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篠田博之の「週刊誌を読む」

出版社の内実赤裸々に                                                     調書流出講談社報告書

 前回の本欄記事に読者から問い合わせも来たので少し補足しておこう。映画「靖国」の主役ともいうべき刀匠・刈谷直治さんが「映像を削除してほしい」と言ったという話だ。 

 刈谷さんの発言は多くのマスコミが報道したが、ほとんどが四月十日に取材したものだ。その日、報道陣が刈谷さん宅に殺到、順番待ちをして最後の方に話を聞けたのが『AERA』の記者だった。そして同誌4月21日号に掲載された刈谷さんの、映像の削除は要求しないという発言がなされたのだという。

 その発言内容が他のメディアと全く違うものなので注目を浴びた。しかも記事が少しわかりにくい書き方なので、なかにはこれは記者が直接刈谷さんに聞いたのではないのではないかと疑う人もいた(問い合わせてきた人もそうだった)。

 この刈谷発言問題は今「靖国」上映騒動の最大の焦点になっているのだが、情報が錯綜し、混乱も起きている。私がここで書いたような経緯も含め、事実がどうなのか、もう少し丁寧に検証し報道されるべきだと思う。

 さて、本題の奈良少年調書流出問題だ。四月九日に講談社の第三者委員会報告が発表され、十四日には精神科医の公判も始まった。第三者委員会報告は、講談社のホームページにアクセスすると全文を読めるから、ぜひご覧になってほしい。出版社の社内事情を赤裸々に公開したという意味で異例のものだ。  

 特に興味深いのが、入手された調書が社内でどんなふうに利用されたかの経緯だ。『週刊現代』編集長が単行本の出版に反対してどなりまくった話などリアルに描かれている。報告書では登場人物は匿名だが、この編集長とは加藤晴之前編集長だ。週刊誌の取材方法や社内編集部間の関係など、報告書は実に詳しく書かれている(ちなみにこの報告書に単行本の著者である草薙厚子さんは大いなる異論を唱えている)。

 気になるのは、雑誌ジャーナリズムに深く関わる問題なのに、今回この件を『週刊朝日』と『フライデー』以外、週刊誌がほとんど取り上げていないことだ。映画「靖国」問題も『週刊新潮』以外、取り組みが弱いし、どうしちゃったのかという感じである。