんともう二十年以上にわたり親交があったからだ。
逮捕のニュースには本当に驚いた。最高裁で無罪が確定した事件がこんなふうにひっくり返されるなんて、誰も予想しなかったに違いない。しかも、ロス疑惑事件といえば一九八四年前半はマスコミがその話題一色になるほど日本中が熱狂した騒動だった。
その騒動の火つけ役であり、三浦さんの無罪判決に地団駄踏んだであろう『週刊文春』は今回、「疑惑の銃弾 最終章 三浦和義逮捕」と見出しを打った。ドラマはまだ終わっていなかった、今回の逮捕が最終章の始まりだ、というわけだ。リベンジを狙う興奮が誌面に感じとれる。八四年の「疑惑の銃弾」連載で取材班キャップを務めた安倍隆典さんが久々に登場、「止まっていた時計が再び動き出したという印象です」と述べている。
もっとも安倍さんは、今回、ライバル誌『週刊新潮』に「『借金踏み倒し』を告発された元文春『疑惑の銃弾デスク』」などとスキャンダル報道もされた。八四年当時この事件を取材した記者は今やマスコミで中堅幹部になっているはずだが、今回の報道全体に異様な興奮が漂っているのは、当時の思い出がよみがえったせいなのだろうか。
私と三浦さんが知り合ったのは、彼の逮捕後、八六年から『創』で「検証・三浦報道」という長期連載を始めた時だ。報道される側の当事者に、報道の検証をしてもらうという企画だった。その連載後、彼は検証にとどまらず、メディアを相手どって大量の訴訟を提起していった。約五百件と言われる訴訟はほとんど彼の勝訴で、日本の犯罪報道のあり方を大きく変えるきっかけとなった。
今回、『週刊文春』で安倍さんが気になる発言をしている。ロス地検検事が既に当時「アメリカならこれはコンスピラシー(共謀罪)で十分やれます」と強調していたというのだ。今回の逮捕の決め手は「新証拠」だというので、週刊誌はそれがDNAだとか(週刊文春)、凶器の銃だとか(週刊新潮)書いているが、そんなものなくても有罪にできるというのだ。
司法のあり方をめぐる議論も引き起こしそうな今回の逮捕、さて今後どうなるのか。
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