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篠田博之の「週刊誌を読む」

排外的ナショナリズム横行/加藤氏宅放火事件が象徴

 加藤紘一代議士の自宅放火事件にはイヤ~な思いがした。排外主義的なナショナリズムが横行し、異論を暴力的に排除しようという風潮を象徴する事件だったからだ。
 週刊誌でこの事件に触れた記事は幾つかあるが、内容はいまひとつ。現場で自決を図った男に話が聞けておらず、動機が不明で曖昧な報道しかできないからだ。
『週刊新潮』8月31日号「加藤紘一氏宅『右翼放火男』の書かれざる『経歴』」によると、その男は、新宿・歌舞伎町に事務所を構える右翼団体の事務局長のような人物。公安関係者によると「昔は北方領土返還要求など、反共で活発に動いていた時期もあったが、最近では、実質的な活動ができず、食うにも困るような状態だった」という。
 妻とも離婚しており、「家庭的には恵まれなかった」。同誌は「こうなったら、靖国参拝問題で世間の耳目を集めて、『華々しく死のう』とでも思ったのだろうか」と書いている。
『週刊朝日』9月1日号は「愛読誌は『SAPIO』だった加藤紘一宅放火の右翼男性」という記事を掲げている。読んでみると何のことはない。男が使ったレンタカーの助手席に『SAPIO』最新号が置いてあったというだけだ。確かに『SAPIO』は右派メディアのひとつだが、この男が最近の言論の影響をどの程度受けていたかは不明だ。
 ただ、このところ幾つかの月刊オピニオン誌も含めてナショナリズムを鼓吹する言論が目立つのは確かだ。しかも北朝鮮や中国を激しくののしることが、歯に衣(きぬ)着せぬ言論としてもてはやされ、雑誌が売れる風潮があるから、それがエスカレートの一途をたどっている。
 そういえばボクシングの亀田バッシングの背景にもナショナリズムの空気がある、と『週刊ポスト』9月1日号でビートたけしが面白いことを書いていた。亀田親子のパフォーマンスが下品だと反発を買ったのは、武士道精神を持ち出した『国家の品格』がベストセラーになる風潮と裏腹の関係だというのである。
「もちろんこれはナショナリズムの高まりと裏腹の話で、ニッポンは立派な国であるべきだ、ニッポン人は高潔な民族であるべきだっていう気運が高まってるから、こういう現象も出てくるんだろ。ちょっと怖い気もするけどね」
 最近の日本社会の風潮はちょっとどころか、かなり怖いかもしれない。

東京新聞 2006.08.28掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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