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NHK受信料督促裁判を考える

月刊『創』07年3月号③

督促状を送ったケースは〝見せしめ〟?

 そんな督促状が届くまでの経緯について、青木氏はこう証言する。

「最初のうちは、NHKから郵便で何かが送られてきても通常の支払い請求の類いだったので、ほとんど内容を確かめもせずに廃棄していたのですが、10月ぐらいに一度NHKから書留か速達が送られてきたことがあり、ひょっとしたら、これがニュースでやっている法的督促なのかも知れないという予感が脳裏をかすめたことはありました。それでも、その後もNHKの職員や集金人が自宅に来るでもなし、電話は何度かかかってきていたのかも知れませんが、一度も直接話し合うような機会はありませんでしたので、放っておいても構わないだろうと思っていたのです。そんな矢先に、裁判所を通じて督促状を送るという内容の〝最後通告″がきたと思ったら、しばらくして、いきなりあの仰々しい『支払督促』が送り付けられてきたのですから、本当に驚きました。切手がベタベタと貼られた封筒を見た瞬間、一瞬、何が起こったのかと我が目を疑ったほどです」

 今回、法的督促の対象者を選定するにあたっては、06年春以降、訪問や電話での対応、文書送付などを重ね受信料制度への理解を求めた上で、あくまでも最終的な手段として〝最後通告″に踏み切ったと説明していたNHK。確かに、青木氏の証言からも、NHK側が青木氏にコンタクトをとろうとしていた片鱗はうかがえるものの、実際のところ青木氏にはまったくそれが伝わっておらず、十分な対応がなされたとは言い難い。青木氏によれば、NHKは青木氏が受信料の支払いをストップした理由すら把握していないはずだという。青木氏が続ける。

「督促状によれば、私が支払いをやめたのは04年の4月からとなっており、当時、私の借金などで余裕がなかったということもありましたが、律義に払っている人だけがバカを見るような、現行の受信料制度に大いに疑問を感じていたからというのもその理由の一つでした。集金人に面と向かって、これこれこうだから払わないと言った覚えはありませんが、なんとなく避けているうちに、あの磯野事件が発覚(04年7月)したせいもあって、もう払う気が失せてしまったんです」

 確かに、青木氏が滞納を開始したのは04年7月より以前のことだったとはいえ、実態はむしろ不祥事に伴う不払いに近い側面があり、わずか3カ月の差で、機械的に対象者に割り振られた青木氏が納得がいかないというのも無理からぬことと言えるだろう。実際、青木氏が今回の法的督促に異議を申し立てたのも、受信料の支払いうんぬんということだけではなく、自分が〝見せしめ″に選ばれたことに対して強い憤りを感じているからだという。

「不払い者全員に法的督促を行ったというならともかく、何故たった33件なのでしょうか。私自身、どうして自分が選ばれたのか、特にこれといって思い当たる節もなく、こんな見せしめ的な法的督促には応じられないというのが正直な気持ちです」(青木氏)

 以下は筆者の私見になるが、青木氏の場合、住所からその職業が容易に推測できるような環境(例・○○社宅など)にあり、その仕事柄、平日の日中に裁判対策に奔走したり、精力的に情報収集を行うのは困難な立場に置かれているように思われる。そうかと思えば、中にはNHKとの民事訴訟によって自らの職業が公になることを恐れて、異議申し立てを断念したというケース(公務員宿舎に住んでいる公務員などが該当か)も数件報告されており、NHKにとってくみしやすい相手ばかりが狙い撃ちにされたのではないかという疑惑も浮上しているのだ。

 その実施の経緯も含めて、極めて不透明で不公正な印象が拭えない今回の法的督促。こんなことがまかり通るのであれば、今後、NHKが自ら引き起こした一連の不祥事の責任が顧みられることはなく、真のNHK改革など永遠に望むべくもないだろう。折しも、今国会には受信料支払い義務化を盛り込んだ放送法改正案の提出もささやかれる中、この民事訴訟がNHKのパフォーマンスに終わるのではなく、司法の場で受信料をめぐる諸問題を審理するまたとないチャンスとなることを願ってやまない。

 そのためには、民事訴訟を闘っている6人の被告の連携が不可欠であり、ぜひとも専門家による支援も仰ぎたい。いま本当にNHKがなすべきこととは何か。私たちの手でそれを教えてやろうではないか。

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