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テレビ・新聞の大相撲賭博スキャンダル報道は、伝えるべきことを伝えているのか。

 連日繰り広げられるワイドショーなどの大相撲野球賭博報道は、例のごとく表層的でうんざりしていたのだが、7日朝のテレ朝「スーパーモーニング」など、ちょっと違ったアングルが目について面白かった。それは、この騒動の渦中で貴乃花親方が辞表を提出するという事件があったからだ。そもそも、今回のスキャンダルでは、貴乃花親方を支えていた「改革派」が壊滅状態になったとされるのだが、これが果たして偶然なのか、あるいは深い意味があるのか。これ、結構大事なポイントだと思うのだが、テレビはこれまでほとんどそこに触れなかった。
 それ以上に大事なのは、今回のスキャンダルがいったいどういう流れの中で噴出し拡大していったかなのだが、こういう分析もテレビはほとんどやっていない。周知のように、野球賭博騒動は、『週刊新潮』のスクープで火がついたのだが、ディ―プスロートというべき情報提供者がいたことは記事を読めばすぐにわかる。しかも、その後琴光喜の恐喝事件は立件され、捜査の進展とともに様々な事実が判明するのだが、最初の『週刊新潮』の記事の骨格は驚くほどしっかりしていたことが立証されていく。
 この時点では、たぶん相撲協会内部に、この機会に角界の膿を出そうと考えた者がいて、敢えて週刊誌に情報提供したのだろう、と思っていたのだが、そうではなかったことが後に判明する。それは、大嶽親方(元貴闘力)の告白によってだった。今回の騒動は、最初に琴光喜が自分が賭博で勝った500万円を回収しようとして動いて、逆に「口止め料」として1億円をよこせと恐喝脅されたというのが、『週刊新潮』の記事の骨格なのだが、この500万円云々は実は大嶽親方の話だったという。それがどうして琴光喜の話になったか、という事情を、大嶽親方は『週刊文春』7月8日号で詳しく説明している。
 実は、元ヤクザに恐喝されて困った大嶽親方は「知人から紹介された警視庁の警察官に一連の経緯を相談して、アドバイスしてもらいました」「ただ、相談した警察官には『自分ではなく琴光喜の件で』とウソをついてしまった。今となっては後悔するばかりですが、保身に走ってしまった。私が相談した方とは別に警察側の誰かが『琴光喜が賭博で脅されている』と『週刊新潮』にリークしたのでしょう。記事には琴光喜の名前が大きく出ています。これはまずい――そう思いました」
 これ、なかなか重要な証言で、つまり親方がついたウソがそのままスクープされたというのは、『週刊新潮』にリークしたのが警察筋であることを証明している。そのスクープがその後の捜査の方向に合致していたのも、そう考えれば当然のことだ。
 これでわかることは、今回のスキャンダルが、相撲協会は既に自浄能力を失い、外から揺さぶらない限り改善されない、と判断した警察の意志、大きく言えば国家意志によって火をつけられたということだ。ほぼ時を同じくして、「砂被り」席が暴力団に便宜供与されていたというスキャンダルも報道されるが、こちらも出所は警察だ。2つのスキャンダルは別のルートだったかもしれないが、いずれも警察発で、ある種の意図が働いていたことは明白だろう。
 問題は、角界と暴力団の関係にメスを入れようとした国家意志が働いたとして、果たしてこの騒動が向かう先は何なのか、ということだ。興味深いのは冒頭に書いたように賭博問題で告発され打撃を受けたのが、貴乃花親方を取りまく「改革派」だったことで、つまりこれは「角界の近代化」そのものが持つ矛盾を象徴的に示しているといえる。
 相撲界と天皇制はよく似た構造を持っている。つまり時代に合わせて近代化しようと手をつけ始めると、その本質を否定してしまいかねない矛盾に次々と逢着してしまう。膿を出して近代化を、といっても近代化自体が自己矛盾なのだ。だから今回の騒動に働いている意志が、果たしてどこに落とし所を見出そうとするのか。そこをきちんと見ないと、この騒動の本質を見誤ることになる。

 それからもうひとつ、今回のテレビ・新聞の報道で意図的に触れられていないのだが、例えば『週刊文春』7月1日号を読むと、「何十年も前から、麻雀、花札、将棋で賭けるのは、角界の日常風景でした」とか「ほとんどの力士が『こんなこと書かないよね』と記者たちの前でも堂々と賭けて、悪びれるそぶりもなかった」といった、相撲記者のコメントが載っている。つまり賭博は角界の体質にしみこんでいたし、相撲記者たちもそれを目にしてきたというのだ。でも、そうだとしたら、今になって連日のように大報道で力士たちを倫理的に断罪するマスコミも、過去一緒になってその体質を温存させてきたのではないか。様々な角界の不祥事がほとんど相撲記者会に所属していない週刊誌の告発から始まっている現実を、もう一度新聞・テレビは考えてみるべきではないのか。
 そのことに触れずにいまや掌を返したように正義や倫理をかざして追及報道を行うマスコミに、この構造的な問題を本質にまで切り込んでいく見識や資質があるのだろうか。そんな疑問を感じてしまうのだ。
 と、ここまで書いた時に、NHKが名古屋場所の中継をやめたというニュースが飛び込んできた。この騒動、いったいこれからどうなるのだろうか。  (7月6日)

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