トップ> 篠田博之の「週刊誌を読む」 >メディアが作るタブー/気骨あるジャーナリスト受難

篠田博之の「週刊誌を読む」

メディアが作るタブー/気骨あるジャーナリスト受難

「あの溝口ってのは許せないね!」 

 細木数子が講演でそう言ったという。続けて「ペンの暴力は絶対に許さない! いま、戦ってます!」とも。

 その講演内容をレポー トしているのは『週刊現代』7月1日号「細木数子魔女の履歴書」。彼女が毛嫌いしている溝口敦さんの記事である。『週刊現代』記者が細木の東京勉強会なる会合に潜入し取材したものだ。講演の中で細木は「ここにも紛れ込んでますよ、あっちこっち記者が!」などと、記者の潜入を気にしていたという。

 この連載を「ペンの暴力」と非難する細木に対して、溝口さんは彼女が暴力団に原稿つぶしを依頼したと既に批判している(細木側はそれを事実無根だとして提訴)。双方がそんなふうに相手を非難するのはケンカをする際の常だが、ちょうどこの論争と同時期に報道された気になる事件があった。溝口さんの息子が今年一月襲撃され、暴力団元組員が実行犯として五月末に逮捕されたというニュースである。
 
 なかには細木数子とのケンカとこれが関係しているかのように誤解している向きもあるが、そうではない。溝口さんが昨年末発売の月刊『現代』に書いた山口組に関する記事に対する襲撃というのが真相とされている。
 溝口さんは一九九〇年 に山口組を批判した本でヤクザに刺され重傷を負った。九二年には『フライデー』に書いた原稿で同誌編集部が襲撃される事件が起きている。そして今度は息子が襲われたのだった。先日、溝口さんに会う機会があったが、家族を襲うというのはあまりに卑劣だと怒りをあらわにし、敵の思うつぼなので決して口をつぐむつもりはない、と言っていた。

 闇社会などタブーに挑んできた溝口さんだが、今回、細木数子もある種のタブーとみなされたのかもしれない。でもヤクザと違って、彼女のタブーは、恐らくマスメディアが作り上げたものだ。

『週刊朝日』6月30日号のコラムで芸能レポーターの梨元勝さんが、静岡朝日テレビのレギュラー番組を降りた話を書いている。ジャニーズ事務所の所属タレントのニュースを扱わないという局の方針に抗議してのことだという。ジャニーズ事務所はテレビ界にとって最大のタブーである。

 マスメディアがタブーばかり生み出し、溝口さんや梨元さんのような気骨あるジャーナリストが少なくなっているのが残念だ。

東京新聞 2006.06.26掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: メディアが作るタブー/気骨あるジャーナリスト受難

このブログ記事に対するトラックバックURL: