NHK受信料督促裁判を考える

月刊『創』6月号

10人を超える弁護団が正式に発足!

NHK受信料不払い裁判
遂に弁護団が法廷で宣言

本誌がこれまで連続して取り上げてきたNHK受信料裁判だが、
ついに弁護団が正式に法廷に臨み、これは公共放送のあり方を
真っ向から問う重大な裁判になることを宣言した。

 4月4日、NHK受信料督促裁判を受けて立つ弁護団の結成が正式に発表された。本誌読者の中には、この日、会見で紹介された被告(と呼ぶことには抵抗があるのだが便宜上この呼称を使用することにする)のプロフィルが、本誌がこれまでお伝えしてきた青木雄一氏(仮名)のそれとは異なっていることに気づかれた人もいるかも知れない。2月28日に青木氏の民事訴訟の第一回口答弁論が開かれた直後に、それまで本人訴訟で闘っていた別の被告が弁護団に合流。その人物をここでは仮に今井和夫氏(仮名)と呼ぶことにするが、今井氏の民事訴訟はその段階ですでに東京簡裁から東京地裁へと移送されており、第二回口答弁論の期日も間近に迫っていたことなどから、依頼の順番は相前後するものの、今井氏の裁判に合わせる形で、弁護団のお披露目となった次第だ。
 今井氏がNHKから督促を受けることになった過程などは後述するとして、まずは弁護団とNHK側が初めて法廷で対峙することになった、この日の裁判の模様からお伝えすることにしよう。

弁護団のうち7人が法廷に出席
 

 4月4日午後1時30分、東京地裁504号法廷において、今井氏を被告とする受信料督促裁判の第二回口答弁論が開始された。15枚の傍聴席を求めて、集まった傍聴希望者は約40人。今井氏本人の出席こそ見送られたものの、被告側代理人席には梓澤和幸弁護団長を筆頭に、澤藤統一郎弁護士、飯田正剛弁護士、日隅一雄弁護士、秋山亘弁護士、大沼和子弁護士、杉浦ひとみ弁護士ら総勢7人の弁護団メンバーが着席。NHK側の代理人は3人だったが、もともとあまり広くない法廷が窮屈に感じられるほどだった。
「前回、被告の本人尋問をするという話をしましたが、今回から代理人がつきましたのでその点は留保します」
 という綿引穣裁判官の第一声の後、まず梓澤団長が口火を切った(以下、法廷内での発言は、すべて筆者のメモに基づく再現であることをお断りしておく)。
「次回、準備書面に対する反論を提出しますが、今回は、本訴訟に対する弁護団の考え方を述べたいと思います。
 被告(今井氏)以外にも、何人か同じような立場に置かれている人がいますが、NHKという巨大組織を相手に、しかもこれだけマスコミ等で話題になっている件で、対応するわけですから、世間の風を気にしながら臨むわけであります。それでも、あえて火中の栗を拾うつもりで、(民事訴訟を)受けて立った被告を、我々は法律家として支持すべき真実があると判断いたしました。
 NHKの契約書によると、その後、解約することができないようになっています。契約の際に十分な説明がなされたのかなど、契約論としても申し上げることが多々ありますが、この訴訟の意味は、元来、公共放送たるNHKが負うべき役割、国民一人一人の力では到達することのできない真実に迫るジャーナリズムとしての使命が重要であるにもかかわらず、(番組改変事件のように)過大に政治家の意思を忖度するなど、真実を伝えているとは言い難い現在の状況や一連の不祥事に対する責任について、厳しく追及していくものになると思っています」
 単に、消費者契約法や民法的な分析だけにとどまらず、NHKが本来負うべき義務を果たしているかという見地からも積極的に切り込んでいくという、弁護団の基本方針が改めて表明されたかっこうだ。続いて、澤藤弁護士から以下のような発言があった。

公共放送のあり方を問う重大な裁判

 「我々は、この問題は大問題だと捉えています。裁判によってもたらされる影響の規模が、関係当事者だけにとどまらず、とてつもなく広範囲なものになるからです。それは国民の多くがNHKと契約しているからということだけではなく、メディアのあり方や民主主義のあり方そのものにも、大きく関わってくることになるでしょう。本訴訟では、契約法のみならず、放送法の問題点など、すべてにおいて論述しなければ不十分だと考えています。まさに、これから前例のないところに踏み込んで、契約論、憲法論を論述しなければならないのです。次回までに、とてもすべての主張を整えることはできませんが、問題の輪郭だけは示したいと思っています」
 次回の口答弁論までに、なるべく時間が欲しいと主張する弁護団に対して、
「どのぐらいほしいの?」
 と綿引裁判官。弁護団との間で日時についての簡単なやり取りが交わされた後、
「では、6月の中旬にアウトラインを明らかにするということでいいですか?」
 と同意を求められたNHK側の代理人だったが、
「通常通り進めてください」
 と答えるにとどまった。
 最後に、澤藤弁護士から、「同様の被告の裁判との併合」「被告本人の意見陳述」、さらには今後弁護団の数が増えることを見越した上での「大きな法廷への移動」などの要望が出され、次回期日は6月27日午後1時30分から504号法廷に一応決定したものの、場合によっては、法廷ならびに日時の変更も有り得るという含みを残して終了することになった。
 その後、午後3時から司法記者クラブにおいて、澤藤弁護士以下2名の弁護士が記者会見を開き、弁護団の結成を正式にマスコミに発表。
「NHKが信頼に応える放送、報道をするのに対して、視聴者が受信料を支払うというのが放送法の本来の趣旨。信頼を損なっても解約できない契約は無効とも言える。公共放送が何によって成り立つかを正面から問う重大な裁判になる」
 と訴えるとともに、弁護団の陣容が最終的には在京の弁護士10人を超える規模になることや、現時点で3人の30代男性(地裁2件、簡裁1件)から弁護の依頼を受けていることなどを明らかにした。
 この会見の模様は、翌日、新聞などで報じられたが、同日付の「読売新聞」電子版の記事によれば、今回NHKの法的督促に対して異議申し立てを行い民事訴訟に発展した8件のうち、すでにこの日までに、5件までもが分割払いを申し出て和解を余儀なくされていたという。もし、弁護団が結成されていなければ、まさにNHKのシナリオ通りに事態が推移していたのは明らかであり、その流れに待ったをかけた弁護団の存在意義は決して小さくないと言えるだろう。

不払い裁判に踏み切った3人の経緯

 では、弁護団に弁護を依頼している3人の被告とは、いったいどのような人達なのであろうか。改めてここで振り返っておくことにしよう。
 まず一人目に紹介するのは、本誌既報の青木雄一氏。都内東部に在住する妻子持ちのごく普通の会社員である。支払督促によれば、請求金額は4万1850円(その後、4万7430円に増額)。02年5月28日にカラーの放送受信契約を締結し、支払区分・支払コースを訪問集金・毎期払とすることに合意するも、04年4月以降は不払いになっているとされる。支払いをやめたのは、当時借金などで金銭的に余裕がなかったこともあるが、律義に払っている人だけがバカを見るような現行の受信料制度に大いに疑問を感じたことも、その理由の一つだったという。
 民事訴訟の第一回口答弁論はすでに2月28日に終了しているが、その場では、青木氏に代理人がついたことをNHK側に文書で通告しただけで、第二回口答弁論の期日は5月9日に予定されている。依然として簡裁マターではあるものの、弁護団の結成が明らかになったことで、今後は地裁に移送され、他の2件と併合審理になる可能性が高い。
 2人目に紹介するのは、はからずも今回の主役となった今井和夫氏。都内中部に在住。支払督促によれば、請求金額は5万3010円(その後、5万8590円に増額)。03年2月8日にカラーの放送受信契約を締結し、支払区分・支払コースを口座振替・6カ月払とすることに合意。その後、支払区分・支払コースを訪問集金・毎期払に変更するも、03年8月以降は不払いになっているとされる。支払いをやめたのは、NHKの番組内容に不満を感じたことが大きかったというが、その後の一連の不祥事や放送命令の受け入れなど、疑問に感じていることが多々あるという。
 異議申し立て直後に地裁に移送されたこともあり、2月23日に開かれた民事訴訟の初公判はマスコミの注目を集めたが、答弁書のみが提出されただけで本人は出廷しなかった。当初、4月4日の第二回口答弁論での本人尋問が予定されていたが、初公判後に弁護団に合流したため、今回のような仕儀となった。早ければ、次回の口答弁論で自ら意見陳述を行う可能性もあるという。
 そして最後に紹介するのは、高橋真也氏(仮名)。氏は、都内西部に在住する独身男性で、以前は会社勤めをしていたが現在は自由業。異議申し立て後、地裁に移送され、本人訴訟で臨むべく準備を進めていたが、本誌5月号でも紹介した阪口徳雄弁護士のブログで弁護団結成を知り、本誌ホームページを通じて連絡してきた。支払督促によれば、請求金額は4万1850円(その後、4万7430円に増額)。03年11月8日にカラーの放送受信契約を締結し、支払区分・支払コースを訪問集金・毎期払とすることに合意するも、04年4月以降は不払いになっているとされる。高橋氏によれば、
「NHKの集金人が来たのは、いまの住居に引っ越してきてまだ間もない頃で、ゴタゴタしていて忙しかったこともあり、早く帰って欲しいという単純な気持ちから、言われるがままにお金を払ってしまいました。その際に、集金人が『領収書にサインしてください』と言って紙を出したので、そこに名前を書いてハンコを押しました。NHKの主張によれば、それが契約書だと言うのですが、その時もいまも、私にはNHKと契約したなどという意識は微塵もないというのが正直な気持ちです。その後、集金人が来る度に2回ぐらいは払ったように記憶していますが、04年4月頃から仕事の都合などで集金人に面会できない状況がしばらく続き、そのうちに例の磯野事件(04年7月)が発覚したこともあって、支払いをやめることにしたのです。訪ねてきた集金人に『NHKの状況が改善されるまでは払うつもりはない』と告げると、それで引き下がったように見えましたので、以降はそのまま放っておきました」

最後まで闘う決心がついた

 高橋氏のもとへ、契約を締結した証拠としてNHKから送られてきた「契約書」のコピーを見ると、契約者の名前と住所の欄に書かれている筆跡が明らかに異なっていることが分かる。常識的に考えて、「契約書」の住所を他人が代筆するというのも奇妙な話であり、集金人が〝確信犯的″に高橋氏を錯誤に陥らせた上で、「契約書」にサインさせた可能性も否めない。高橋氏が続ける。
「何故、自分のところへ支払督促がきたのか、その理由は分かりませんが、もし巷間言われているように、NHKにとってくみしやすい相手を意図的に選び出し、見せしめにしようとしているのであれば、ずいぶんと姑息なやり方だと思います。
 最初は正直言って、払えないような金額ではありませんし、素直に支払督促に応じたほうが得策かとも思ったのですが……。このままNHKに言いたいことも言わずに引き下がったのでは、きっと後悔するだろうと思ったのです。幸いにして、いまの私は時間的にも余裕のある立場にいますので、売られたケンカなら買ってやろうじゃないかと(笑)」
 昨年末、支払督促を受け、さっそく異議申し立て書をしたためたという高橋氏。受信料を支払うのをやめたのは、現在のNHKの制度や姿勢等に納得がいかないからであり、不払いはそれらに抗議するための一つの権利であると主張したという。その後、簡裁から地裁への移送が決定し、4月17日に第一回口答弁論が予定されていたのだが、前述した経緯により3月中旬頃、本誌編集部に連絡。弁護団に合流する運びとなったのである。
「不払いがこれほど問題になったのは、現在のNHKに対して不信任を表明している人がそれだけ大勢いるということだと思います。にもかかわらず、NHKという大組織が、集めた受信料を使って、さらに好き勝手をするために裁判まで起こして、自分に意見しようとする弱い立場の人たちを封じ込めようとしているのです。今回、法的督促を受けた人たちの多くが、裁判にかかる手間、費用、時間的コストなどを考えて、泣き寝入り的に督促に従う道を選ばざるを得なかったことはよく分かります。しかし、ここでみんなが言いなりになっても、NHKという組織の問題点は何一つとして変わらないのではないでしょうか。当初、本人訴訟で闘っていくことには少なからず不安もありましたが、こうして弁護団という強力な後ろ盾を得たことで、最後まで闘い抜く決心がつきました」
 高橋氏の裁判は、現在、今井氏の裁判との併合の上申が提出されている。

本誌に寄せられた様々な情報提供

 弁護団結成に伴い、3人の被告の横のつながりができたことで、より今回の法的督促の実態が明らかになりつつあるが、編集部が開設したサイトを含め、この間たくさんの人から意見や情報提供が寄せられている。その中に、気になる内部告発があったので最後に紹介しておきたい。
 その告発者を仮にA氏と呼ぶが、A氏によれば、NHKは今回の法的督促に先立ち、通常の集金人とは別に、「特別収納」と呼ばれるスタッフを大量に動員しているというのである。この「特別収納」のスタッフは、「K」「C」「F」などという数社の人材派遣会社を通じて派遣されているようなのだが、どうやら、いわゆる不祥事の後、大量に発生した受信料支払い拒否者への取り立て業務を専門に行なっているらしい。
 A氏の証言によると、NHK側は不払い者の個人情報をコンピュータ上でピンクやグリーンに色分けして管理しており、「特別収納」スタッフには、ここ2年以内に不払いを開始した契約者の個人情報のみが渡されているという(一説には、それ以前の不払い者の記録は残っていないとも言われ、法的督促の対象からは除外されている可能性が高いとも)。これまで本誌が再三に渡って指摘してきた不透明性についても、「対象者の選定は無作為ではなく、取れそうなところだけを狙い撃ちにしている。裁判には絶対に勝たなければならないからという説明を受けた」というのだが……。
 弁護団とNHK側の本格論戦が始まる次回以降の裁判を刮目して待ちたい。
 なお、弁護団は記者会見で正式に、今後も法的督促を受けて裁判に至る人たちの弁護を無報酬で引き受ける、と表明している。督促状を受け取った人はぜひ本誌に連絡をいただきたい。

[フリーライター]七瀬恭一郎

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