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篠田博之の「週刊誌を読む」

「子猫殺し」めぐる論争/作家の告白、波紋広がる

  直木賞作家・坂東眞砂子さんの「子猫殺し」告白が週刊誌などで大論争になっている。 発端は坂東さんが8月18日付日経新聞夕刊に書いた「子猫殺し」と題するエッセーだった。
「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている。世の動物愛護家には、鬼畜のように罵倒されるだろう」「そんなこと承知で打ち明けるが、私は子猫を殺している。家の隣の崖の下がちょうど空地になっているので、生まれ落ちるや、そこに放り投げるのである」
 そんなショッキングな 一文に案の定、抗議が殺到。8月25日までに一千件を越えるメールや電話が寄せられたという。それを他紙が報じて波紋が広がり、ネットでも大きな議論になった。彼女自身、「抗議の一部が日経新聞での連載中止を求めるといった言論圧殺として表面化している」(週刊現代9月16日号)とまで書いている。
 週刊誌では『週刊ポスト』9月8日号が「直木賞女性作家がエッセーで明かした『子猫殺し』で大論争」と題して、作家や評論家の意見を載せたのを皮切りに、『女性セブン』9月14日号など、各誌が取り上げた。
 当の坂東さんも『週刊朝日』9月8日号、『アエラ』9月4日号、『週刊現代』9月16日号などで、自らへの非難に反論を展開。『週刊現代』では、自分の意見をマスコミが刺激的部分のみ掲載するなどして「ヒステリー現象に繋がった」と、報道の仕方も批判した。
 最初のエッセーの真意を彼女はこう説明している。
「私は子猫殺しがいいことだ、とは決していいません。日経のエッセーに書いたことは、『人は他の生き物に対して、避妊手術を行う権利などない。生まれた子を殺す権利もない』でした。あのエッセイは、現代社会の多くの問題を孕んだものだと思っています。そのひとつは、愛玩物として生き物を『所有』する人間の傲慢さです」(週刊朝日)。
さらに『週刊文春』9月14日号には作家の東野圭吾さんが一文を発表。坂東さんのエッセーを読んで最初は不快感に襲われたが、読み返していろいろなことを考えさせられたと、友人の立場から意見をつづっている。
 坂東さんが住んでいるタヒチに「子猫殺しの崖」と題して空撮取材まで敢行した『週刊ポスト』9月15日号によれば、この騒動、既に現地でも観光業への影響についての懸念など、大きな問題になりつつあるという。

東京新聞 2006.09.13掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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