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篠田博之の「週刊誌を読む」

とんだキャバクラ取材/今回もメディア主導選挙

 「実は太田氏は、小沢代表など著名な議員が弁士で来ていないときはほとんど聴衆を集めることができていなかった」

 『週刊文春』5月4・11日号が衆院千葉七区補欠選挙についてそう書いている。「例えば四月十九日、午後七時五十五分から馬橋駅前で演説を行ったが、きちんと聞いているのは、客待ちをしているタクシーの運転手三、四人ぐらい」

 小沢登場で盛り上がり民主党の勝利に終わったが、結局、昨年の総選挙と同じ劇場型だった、というのがこの記事の結論だ。

  自民・民主両党の有名議員が駆け付けてパフォーマンスを繰り広げ、テレビカメラを自陣営に引き寄せようとした。良くも悪くもメディア主導のイメージ選挙が一般化したということらしい。

 そんな中で情報戦も展開された。『週刊ポスト』5月5・12日号によると「民主党の候補は元キャバクラ嬢だ。高校時代には暴走族に入っていて、万引きで補導されたこともある」などという怪文書が飛びかったという。当の太田氏はそれらを事実無根と否定したが、キャバクラ嬢についてだけは「短期間だけですがアルバイトをした経験があります」と認めた。

 週刊誌は一斉に、この情報を追って動いたらしい。『週刊朝日』5月5・12日号が「太田和美『キャバクラ嬢』取材狂騒曲」と題して、取材経過を紹介している。太田氏がバイトをしていたというキャバクラをつきとめるべく、記者が地元の店を訪ねると、こんな話を聞かされた。

 「今日はもう記者さん2組目。奥に座っていたの『フライデー』よ。1軒2時間しか予算がないって帰っちゃったけど」「あと昨日は『週刊新潮』が来てた。でも本人の写真を出して女の子に見せ始めたんで追い出されたわよ」「あとね、先週、『週刊文春』が来ていたわよ」

 どうやらその店は違うらしいと、記者は別の店へ。そこのキャバクラ嬢の話は「太田和美さんでしょう。ここで働いてたって『週刊文春』の記者がそう言ってたわよ。でも、ここじゃないと思うわ。そんなウワサが全然ないもの」とのこと。

 週刊誌を読み比べてみると、結局、太田氏がバイトをした店はどこもつきとめられなかったようだ。『週刊朝日』によると、二軒取材しただけで費用は「3万5200円(税込)」。騒動は太田氏にダメージを与えることもなく、地元キャバクラを潤しただけだったらしい。

東京新聞 2006.05.01掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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