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篠田博之の「週刊誌を読む」

「いじめ教師」に実名公開/本人の言い分も報道を

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 学校でのいじめが大きな問題になっている。その中で福岡県の中学二年男子が自殺した問題をめぐって、二つの週刊誌報道が波紋を投じた。

 ひとつは『週刊新潮』10月26日号「中2生徒を自殺に追い込んだ『いじめ教師』の素顔」。記事中で自殺した生徒の元担任教師の実名と顔写真を公開した。同時に自殺した少年も実名にしたため、遺族が抗議を行ったという。

 続いて『週刊現代』11月4日号が自殺した中学生の母親のインタビュー「いじめ教師には一生をかけて償ってもらいます」を載せ、見出しの一部に教師の実名を掲げ、記事中で顔写真も公開した。同誌は新聞広告にも教師の実名と顔写真を載せようとしたが、これは新聞社が了承せず、結局、実名は空白に、顔写真には黒い目線が入って掲載された。

 この教師は生徒をいちごにたとえ、成績優秀な生徒は高価な「あまおう」、出来が悪い子は「ジャムにもならない」とからかっていたという。そうしたからかいが、いじめを助長したと、遺族やマスコミに糾弾され、教師は心労のあまり入院してしまったらしい。

 二つの週刊誌が実名・顔写真公開に踏み切ったのは、その教師に対する制裁なのだろう。一時はワイドショーも、実名や顔写真の公開はしないまでも、相当感情的・情緒的な報道を行っていた。 

 私見を言えば、私はこの段階でこんなふうにメディアがエモーショナルな報道を行い、制裁を行うことには疑問を感じている。もちろん遺族が憤慨するのは当然だし、報道する側がその悲しみを受けとめることも大切だと思う。ただ、一方で気になる点も幾つかある。 

 ひとつはこの教師の言い分が明らかになっておらず、真相がよくわからないことだ。この教師が「口は悪いが熱血教師だった」という評価もあることも報道されている。例えば『週刊女性』11月7日号には、この教師は「口は悪いが面倒見のいい先生だ」という見方もあり「中には『今回の先生に対する報道は一方的です!』と涙目で憤りを見せる母親もいるほどだ」とも書かれている。

 事態を混乱させているのが、学校側のマスコミ対応があまりにへたで、社会への説明責任が果たせていないことであるのは間違いない。その教師が実際にどんな教育を行い、どこに問題があったのか、教師本人の言い分も含めてぜひ明らかにされるべきだと思う。

東京新聞 2006.10.30掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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