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連載中止巡り佐野眞一さん『週刊ポスト』に手記

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 ノンフィクション作家の佐野眞一さんが、『週刊ポスト』1月1・11日合併号に「ノンフィクション再論」という3ページにわたる手記を書いている。

 『週刊朝日』連載中止事件を機に、佐野さんにはこの間、いろいろな批判が噴出した。この『週刊ポスト』には、それ以前の1月6日号から6月8日号にかけて佐野さんが「化城の人 池田大作と創価学会の80年」という連載を執筆。その連載にも批判や抗議がなされていた。

 批判のポイントはふたつ。ひとつは佐野さんが他人の著作から安易に無断引用を行っていたこと、もうひとつは直接現場取材をしていないのにあたかも体験したかのように描写を行っているという手法についてだった。

今回、佐野さんが書いたのは、直接的には「化城の人」をめぐる批判への回答だが、同時に『週刊朝日』問題を含めた自分のノンフィクションについての総括でもあった。

『週刊朝日』問題は佐野さんにとって大きな事柄で「一度は筆を握るのをあきらめようかとさえ思った」という。そして一連の批判で自分が「ノンフィクションに取り組む初心を忘れてしまった」ことに気づいたとし、こう続けている。

「私はノンフィクションとは、目と耳と足で書く文章だなどと言っておきながら、忙しさにかまけすべての取材現場に足を運んだわけではなかった。他人の著作にも尊敬の念を払わなくなっていた。また、一方の側の話だけを聞き、反対側の取材をせず、正確さを欠いた部分もあった」「『週刊朝日』の連載が一回で中止になる結果になったのは、知らないうちに謙虚さを失っていた証拠である」

「『週刊朝日』問題は、私を信じて証言してくれた関係者と、私を支えてきてくれた読者を裏切り、ノンフィクションの信頼を失墜させる結果となった」

 今回、佐野さんが書いている問題には、佐野さん個人にとどまらず、ノンフィクション界そのものの抱える問題として議論すべき事柄もある。佐野さんが、批判を浴びて沈黙するのでなく、こんなふうに言葉を発したことは評価したいし、これを機にノンフィクション界で議論が行われることを望みたい。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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