ネット右翼と言われるグループの抗議行動を受けて、5月22日に主催者側が中止にしてしまった新宿ニコンサロンでの慰安婦写真展だが、6月22日、裁判所の仮処分により、再び開催が決定。6月26日から7月9日まで展示が行われている。
6月26日の開催初日には、新宿西口駅前には右派グループの掲げる日の丸が林立。「在特会」「主権回復をめざす会」など、映画「ザ・コーヴ」上映中止事件でも抗議行動を展開したグループが会場に抗議に押し掛けた。
混乱を理由に再び写真展が中止になるのでは、と懸念する声もあったが、警官や警備員が多数動員され、荷物の中まで開けさせるという、過剰ともいえる警備が行われたこともあり、最悪の混乱は避けられた。在特会の桜井会長らが会場に入って、写真家の安世鴻(あんせほん)さんに詰め寄るなど緊迫した場面もあったが、何とか乗り切れた。安さんは、「表現の自由を守る」という意思表示のため、初日はもちろん、その後も会場に連日姿を見せている。
2日目以降は大きな混乱もなく、中止事件について報道で知った市民らが連日大勢、足を運んでいる。
裁判所の決定に対してニコン側は異議申し立てを行ったが、それも却下された。ニコンに遠慮して、日本ではJVJA(日本ビジュアル・ジャーナリスト協会)以外は写真家団体も何の態度表明もしていないが、イギリスなど海外では写真家らが抗議声明を発するなど反響が広がっている。6月22日の裁判所の決定についても、日本の新聞は朝日・東京は大きく報道したが、読売・産経・日経などはベタ記事。慰安婦問題が何となく日本ではタブーになっている状況を反映した。 その後も海外報道機関は、この問題を活発に報道しているようだ。
日本の言論・表現をめぐる状況を映し出したこの事件、とりあえず7月9日までは写真展が開催され、会場に安さんもいるので、近くへ行かれる人は足を運んでほしい。
象徴的なのは、ネットで写真展を非難する騒ぎが5月19日の朝日新聞中部版をきっかけに起きてから、わずか3日でニコンが中止を決定してしまったこと。そして、仮処分の過程で明らかになった中止理由が「写真展の政治性」だったこと。つまり、抗議がくるような政治的なテーマについては、写真展を開催しないと言ってしまったようなもので、言論表現の閉塞状況がますます深刻化しそうな気配なのだ。
この問題が悪しき方向に教訓化されないように、何が問題なのか、もっと活発な議論がなされることを期待したい。
一連の詳しい経緯については、7月6日発売の月刊『創』8月号で報告している。
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