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篠田博之の「週刊誌を読む」

原発専門家と「原子力ムラ」

 「安全」「安心」という政府の説明と裏腹に、福島原発が深刻な状況だ。それを伝える報道のあり方をめぐっても、様々な議論が起きている。

 原発事故直後からテレビに専門家がたくさん登場したが、よくわからなかったのが、それぞれ原発についてどういうスタンスの学者かということだ。それがわかると、どういう立場からの発言か理解でき、メディアリテラシーが働くのだが、テレビはそういうことへの配慮が全くない。

その学者たちのバックグラウンドについて週刊誌が様々に論じている。『週刊現代』4月23日号によると「原発研究者の世界は『原発ムラ』などと呼ばれ、基本的に原発推進者ばかりである。電力会社は研究者たちに共同研究や寄付講座といった名目で、資金援助する。その見返りに研究者たちは電力会社の意を汲んで原発の安全性を吹聴する」

記事によると、原発ムラの頂点に立つのが東京大学大学院工学系研究科のOBたち。それに抗して原発の危険性を訴えてきたのが京都大学原子炉実験所の今中哲二助教や小出裕章助教らのグループ。「彼らのうち誰一人、教授になっていないという事実が、学内での微妙な立場を物語っている」。彼らは原発ムラの中で迫害にあいながら原発の危険性を訴えてきたというのだ。

ところが『週刊ポスト』4月22日号も「原発危機を訴える人々のバックグラウンドを公開する」と題して、原発専門家の分析をしているのだが、『週刊現代』とは全く評価が異なる。「現在、反原発派はいわば"勝ち組"だ。だからといって、彼らの意見が全く正しいことにはならない」。反原発の学者にかなり批判的だ。

同誌の特集は「原発と放射能『過激な嘘』が暴走する」。マスコミの一部で危機煽りがなされ、不安を広げているとして、『週刊現代』を名指しで批判している。そのあたりのスタンスの違いが、学者の評価にも反映されたのだろう。

メディア自身も当然ながら一定のスタンスをもって報道をしている。大事なのは言論の多様性が確保されることで、例えば「反原発」を旗幟鮮明に掲げる『週刊金曜日』なども貴重な存在だ。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

 

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