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篠田博之の「週刊誌を読む」

政府に同調 バッシング/「プリンセス・マサコ」出版中止

先日、オーストラリア 人ジャーナリスト、ベン・ヒルズさんと会った。日本版が出版中止になった『プリンセス・マサコ』の著者である。

 講談社が出版中止を発表したのは二月十六日だが、その直後の報道では「美智子さまが涙した『皇室侮蔑』本」(女性自身)「雅子さま中傷記述に抗議せぬ宮内庁の迷走」(女性セブン)など、出版中止は当然という論調が多かった。本の中に事実誤認が多いとの指摘もなされた。

 私も当初、それらの報道を見て半ば納得していたのだが、その後著者側の話を聞くうちに印象が変わった。残念なのは、肝心の日本版が幻となってしまったため、出版中止についてきちんとした議論や検証がほとんどなされていないことだ。この騒動には週刊誌が関わっているので、ここで改めて振り返っておこう。

 出版中止に至るきっかけは、二月上旬に外務省と宮内庁が著者とオーストラリアの原書出版社に行った抗議だった。外務省の抗議文は、同書が「皇室の方々さらには日本国民を侮蔑」しており、「我が国政府としては、これを断じて看過することはできない」と激しく非難していた。ただ講談社は、この抗議が出版中止の理由ではなく、対応の過程で著者との間に認識の違いが生じ「信頼関係を保てないと判断した」からだと言う。

 不幸なのは本が出ないうちから騒動が続いていたことだ。発端は『週刊朝日』の昨年11月17日号だった。表紙に「雅子さま、皇太子さまは皇籍離脱まで考えていた」と大書したこの号は、『プリンセス・マサコ』の原書を紹介したものだが、大きな反響を呼んだ。だが、この見出しはいわば羊頭狗肉で、同誌は宮内庁の抗議を受け、「見出し等で読者に誤解を与えかねない部分もあった」と謝罪した。

 同時に、記事の中で日本版が年明けに講談社から刊行されると明らかにしたため、騒動が広がった。事実誤認の箇所を含め、講談社は百四十九箇所もの削除や修正を行った。その過程で著者との間に不協和音が生じ、二月の政府の抗議がその亀裂を拡大したのだった。 「皇室侮蔑本」という 表現を始め、どうも週刊誌などの報道は政府の抗議に引きずられた感がある。著者はいまだに出版中止は圧力によるもので、皇室タブーの現れと反発している。多くの国々で翻訳が出ている同書が、肝心の日本で出版中止になっている現実は残念というほかない。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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