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篠田博之の「週刊誌を読む」

短大生バラバラ殺人の怪/ 当局否定も続く猟奇的報道

 渋谷区の歯科医師の二男が、妹を殺害しバラバラにした事件で二月五日に起訴された。異例だったのはそれに際して、東京地検が一部週刊誌の報道を「遺体の一部を食べた、なめた、頭部を抱いて寝たなどと書かれているが、そのような事実は認められない。明らかにうそだ」と否定するコメントを発表したことだ。 これについては初期の段階で、本欄で週刊誌の猟奇的報道に疑問を呈しておいたが、その種の報道はその後も拡大の一途をたどっていた。主な見出しを掲げただけでもこれだけある。

「頭部を抱いて寝た兄は『妹を食べていた!』」(週刊新潮2月1日号)「妹・亜澄さんの遺体は兄の唾液まみれだった」(週刊ポスト2月9日号)「切り取った性器と乳房は兄の胃袋に消えた」(週刊現代2月10日号)「妹を食べた!? 狂気の”唾液”現場写真」(FLASH2月13日号)

 記事の中身を読むとさしたる根拠もなく曖昧なのだが、こういう見出しが毎週のように吊り広告などに掲げられては、信じ込んでしまう人もいたに違いない。

 読売新聞によると、警視庁幹部も一月三十日、別の事件の会見でわざわざこの事件に触れ、週刊誌名をあげて「事実は全くない」と否定。遺体から唾液が検出されたという点についても「遺体は水を張った浴槽につけられており、唾液が検出できるわけがない」と指摘したという。

 捜査当局は週刊誌報道を全面否定したわけだ。しかしそうなると、ではあれだけ次々と掲載された週刊誌報道はいったい何だったのか、という疑問がわいてくる。「妹を食べていた!」と断定するような見出しを掲げた『週刊新潮』2月1日号など、捜査幹部の否定コメントまで紹介しながら、当局は事実を隠そうとしているのではないか、と批判していた。
 いったい真相はどうなのだろうか。もし週刊誌報道が誤りなのだとしたら、それが何週も流され続けたことに何か特別な事情はないのだろうか。この騒動、そうした観点から検証してみる必要がありそうな気がする。

 週刊誌をめぐってはこのところ話題続きだ。『週刊現代』の大相撲八百長疑惑追及は、日本相撲協会が提訴を決めたと発表。いよいよ法廷で両者が対決することになった。『週刊新潮』2月15日号「TBSにも『捏造番組』!」も反響を呼んだ。テレビって何なのか、改めて考えさせられる。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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