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篠田博之の「週刊誌を読む」

記録映画の本質問いかけ                                                     「靖国」撮影手続き問題も

 この話題をこんなに毎週書く予定はなかったのだが、映画「靖国」上映中止問題が新たな展開を見せている。前回書いたように「表現の自由を守れ」という声が拡大し、上映予定が広がったのだが、一転して巻き返しの動きが出ているのだ。

 またしてもその一翼を担ったのは『週刊新潮』だ。4月17日号「今や受難のヒーロー  反日映画・靖国に『出演者の刀匠』もダマされていた」。映画の主役ともいうべき刀匠の刈谷直治さんが、きちんと制作意図が伝えられなかったことに不満を示し「自分の映像を一切外してほしい」と希望しているというのだ。これは自民党・有村治子議員の話を載せたものだ。

 さらに時期を同じくして、撮影現場となった靖国神社が制作側に映像削除を求めたり、ポスターに使われた男性も、そんな話は聞いてないと言い出したとか、撮影手続きをめぐる問題が一気に吹き出したのである。

 影響が大きいのは刈谷さんの発言だが、その後発行された『AERA』4月21日号を見て驚いた。刈谷さんがインタビューに応じ、作品に問題があるとは思っていないとか、映像の削除は要求しないと語っているのだ。見出しも「出演は了承していた」である。

 実は有村議員が問題にして以降、刈谷さんのところへはマスコミの取材が五十社くらい殺到したという。『週刊新潮』が報じたような発言は他のメディアも一部報道しているから、捏造ではないだろう。騒動に巻き込まれたことに刈谷さん自身が困惑し、動揺したのかもしれない。

 これだけ騒ぎが大きくなると、撮られた側からもいろいろなリアクションが出てくる可能性は十分ある。それが全部クリアできないと上映できないとなると、ドキュメンタリー映画は成立しなくなるだろう。だから、あくまでも上映は行うと表明している制作・配給側の姿勢は正しい。ただこの問題、ドキュメンタリー映画とは何かという本質に関わる事柄だから、きちんと議論すべきだと思う。

 今回は奈良少年調書流出事件をめぐる話も書こうと思ったが、紙幅が尽きたので次回に回そう。言論・表現をめぐる大事な問題がこのところ頻出である。