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篠田博之の「週刊誌を読む」

刑事裁判、真相解明どこに 和歌山カレー事件判決

 最高裁で死刑判決が出た和歌山カレー事件の林眞須美さんに五月初めに面会した。彼女とはもう足かけ十一年のつきあいになるが、死刑確定の重圧は、やはり大きくのしかかっているようだ。朝、刑場に連れ出されることを知らされ、「えっこんなに早いの?」と口にする。そんな夢をしょっちゅう見てうなされるという。

 四月半ばに面会した折、上下トレーナーや靴下、ハンカチなど真紅で揃えたものを頼まれて差し入れた。無罪を勝ち取るという意思表示のために、四月二十一日の判決日は全身を真紅に飾って迎えるというのだ。しかしその願いも虚しく、判決は上告棄却だった。

 『週刊現代』5月1623日号でジャーナリストの魚住昭さんがこう書いている。「動機は不明。犯行を直接裏付ける証拠も自白もないのに死刑だなんて滅茶苦茶な話である。『たとえ十人の真犯人を逃すとも、一人の無辜を罰するなかれ』という司法の理念を思い出すべきだろう」

『週刊朝日』5月8日号で田原総一朗さんもこう書いていた。「刑事裁判の大きな目的は事件の真相解明であり、その意味では今回の最高裁判決は中途半端と言わざるを得ない。動機不明のままでは、とても真相を解明し得たとは言えない」

 動機不明というのは、和歌山カレー事件とは何だったのか、殺人事件だったのかそうでなかったのかという事件の根本がわからないということだ。田原さんは「刑事裁判の大きな目的は事件の真相解明」だと書いているが、宮崎勤死刑囚始め何人かの死刑囚と関わってきた私の率直な感想を言えば、今の裁判所はもう真相解明という課題に応えられなくなっているような気がしてならない。事件は解明できないが、前例にならって処罰は行う。その傾向は、裁判員制度の導入でもっとひどくなると思う。

 先の『週刊現代』の記事で魚住さんは、和歌山カレー事件最高裁判決についての報道を分析し、採点している。毎日・読売・東京新聞が七十点、朝日新聞が四十五点、産経新聞が四十点、そして日経新聞が二十点だ。

 裁判員制度の導入で報道のあり方もまた大きく問われることになる。

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