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「現代書林」逮捕事件を報じた『創』2012年1月号記事を公開

 
 〔編集部より〕さる2013年5月10日、横浜地裁で出版社「現代書林」及び関係者に無罪判決が出されたことは月刊『創』7月号に書いたが、この事件について詳しく報じた『創』2012年1月号「薬事法違反容疑で『現代書林』逮捕事件の行方」をここに公開する。無罪判決が出たことでこの事件、改めて注目されているのだが、言論出版のあり方に関わる大事な問題を突きつけていると言える。


 
 最初の家宅捜索は1月25日だった
 
 新宿区にある出版社「現代書林」が最初に家宅捜査を受けたのは、2011年1月25日のことだった。
「午前中、トントンとドアを叩く音がしたので開けると5~6人の背広姿の人たちが立っていました。何だろうと思ったら、『神奈川県警です』と言うのです。薬事法違反容疑で、というのですが、話を聞くだけかと思ったら、いきなり強制捜査だったのです」
 そう語るのは坂本桂一社長だ。同社は隣接する2つのビルに分かれて事務所があるのだが、それぞれ数人ずつ、計10人以上の捜査官が訪れていた。
「契約書はないか、とか言われたのですが、問題とされた本はもう10年近く前に出版したものですからね。押収する資料もあまりなく、2時間あまりで引き揚げていきました」(同)
 その本とは2002年4月に出版された『医師・研究者が認めた! 私がすすめる「水溶性キトサン」』だった。中木原和博・中井駅前クリニック院長が監修、医療ジャーナリストの石田義隆氏が執筆したものだ。健康食品「水溶性キトサン」について医者や専門家の話をまとめたもので、実際に試してみた体験者の証言も掲載されていた。当時よくあった健康食品本で、発売当時は巻末に取扱店のリストも掲げられていた。
 その巻末に一番目立つように連絡先が記載されていたのが、八王子に本社のある健康食品メーカー「キトサンコーワ」だった。同書は1万部発行されたのだが、同社がそのうち5000部を買い取っていた。現代書林では、その3年前にも『「水溶性キトサン」衝撃の治癒力』という本を出版。同じように買い取りがなされていた。同社では自費出版の一種と考えているようだが、事前に企画部という部署が交渉をして制作費などを負担してもらうというビジネスのやり方が多かったらしい。この本の出版当時は、8年前に退社した武谷紘之元社長が企画部の統括をしていた。
 当時は健康食品ブームで、体験者の証言などを載せた本の出版と抱き合わせで健康食品を販売するやり方は「バイブル商法」と呼ばれていた。現代書林の本でも「水溶性キトサンで直腸ガン、肝臓ガンに打ち克つ」などという体験記が掲載されていたが、特定の商品「キトサンコーワ」のPRでなく、それに含まれる「水溶性キトサン」について解説した本、しかも第三者のきちんとした取材に基づくもので、いわゆる「バイブル本」とは違うというのが同社の考え方だった。
 薬事法は第68条「承認前の医薬品等の広告の禁止」をうたい、「認証を受けていない医薬品について、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と定めている。制定当時はもちろん広告といえば新聞・放送の広告を想定していたのだろうが、今回問題になったのは、それを紹介した書籍である。警察・検察は、これを「広告」のひとつとみなしたわけだが、現代書林側は、それは一方的な拡大解釈で、問題の本が違法にはあたらないという主張である。
 かつて一時期、「がんに効く」といった健康食品本はブームになっていたが、 現在はあまり見かけない。実は2003年に健康増進法施行に伴い、書籍も一定の基準を満たした場合は広告物とみなすという厚生労働省のガイドラインが示されたからだ。これを機に、その類の本は一斉に姿を消した。現代書林でも、適法であると考えつつも、慎重を期して、それまで出版していた健康食品本を絶版にするなどし、今回問題になった本も、巻末の取扱先リストを「一丁切り」という方法で切り取っていた。
 既に一般書店への出荷もほとんどなかったから、事実上絶版になっていたような本なのだが、それがなぜ今この時期に捜査の対象になったのか。しかも健康食品メーカーのほかに、出版社も罪に問われ、編集者やライターが4人も逮捕されるという大事件になったのか。12月 27日から始まる裁判を見ないと背景などよくわからぬ点も多いのだが、編集者やライターがいきなり逮捕されるという今回の事態は、言論・出版の自由という観点からも大きな問題を提起しているように思う。そうした点への考察の前に、まず1年近くにわたった捜査の経緯をたどっておこう。

 捜査の過程で変更された公訴事実

 最初の家宅捜索の後、担当編集者が神奈川県警に呼ばれ、事情聴取を受けたのは、2月に入ってからだった。
「その時点では、弁護士にも相談して『それほど心配しなくてもよいのでは』と考えていました。出版社としては関連して事情を聴かれているだけだろうから、静観していればよいのではないか、という受け止め方でした。
 ところが次にゴールデンウイーク前に再び編集者が呼ばれ、行ってみたら、被疑者になっていたのです。同時に出版当時の元社長や執筆したライターの自宅へも警察が来て、取調べを受けたことがわかりました。
 元社長の武谷は、今は業務を全く離れており、軽井沢に自宅があるのですが、そこにわざわざ神奈川県警が出向いたようなのです。その時はただ話を聞くだけで帰ったのですが、その後警察に呼ばれたので弁護士に聞いてみると、任意だから行く必要はないだろうというアドバイスでした。だから上申書を提出することにしたのです。私も5月に入ってから上申書を提出したし、弁護士から意見書も提出しました。
 薬事法違反という容疑は聞かされていたし、取調べの過程で、メーカーのキトサンコーワが弊社の本を一緒に送るというセット販売のようなことをやっていたらしいとも聞かされました。でも当時だってセット販売はやってはいけないというのが業界の常識だったし、もちろんキトサンコーワが買い取った本については弊社としては全く関知していません。
 警察からはキトサンコーワとは接触するなと言われていましたから、私たちは、具体的に何が問題になってどういう捜査が行われているのかよくわからなかったのです」(坂本社長)
 ちなみに、後に10月6日、関係者が一斉に逮捕され、翌7日に勾留された時点での勾留状によると、被疑事実として、キトサンコーワが2009年6月から翌年7月にかけて6人に書籍を発送したことが、「広告」にあたるとされ、また、書籍を製作したことが、医薬品販売行為の「幇助」にあたるとされていたのだが、10月26日の起訴状での「公訴事実」からはそれらがいずれもなくなっていた。それに代わって、09年から11年にかけて一般書店でその本を販売・陳列していたことが「広告」にあたるとされていたのだった。警察はセット販売を想定して捜査を始めたようなのだが、どうもそれで立件はできないということになったようなのだ。
「いや、もし仮にセット販売が行われていたとしても、それが直ちに薬事法違反にあたるということにはならないと思っています」
 そう語るのは、現代書林側の弁護人を務める永野剛志弁護士だ。今回、4人もの逮捕が出たことで、弁護側も4人の弁護士が弁護団を構成することになった。永野弁護士によると「今回の警察・検察のやり方は不可解であり、憤りを感じることばかりで、そもそも関係者を逮捕する必要など全くなかったのではないか」というのだ。

 執筆者の自宅にもいきなり家宅捜索が

 前述したゴールデンウイーク直前の神奈川県警の動きについて、もう少し紹介しておこう。今回逮捕・勾留されながら勾留満期で不起訴となったライターと元社員に話を聞いた。
「4月28日の朝8時過ぎでした。自宅に突然警察官4人が訪ねてきたのです。
神奈川県警だと言って、いきなり捜査令状を見せられたのでびっくりしました」
 そう語るのはフリーライターの石田義隆氏(54)。問題の本の執筆者だが、編集者の指示で取材執筆をしただけで、買い取りの件などキトサンコーワとのやりとりには関わっておらず、なぜ逮捕までされることになったのか、いまだにわからないという。
「警察は段ボールを用意してきていて、パソコンの本体や書籍、名刺、ノート、帳簿などを押収していきました。さらに私は千葉県の市川市に住んでいるのですが、市川署まで来てほしいと言われ、そこで10時から午後4時頃まで取調べを受けました。
 どういうふうに取材をしたのかとか、いろいろ聞かれました。『体験者の中には、そんなことは言っていないという人もいるが、ウソを書いたり誇張して書いたりしてないか』などと言っていましたね。
 容疑が薬事法違反であることも聞かされ、『本に販売先のリストも載っているのだから、これは広告でしょう』と言われました。私はよくわからなかったものだから、その時は『大きな意味で言えばそうかもしれませんね』と言いました。後にこれが、容疑を認めたと報道されてしまったようなのですが、その調書の記述についても、私はそういう意味で言ったのではないので訂正してほしいと後で言ったのですが、応じてもらえませんでした」
 家宅捜索を受けるだけでも大変な経験だったが、後に10月6日に逮捕にまで至る。「信じられませんでしたね。日本でこういうことがあるんだ、と思いました」結局不起訴になるのだが、実名報道されたことで近所にも知られることになり、打撃は測り知れないという。
 もうひとり後に逮捕された元社員H氏も、連休直前に取り調べを受けていた。ちなみにこの元社員は、2年前に現代書林を退社し、2011年春に二度目の転職をしたばかりだった。入社して約半年でいきなり逮捕されたわけで、転職先の会社も驚いたに違いない。不起訴となったことで会社側も理解してくれたが、起訴されていたら解雇された怖れもあった。
 H氏は現在の会社にも迷惑がかかるからと取材を受けるにも慎重で、記事にする際には匿名でという条件で話を聞くことができた。問題とされた本の出版当時は現代書林企画部に所属し、武谷元社長がキトサンコーワとまとめた契約に基づいて契約書作成などにあたったという。
 実際の取材・執筆は、ライターと起訴された編集者が行ったのだが、H氏も取材などに同席することはあったという。
「連休直前だったと思いますが、転職中で自宅にいたら突然、神奈川県警南署の刑事から電話があって、話を聞きたいので来てほしいと言われたのです。1週間ほどして南署を訪れ、午後1時から6時頃まで事情を聞かれました。調書には既に『被疑者H』と書かれていたので、『私は容疑者なのですか?』と聞いたら、刑事は『その通りだ』と言いました。
 取り調べに入ると、刑事はいきなり本を取り出して、『これは誰が見ても広告だろう』と言うので、私はそういう認識ではないと答え、押し問答になりました。それからキトサンコーワに販売した5000部の使いみちについても訊かれたので、『それは知らない』と答えると、『そんなはずはないだろう』と、またも押し問答になりました。押しの強い刑事で、私の言うことなどなかなか聞いてくれませんでしたね」
 この間、今回起訴された現代書林の編集者らも事情聴取を受けているし、坂本社長の上申書や弁護士の意見書など、現代書林側は何通もの文書を提出している。そして7月6日には、問題とされた本を印刷した印刷所にも刑事が足を運んでいる。
「印刷屋さんがびっくりして連絡してきたのです。印刷部数などは既に警察に教えていたのに、わざわざ確認しに行ったようです」(坂本社長)
 この7月初めの動きを最後に、捜査の目立った動きはなくなった。3カ月ほど全く動きがなかったために、現代書林側は、もう嫌疑が晴れたのではと思い、弁護士と相談して、押収された物の返却を求める書類を提出しようと考えていたという。その文書を出そうとしていた矢先の10月6日、突然、一斉逮捕が行われたのだった。

 青天の霹靂だった10月6日の一斉逮捕

「私は朝早く起きるのが習慣で、その日も風呂に入っていたのですが、6時少し前、風呂から上がると、突然、元社員で今はフリーの編集者をしている知人から電話があったのです。ネットか何かのニュースで『きょう逮捕へ』と報道されていたというので知らせてくれたのです」
 逮捕の日のことを、そう語るのは坂本社長だ。
「私も驚いて、それまで取調べを受けていた誰かが逮捕されるのだと思い、片っ端から電話を入れました。まず編集者の自宅へ電話すると、奥さんが出て、『さっき連れて行かれた』と言われました。次にライターに電話すると、奥さんが出て、『今取り込み中です』と言うのです。元社長と元社員については、電話をしてもつながりませんでした。
 大変なことになったと思い、とにかく会社へ行かなくてはと、7時頃出社しました。各方面と連絡をとって、どうも4人が逮捕されたらしいことを知りました。
 警察が会社へ家宅捜索に来たのは9時か10時頃でしたね。たぶん10人以上来たと思います。帳簿類やメモ、パソコンのデータなどを押収されたのですが、特にパソコンのデータは、特殊な機械を持ってきていて本体からコピーしていくのですが、それに時間がかかり、引き揚げていったのは昼過ぎでした」
 坂本社長が電話した時、「取り込み中」だったライターの石田氏の状況はどうだったのか。本人に聞いた。
「朝6時半頃でしょうか、私は寝ていたので家内が出たのですが、神奈川県警の刑事4人がいきなりやってきたのです。家宅捜索令状を持ってきていて、最初にパソコンや本を押収されました。4月の時と違って今回はパソコン一式、キーボードやモニターも押収されました。
 その捜索が一段落したところで逮捕状を示され、『逮捕します』と言われたのです。『共犯者もいるし最低10日は帰れない。もしかすると20日くらいかかるかもしれない』と言われたので、自分の部屋で着替えや少しのお金などを用意しました。ちょうど締切が幾つか迫っている時だったので、家内に連絡してもらわないと迷惑がかかる。どこへどういう連絡をするか、メモに走り書きをしました。
 家を出ると車が用意されていて、そのまま湾岸道路を経由して横浜南署まで連れていかれたのです。警察署に入る時にはテレビカメラ2台、スチールカメラ2台が待ち構えていました。私はその時になっても事態が信じられず、何かの間違いだ、話せばわかってもらえるはずだと思っていました。でも結局、10月26日まで満期勾留され、連日取調べを受けたのでした」
 元社員H氏の自宅にも朝6時半過ぎに刑事4人が訪れた。
「私は朝早く家を出るので、その日もちょうど出かけようと準備していた時だったのですが、6時半頃いきなり呼び鈴が鳴ったのです。『神奈川県警南署の者です』と言って刑事4人が立っていました。『家宅捜索令状が出ていますので協力して下さい』と言うのです。
 家宅捜索といっても、本が出てから10年近くたっているし、現代書林を退社して2年もたっていますからね。押収するものなどほとんどないのです。結局、30分ほどして簡単な書類やノートパソコン、履歴が残っている携帯電話などを押収した後、『これからあなたを通常逮捕します』と言われました。20日間は帰れないと言われたので、指示されるまま着替えやタオルなどをカバンに詰めました。『カード類など余計なものは入れないで下さい。帰りに使う定期券などと身分証明書は構いません』ということでした。
 それから1時間半ほど車に乗せられて、横浜南署へ連れていかれました。留置されたのは都築署でしたが、その日の取調べは南署で、9時半から昼食をはさんで午後も、さらに夕食も取調室で弁当を食べ、夜まで行われました。昼に弁護士さんが接見に来てくれて、『20日間で終わりますから頑張って下さい』と激励されました。取り調べを終えて都築署に移されたのはもう夜8時過ぎだったのではないでしょうか。着いたとたんに『もうすぐ寝る時間だ』と言われました」

 連日行われた厳しい取り調べ

「逮捕の日から21日間身体拘束されましたが、取り調べがなかったのは1日だけでした。その間、地検の取り調べも9回も受けました。
 26日に釈放されるのですが、その日も昼前から検事の取調べがありました。釈放されることは教えられなかったので、手錠・腰縄姿で護送される時、『これは長くなるなあ』と思いましたね。本当は夜に釈放だったらしいのですが、弁護士が掛け合ってくれたようで、午後1時過ぎに都築署に戻ってからいきなり『釈放だ』と言われました。1時53分、釈放でした」(元社員H氏)
「取調べは連日、朝9時半か10時から昼まで、1時間半くらいの昼食時間をはさんで午後も1時半から5時まで。後半には5時を超えることもありました。神奈川県警本庁から来たという刑事が、自分でパソコンを打ちながら取調べをし、もうひとりが立ちあっているのですが、とにかく時間がかかる。毎日取り調べるほどの内容だとは思えないのですが、細かい事実を何度も訊いてくるのです」(ライターの石田氏)
 逮捕直後から現代書林側もすぐに体制を整え、弁護士4人が交代で連日、分散留置されていた4人に接見を行った。
「弁護士さんが最初に接見に来たのは逮捕された当日の夜9時半頃でした。私が曖昧な答え方をしたため、容疑を認めたかのような調書をとられてしまったことについても、弁護士さんからアドバイスを受けました。その後、弁護士さんは、交代で毎日、時には1日2回も接見に来てくれました」(石田氏)
 逮捕者への取調べと並行して、警察は関係者を何度も呼び出して事情聴取を行った。現代書林の社員も何度か呼ばれ、坂本社長も神奈川県警に1回、横浜地検に2回呼ばれている。
 結局、勾留満期の10月26日、逮捕された4人のうちライターの石田氏と元社員は不起訴で釈放され、元社長と現役編集者が起訴された。
「その日10時55分、突然、もう帰っていいからと釈放されました。不起訴になったことも後で聞きました。釈放の時は理由も何も説明されないのです。外へ出て誰か迎えに来てないかと思ったら誰も来てない(笑)。帰り道もわからないので警察に訊きましたよ」(石田氏)
「起訴された2人についてももちろん保釈申請はしています。元社長は72歳と高齢で、膠原病と糖尿病を患っており、膠原病では一時生死の境をさまよったこともあったほどです。編集者も不整脈で薬を飲んでいます。そういう健康状態を訴え、早く保釈してほしいと申請しているのですが、今のところ認められていません」(坂本社長)
 起訴された2人はいまだに保釈されず接見禁止も解けていない。否認をしていると保釈も認めないというこういうやり方は非難も多いのだが、検察側は強気のようだ。早く公判を開始して、保釈をという期待もあって弁護士がかけあって、第一回公判は年末、12月27日に行われることになった。キトサンコーワの女性社長も容疑を否認しており、被告3人の統一公判となる。
 永野弁護士に丸の内の事務所で話を聞いた時に、問題の商品『キトサンコーワ』を見せられた。
「裁判ではこれが薬事法上の医薬品にあたるかどうか問われることになりますが、見ていただければわかるように、効能も書かれていないし、むしろ「健康維持食品」とはっきり明記されている。これを販売したからといって、薬事法に定める医薬品の販売にはあたらず、薬事法違反にはならないのです。
 裁判の争点は幾つもあると思いますが、今回の書籍がその『広告』にあたるかどうかも問題です。この本をキトサンコーワという商品の『広告』と言うのは、どう考えても無理があります。この本はそのほとんどの部分が水溶性キトサンについて書いたもので、キトサン自体は専門家にも認められ、それについての学会もあるくらいです。
 さらに10年近くも前に発売された書籍がどうして今頃になって問題になるのか。万が一、薬事法違反が認められたとしても、既に時効が成立していますからね」(永野弁護士)

 「捏造」「改ざん」など報道をめぐり提訴も

 問題の書籍が薬事法違反にあたるかどうかは裁判で争われることになるのだが、それと関連して現代書林が憤っているのは、逮捕時の報道だ。「効能の証言 捏造か」(朝日新聞)「内容『ほぼでっち上げ』」(神奈川新聞)などと、薬事法上の問題と別に、この本自体がでっち上げだという報道が新聞などでなされたのだ。
記事を読むと、明らかに警察情報に依拠しているのがわかる。意図的なリークと言ってもよいかもしれない。
 警察は捜査の過程で、本に登場している医師や専門家にも事情を聞いているのだが、一部の医師の中には「取材を受けた記憶がない。名前が勝手に使われたのではないか」などと言っている人がいるというのだ。坂本社長が憤慨して語る。
「本を見てもらえばわかりますが、ちゃんとインタビューし、実名も写真も載っている。こんなものを無断で捏造するなんてありえないでしょう。ちゃんと取材対象者には本も送っているし、謝礼も払っています。だいたい、本が出て10年近くたっているのに、これまでそういう人からクレームが来たことはなかったですからね。
 捏造だという報道がなされたので、弊社としても当時取材させていただいた方々に連絡をとっています。確かになかには、もう10年近くも前のことなので『覚えていない』という人もいます。『でも、先生から頂いた謝礼についての自筆の請求書がこちらに残っているのです』と説明しました。いずれにせよ事件に関わりたくないという思いはあったと思うので、警察に事情を聞かれた時に、『知らない』と答えたケースもあるのではないですか」
 監修者となっている医師も薬事法違反の容疑をほぼ認め、自分が語っていないことが本に書かれているという趣旨の供述をしていると言われるが、この医師は東京のクリニックをやめてしまったようで、連絡がとれないという。この医師は書類送検となっているのだが、恐らく裁判でこの供述は検察側から証拠調請求されるのではないだろうか。
 本を作るにあたっていい加減な取材・編集がなされていたかどうかは、直接薬事法違反かどうかの争点にはならないが、裁判所の心証形成には意味を持ち、情状に関わってくる。しかも、何よりも現代書林はいまだに出版社として活動しているのだから、ここのところは死活問題でもある。
「いくら警察がそう言ったとしても、裏をとらず誤ったことをそのまま報道したというのでは責任は免れない」(永野弁護士)
 現代書林側は既に神奈川新聞などを相手に名誉棄損等の損害賠償請求訴訟を提起することを決めているという。
 裁判が始まってみないと、まだわからない点も多い。だからこのレポートは引き続き裁判の経緯を伝えるつもりだ。しかし、事件全体を通して気になるのは、フリーライターや編集者をいきなり逮捕してしまうという、今回の捜査のあり方だ。逮捕をしなくても取り調べを行うことは十分可能だったはずなのに、敢えて一斉逮捕に踏み切った背景には、警察側の思惑があったとしか思えないのだ。
 逮捕後の報道に使われた写真や映像には、1月の家宅捜索の時に警察が撮影したと思われるものも含まれていたという。警察としては、この事件のインパクトを強め、大きく報道させて社会的警告を発したいという意図が読み取れるのだ。
 言論・出版に携わる者が突然逮捕されるという事態が前例となっていけば、必ずそれは萎縮効果をもたらすだろう。たとえ裁判で被告が無罪となっても、そういう萎縮効果がじわじわと出版界に影響をもたらす怖れもある。その意味では、この裁判は単に薬事法の問題だけでない側面を持っているともいえる。
 二度目に夜遅く取材に訪れた時、坂本社長は社内に一人残っており、「逮捕からずっと私は会社に泊まり込んでいるのですよ」と語っていた。現代書林側は、裁判で全面的に争うつもりだという。

篠田博之

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