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篠田博之の「週刊誌を読む」

判断分かれた実名報道/山口・高専生殺害で広がる議論

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 山口県・徳山工業専門学校の女子生徒殺害事件をめぐって、容疑者とされた19歳の男子生徒を実名にすべきか匿名にすべきか、議論は予想外の広がりを見せている。

 9月7日発売の『週刊新潮』9月14日号が「徳山高専殺人『19歳容疑者』の隠された『実名と顔写真』」と題して少年の実名報道に踏み切った時には、さほど驚かなかった。同誌が同様の措置をとることはこれまでもあったからだ。逃走中の容疑者の自殺・再犯を防ぐには実名と顔写真の公表が必要だ。同誌の主張はそういうものだった。

 ところが、その翌日の8日、事態は意外な展開を見せた。少年が遺体で発見され、新聞・テレビの報道が大きく分かれたのである。実名報道に踏み切ったのは読売新聞、日本テレビ、テレビ朝日だった。①少年の死によって、更生を願う見地から実名報道を禁止した少年法の適用の意味がなくなった、②社会的関心の高い凶悪事件であり国民の知る権利を尊重すべきだと考えた。おおむねその2つが理由だった。
 
 少々驚いたのは朝日新聞とテレビ朝日という同系列の新聞・テレビの判断がはっきり分かれたことだった。さらに翌週発売された『週刊朝日』を見ると、こちらは実名報道だった。

『週刊新潮』は9月21日号で「自殺してから『顔写真』が掲載された『徳山少年事件』の怪」と題して大手マスコミの対応を批判した。再犯の恐れがなくなった少年の死後に実名報道に切り替えても社会的意味は全くない、という主張だった。

 その後、事態はさらなる展開をたどる。実名報道を行った『週刊新潮』や読売新聞があちこちの図書館で閲覧制限を受けていたことが発覚したのだ。閲覧室から撤去したり、読売新聞の実名部分にシールを貼った図書館もあったという。

 さらに9月14日、日本弁護士連合会が会長談話を発表。「少年が死亡したといえども、少年法61条の精神は尊重されるべきであり」「実名報道をしなければならない社会的な利益も存在しない」と、実名報道を批判した。
 
 さまざまな考え方が提示され、対応が大きく分かれたこういう時こそ、議論を起こすチャンスといえる。閲覧制限を行った図書館の中にも制限の理由を明示した所とそうでない所があったという。理由を明示せず、生起した現実の封印を図った図書館があったとしたら、その対応が一番お粗末だ。

東京新聞 2006.09.13掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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