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月刊「創」ブログ

昨夜の「原発報道を考える」シンポと福島取材要請文の公表

IMG_0466.jpg 5月22日文京シビック小ホールでの「原発報道を考える」シンポジウムが無事終了。わざわざ来ていただいたのに満席のため入場できない方もいたそうで、まことに申し訳なく思います。
シンポは充実した中身でしたが、出演者が7人もいて、さらに明日再審判決の出る布川事件の当事者の発言もと盛りだくさんすぎる内容で、じっくり議論する時間がとれなかったのは残念でした。ユーストリームでの中継も行いましたが、録画を何日間か見られるようにしましたので、ぜひご覧下さい。

 さて、ここで公表するのは、そのシンポジウムで明らかにされた福島原発取材をめぐる要請文です。既にたくさんの方が賛同人に名を連ねており、近々、政府・東電に届けようと思っています。20キロ圏内での取材や原発作業員への取材規制を緩和してほしいという趣旨なのですが、これは実はいろいろ議論すべき事柄を含んだ提案です。
既に4月段階から、新聞・テレビの大手マスコミは原発敷地内での取材を自主規制し、そこでの取材・撮影はフリージャーナリストが行うという、イラク戦争の戦場取材と同じ状況になっていました。4月22日以降、フリーも20キロ圏内への立ち入りは規制されることになったため、今回の要請は、それを緩和せよという内容なのですが、危険地域の取材をめぐっては、例えばメディアの労働組合などはまた別の考え方をしています。今回の要請については、民放労連や新聞労連にも議論を呼びかけていますが、この議論はそう単純ではないのです。

なぜ取材規制に反対するかといえば、現在の政府・東電の発表を伝えることに重きを置いた報道には大きな限界があり、権力の監視・チェックというジャーナリズム本来の役割を果たすためには、独自取材の機会をもっと拡大しなければいけないと思うからです。1号機のメルトダウンが今になって発表されるという事態を見ても、メディアが本来の機能を果たせていないことは明らかです。
現在、市民のマスコミへの不信感は相当なもので、原発報道については、取材のあり方を含めて、メディアに携わる者は真剣に議論する必要があります。

そこで議論の叩き台とするために、昨夜のシンポで公にした「福島第一原発敷地内と『警戒区域』内での定期的な取材機会の要請」をここに公開します。起草したのは綿井健陽さんですが、長い戦場取材の経験のある綿井さんならではの視点が垣間見えます。
この趣旨に賛同される方は賛同者になってください。お名前と肩書きをお寄せ下されば追加していきます。また、この要請の内容についても意見のある方は意見をお寄せ下さい。そういう議論を踏まえたうえで、遠くない時期に政府・東電に要請を行う予定です。

【共同アピール】
福島第一原発敷地内と「警戒区域」内での定期的な取材機会の要請  

東日本大震災から2カ月が経過した現在でも予断を許さない状況が続く福島第一原子力発電所(福島第一原発)において、長期的かつ継続的な視野に立った情報公開とそれを実現するための取材機会を提案するとともに、東京電力と福島原子力発電所事故対策統合本部(本部長=菅直人首相)に以下要請します。

1 福島第一原発敷地内での定期的な取材・撮影機会の実現を

 3月11日以降、福島第一原発敷地内での映像や写真は東京電力や自衛隊が撮影・提供したものにほぼ限定されてきました。しかし、原発敷地内で現在起きていることは一企業の事故範囲を超えて、国内のみならず世界が注視する重大な社会的事態といえます。その期間はもはや短期間ではなく、数十年にも渡って長期的かつ継続的に対応・検証しなければならないことであり、その公共性は極めて大きく、様々なメディアを通じて広く国内外に知らされるべきことです。したがって、それらを伝えるメディアによる取材・撮影を実現させるべく、同原発敷地内を今後は定期的・継続的(少なくとも月に数回程度)に報道陣に公開する機会を設けるよう要請します。
メディアからの個別の取材申請を受け付けるのが前提ですが、それに対応できない場合はプール(集団)取材方式であっても早急に実現を望みます。規定の防護服を着た報道陣をマイクロバスに乗せて同原発敷地内に入れ、同原発係官らの案内によって説明をうけつつ取材・撮影するような形が考えられます。免震棟での様子のほか、放射線量限度の可能な範囲で敷地内の様子の取材・撮影、第一原発所長や作業員との質疑応答などの機会を要請します。

2 福島第一原発・作業員らへの定期的な取材・撮影機会の実現を

同原発で働く作業員たちの様子は、これまで主に匿名・顔出しNGを条件にメディアで報道されてきました。しかし、高い放射線量の危険な状況下での任務を背負う彼らの役割と立場は、もはや一企業に所属する社員・スタッフを超えて、原発の事態を収束させる"公務"に近いものであり、彼らの現状と声や姿は広く知らされなければならない公共性があると考えます。したがって、今後は原発作業員たちの定期的・継続的な記者会見を実施されるよう要請します。裁判員制度が始まって以来、裁判員の会見等が行われていますが、それに似たような形式でも早急に設けるべきです。また原発作業員たちの拠点となるJビレッジの様子も同じく、定期的かつ継続的な取材・撮影機会を要請します。

3 20キロ圏内の「警戒区域」内の定期的取材・撮影機会の実現を

福島原発から20キロ圏内の「警戒区域」については、4月22日以降「立入禁止」となっていますが、これも定期的に公開されて取材できる機会を要請します。警戒区域内の状況がその後どうなっているのかを知らせるために、報道取材の立ち入りを認めるよう警察庁にも要請します。少なくとも月に数回程度は報道陣が警戒区域内に入って取材・撮影できるような機会を設けるべきです。
これまで20キロ圏内では警察が行う行方不明者捜索活動や「一時帰宅」への同行取材等がありましたが、今後はそうした同行取材に限定するものではなく、ある一定時間の範囲において自由に現地で取材・撮影する形が考えられます。合わせて20キロ圏内に入って取材を行う者への罰則規定を除外するよう望みます。それまで人が居住していた地域を「立入禁止」とした以上、その地域の定期的な情報公開は民主主義国家において必要不可欠なものといえます。

(補足)
上記のような取材機会は、本来は各メディアが個別に東電や同事故対策統合本部に要請することが大前提であります。しかし、これまでの福島原発の状況を伝える極めて限定的な現地報道を見る限り、どのような取材・撮影体制であっても、福島原発敷地内とJビレッジと警戒区域内に、定期的・継続的にメディアが入れるような最低限の環境を東電と同事故対策統合本部に認めさせる要請が先決・重要であると考え、このような取材機会を提案しています。
これまで東電本店、経済産業省、統合本部等で行われている記者会見では、実際の現場の様子が直接確認できず、また提供写真・映像だけで、その検証も議論も外部からできないまま事態が推移してきました。東電は第一原発での個別の現場取材依頼に対してはほとんど応じていない現状を考えれば、原発敷地内と作業員の様子を国民に定期的かつ継続的に提供することは、政府・東電はもちろん、メディアにとっても極めて重大な「国民の知る権利」にこたえる社会的責務といえます。

以上のような取材・撮影・インタビュー・記者会見の機会と情報公開に向けて、6月からの速やかな実現を目指して、東京電力と同事故対策統合本部に協力を要請します。

2011年5月22日

●呼びかけ人
綿井健陽(フリージャーナリスト)/広河隆一(『DAYS JAPAN』編集長)/篠田博之(月刊『創』編集長)/他
●賛同者
青木 理(ジャーナリスト)/石高健次(ジャーナリスト)/石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)/伊田浩之(『週刊金曜日』編集部)/岩崎貞明(『放送レポート』編集長)/江川紹子(ジャーナリスト)/ 大谷昭宏(ジャーナリスト)/大塚敦子(フォトジャーナリスト)/ 小田桐誠(ジャーナリスト・大学講師)/落合誓子(ルポライター/作家。石川県珠洲市在住)/ 落合由利子(写真家)/桂 敬一(メディア研究者)/河内 孝(フリーランス・ジャーナリスト)/草薙厚子(フリーランス・ ジャーナリスト)/小池正春(放送ジャーナリスト)/坂上香(ドキュメンタリー映画監督/津田塾大学教員)/白石 草(OurPlanetTV)/神保哲生(ビデオニュース・ドットコム)/須藤晶子(フリーランスエディター)/田原総一朗(ジャーナリスト)/玉本英子(ジャーナリスト)/土江真樹子(映像ジャーナリスト)/戸田桂太(武蔵大学名誉教授)/永江朗(フリーライター/早稲田大学文学学術院教授)/中島岳志(北海道大学教員/永田浩三(武蔵大学教授)/野中章弘(ジャーナリスト/アジアプレス代表)/橋場義之(上智大学教授)/畠山理仁(フリーランスライター)/服部孝章(立教大学社会学部教授)/宮台真司(首都大学東京教授)/安岡卓治(映画プロデューサー)/原 寿雄(ジャーナリスト)/藤森研(専修大学教授)/松本良次(筑摩書房編集者)/元木昌彦(編集者)/桃井和馬(写真家・ジャーナリスト)/森功(ノンフィクションライター)/森達也(作家/監督)/山口一臣(前『週刊朝日』編集長)/和仁康夫(ジャーナリスト)/他

●問い合わせ・連絡先
日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)事務局   綿井健陽 
TEL : 090-6101-6113 <twatai@pop01.odn.ne.jp>

上記1~3の取材にあたる報道陣は、以下のような同事故統合対策本部の会見に現在参加できる協会・機関の加盟社(者)の中から、自発的な意思と安全確保の自己責任でもって臨む記者・カメラマン等で構成・対応されることを現時点では仮に想定しています。

【参考・福島原発事故対策統合本部の共同記者会見に現在参加可能な方々】
1 日本新聞協会会員
2 日本専門新聞協会会員
3 日本地方新聞協会会員
4 日本民間放送連盟会員
5 日本雑誌協会会員
6 日本インターネット報道協会会員
7 日本外国特派員協会(FCCJ)会員及び外国記者登録証保持者
8 発行する媒体の目的、内容、実績等に照らし、1から7のいずれかに準ずると認め得る者
9 上記メディアが発行する媒体に定期的に記事等を提供する者(いわゆるフリーランス)

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◇被害から25年目の今、性犯罪受刑者との対話を望む
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