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篠田博之の「週刊誌を読む」

バラバラ殺人 扇情見出し/「桶川」の二の舞演じるな

 正月早々、バラバラ殺 人事件が相次ぐという、とんでもない事態になっている。なかでも歯科医一家の兄が妹を殺害した事件は衝撃的だ。この何年か「家族の崩壊」を象徴する事件が続いていたが、これもまさにその延長上にある事件だ。

 殺人事件の加害者と被害者がいずれも自分の子どもという残された親の気持ちを思うとやりきれない。そして驚くのは、そんな遺族の痛みを無視するかのように、この事件に対する週刊誌報道がひどくセンセーショナルなことである。

 「短大生バラバラ殺人 切り取られた『乳房』 と『下腹部』の闇」(週刊文春1月18日号)という見出しも相当だが、「『禁断の愛』DVDに出演した妹は『近親相姦』に怯えていた!」(週刊新潮1月18日号)も驚くべき猟奇的な見出しだ。 しかも記事の中身を読むと、見出しに相当するようなさしたる根拠は示されていない。『週刊文春』には、確かに妹の「両胸がえぐりとられ、下腹部も切り取られていた」とあるが、捜査関係者のコメントは「これは、両肩などを切断し、股関節と胴体を切り離す作業の流れでそうなったのかもしれない」。それを胸と下腹部が切り取られていたことに核心的な意味があるかのように、敢えて見出しで強調しているのである。

『週刊新潮』の「近親 相姦」云々も、記事に書かれているのは、妹が出演していたDVDが兄と妹の「禁断の愛」を描いたものだったというほかは、妹が兄を警戒していたといった匿名知人の曖昧なコメントくらいだ。この中身で先の見出しを付けるのはいくら何でもやりすぎではないか。  確かに事件はまだ解明されていないから、世間が驚くような事実が今後出てこないとも限らない。しかし、いずれの記事も何か確かな証拠を握っていて敢えてそれを匂わす見出しを付けたというよりは、雑誌を売るためにハデな見出しをつけたという印象が否めない。 週刊誌というのは記事は読まないが見出しだけは広告で目にするという人が圧倒的に多いから、見出しそのものがメッセージ性を持つ。この事件をこんなふうに猟奇的に描き出す報道が、ミスリードにならなければいいのだが、と心配になる。 かつて桶川事件で娘を殺された父親が事件直後の扇情的な報道に「娘は二度殺された。一度は犯人に、もう一度はマスコミに」と語っていたが、今回もそうならないことを祈りたい。
(月刊『創』編集長・篠田博之)

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