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月刊「創」ブログ

児童ポルノ法改定と青少年条例改定は昨年来どう連動してきたか


 昨日の都条例改定に反対する漫画家会見は、朝日新聞が1面で報じたり、テレビのニュースでも扱われるなど大きな報道となった。新聞では東京新聞も社会面で大きな扱い。毎日や産経も記事にしている。ようやく12日頃から新聞記事が出始めたこの問題だが、一気に大きな話題になった。
 昨日の集会でも、今までこういう動きがあったのを知らなかったという発言が多かったのだが、実は昨年来、児童ポルノ法と青少年条例改定の問題は水面下で連動しながら着々と動いていたのだ。ほとんど報じられていないその経緯について、詳しく報告したのが『創』2010年1月号の長岡義幸さんのレポートで、これがこの間、改めて注目を浴びている。
 その関心の高まりを受けてアマゾンなどでもこの号の追加注文が入るなどしているのだが、事態が風雲急を告げているため、『創』はここに、そのレポートを公開することにした。大手出版社にはありえない太っ腹な判断だが、あと数日のうちに条例改定が採決されてしまうという大事な局面に細かいことを言っている場合ではない。
 同時に、このサイトでは、この間出された改定に反対する声明や意見書もできるだけ紹介し、リンクを張っていきたいと思う。
 では以下、『創』1月号に掲載された「児ポ法、青少年条例など性表現規制強化の動き」(長岡義幸)の全文である。
(『創』編集部・篠田博之)

児ポ法、青少年条例など性表現規制強化の動き
長岡義幸[インディペンデント記者]

 

 勢いを増す「児ポ法」改定の動き

 児童ポルノ禁止法の改定の動きが勢いを増している。最大の争点は、児童ポルノの「単純所持」処罰規定の新設と、被害児童の存在しない創作物を児童ポルノの範ちゅうに含めて、取り締まりの対象にするか否かという問題だ。


 現行の児童ポルノ禁止法では、児童ポルノの製造と販売、有償無償にかかわらず他人への提供目的の所持が処罰対象。これに加えて、日本ユニセフ協会やECPAT/ストップ子ども買春の会などの民間団体、自民党・公明党の規制強化派は、児童ポルノを持っていること自体(単純所持)を犯罪とするべきだと主張する。「(電子化された画像・動画の場合)それまで所持していただけの一人のマニアが、気が変わってファイル共有ソフトを使った瞬間に全世界に拡散してしまう」「ファイルの漏出を防ぐ手段は所持することを禁止する以外にない」というのが犯罪化の典型的な理由だ。


 現在、G8(主要8カ国)のうち、単純所持規制を行っていないのはロシアと日本のみ、国際協調のために日本でも制定すべきとも主張する。11月20日に国会に上程された自民・公明の改定案では、過集や雑誌を手もとに残していたり、たまたまネット上からダウンロードしてパソコンのハードディスクに保存していたりすれば、1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科すといった内容が含まれた。


 しかし、海外の先例から反対派は恣意的取締りや冤罪のおそれを指摘する。


 さらに、マンガ・アニメ・ゲーム(規制派の用語ではバーチャルイメージ)などの創作上の性的表現も、「表現の自由を尊重するあまり、子どもを性的な対象とすることを許せば、子どもの人権を深刻な危険にさらす」などとして、規制対象にしようとする動きが加わっている。自公法された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するものと児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進する」という条項が挿入された。


 児童ポルノ禁止法の目的は、被害児童の救済のための個人法益に重きを置いたものであるにもかかわらず、規制強化を求める側は、社会法益を全面に立てて法の目的を転換させようとしている──。反対派はこのような声を上げ、本来の目的に合致するよう法律の所管官庁を厚生労働省にするべきと訴える。だが、自公の法案にはまったく反映されていない。


 同時進行するかたちで、規制強化を後押しする動きも地方レベルで起きている。法律にもとづいて東京都が設置する都青少年問題協議会は、児童ポルノ禁止法の強化を国に求めるべきだとする答申を策定している真っ最中だ。


 11月24日付の答申の素案には単純所持規制について、「国民的合意の下で全国一律に実施されることが適当であり、国会において早期に法律による犯罪化を実現することが必要である」と記され、児童を性的対象にするマンガなども追放・根絶の機運を醸成すべき対象と明記した。その上、「意図せざる所持が処罰の対象とないよう配慮することは当然である」と留保を付けつつも、「規制の対象が現行児童ポルノ法よりも狭まることのないよう留意することが必要である」と釘を刺した。現行法でさえ、捜査当局の恣意的な解釈の余地があると訴える民主党や社民党の議員を牽制するかのような記述だ。


 青少協は、さらに、青少年が「有害」情報に触れないように携帯電話のフィルタリングを義務付けたり、これに従わない保護者には勧告を行えるようにしたり、出版物の条例による規制や自主規制の要求をしたりと、様々な規制強化策を検討するよう都知事に要請する見通しだ。


 児童ポルノ禁止法の改定問題を中心に、国会や東京都で過激化する表現物規制の動向を以下、詳しく報告する。


 『サンタフェ』を素材に国会で論戦


 児童ポルノ禁止法の改定強化にかかわる前哨戦は、6月26日の衆議院法務委員会での審議だった。当時の与党自民党・公明党は、児童ポルノの「単純所持」の処罰規定の導入を目指した改定案を提出し、これに対して民主党は「取得罪」を対置。それぞれの法案に対する質疑や参考人質疑を通じて、規制の問題点が露わになった。次のようなやりとりが典型だ。


 枝野幸男議員(民主党)「例えば宮沢りえさんの『サンタフェ』を初めとして、本法(児童ポルノ禁止法)施行のずっと前から、18歳以上なのか、18歳未満なのか。調べれば『サンタフェ』はわかるのかもしれません、撮影当時17歳だったのか、18歳になっていたのか。あるいは、初期の関根恵子の映画とか、いろいろなものがありますよ。18歳未満の特に女性が裸になっている、しかも、大手の一般の出版社や大手の一般の映画会社から配給されたDVDなどが出ているというものはあります。(中略)こういったものを、自分の家の中にあるかどうか探して、全部捨てろということを与党案は言うんですね」


 葉梨康弘議員(自民党)「大手の出版社が出したからといってオーソライズされるわけじゃないんですよ。大手の新聞社だって時々間違いを書くんです。ですから、その意味でいったら、社会の中で、18歳未満の児童のポルノ、これについてはしっかり廃棄をしていきましょうというようなことがあれば、それは、この一年間の猶予期間があるわけですから、そういったものをやはりちゃんと廃棄していくということは、私は当然のことじゃないかと」


 現行法では、児童ポルノの定義はこうなっている。
1.児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、
2.他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首)を触る行為又は児童が他人の性器等(性器、肛門又は乳首)を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3.衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの


 第1、2項の描写物を取締り対象にするのは当然として、問題は「3号ポルノ」と呼ばれる第3項の規定だ。枝野議員が疑義を呈したのは、篠山紀信が撮った宮沢りえの写真集『サンタフェ』の扱い。3号ポルノの条文をそのまま当てはめれば、『サンタフェ』も児童ポルノとされかねない。150万部以上売れたベストセラーだから、自公の改定案が通れば現在も保存している多くの人々が単純所持罪に問われることになってしまう。


 そのことを自公案の提案者である葉梨議員に質したところ、法施行の猶予期間中に廃棄せよと答えたのだから、危惧ではすまないことが明らかになった。ちなみに葉梨議員は警察庁の元キャリアだ。


 法務委員会では、児童ポルノ禁止法と共謀罪の連動の可能性も明らかになった。社民党の保坂展人議員(当時)は、日本ユニセフ協会が6月4日、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンセミナー『法改正の次にくるもの―法執行の取り組みと課題について』と題した集会を開き、講師となったFBI駐日代表が「児童ポルノの捜査のためには共謀罪が必要だ」と発言していたと指摘。自公推薦の参考人として出席していた首都大学東京法科大学院の前田雅英教授に感想を聞いた。前田氏の答えはこうだった。


 「一般論としてお答えしますと、やはりアメリカの現場では、本当に児童ポルノに対して厳しい感覚を持っていて、徹底して調べる。その捜査官の人の話を伺ったことがあるんですが、そのためにはやはり共謀罪というのは有効なツールだと彼らが考えているということは容易に推測できるというふうに思っております」


 実は、前田氏もユニセフ協会のセミナーの講師の一人だった(出席者によると、FBI駐日代表の発言前に退席していたとのこと)。自公推薦のもう一人の参考人で、規制派のシンボル的存在のアグネス・チャン氏も同席していたという。


 法務委員会から日を置かず、その後、自民・公明と民主の有志議員らによって、修正協議が行われた。関係者によると、自公案と民主案を折衷し、7、8割方合意していたようだ。だが、国会は解散となり、両案とも審議未了廃案となった。


 新政権発足後も水面下で動きが


 新政権発足後も、水面下の動きが続いた。それが表面化したのは11月17日のこと。同日の読売新聞夕刊が「児童ポルノ『単純所持』禁止 民・自・公が改正案」という見出しを掲げ、「児童買春・児童ポルノ禁止法をめぐり、民主、自民、公明の3党が、児童ポルノを個人が取得したり保管したりする『単純所持』を新たに禁止する改正案をまとめた。社民党などの了解を得た上で、今国会中にも提出することを目指す」と報じた。


 解散前の自民・公明・民主による修正協議では、社民は協議入りを拒絶された。臨時国会でも、関係した3党の有志議員が法案提出を模索し、改定案ができあがったということだ。この法案では、3号ポルノの条項を「ことさらに臀部を強調し」などと厳密化するとともに、新たに「所持罪」を設け、一定期間は罰則を付けないという内容だったという。


 この「合意」を受けて、社民党国会対策委員会には、自民党法務部会副部会長の山口俊一議員が「残っているのは社民党だけだ。賛成せよ」と申し入れ。他の有志議員も、民主党の枝野議員ら慎重派の議員に対して「はやく賛成してくれ」と働きかけを行った。読売新聞はこの動きを受けて、与野党が一致すると見通して記事にしたようだ。


 ところが、民主は自公の呼びかけに回答せず、社民は応じないとし、直後の自民党法務部会では「修正はまとまっていない」と報告され、自公のみでの法案提出が決まった。記者のぶら下がり取材に、自民党の高市早苗議員と公明党の富田茂之議員は、「3党の修正案でもよかったが、民主党の枝野議員が納得しなかったので」と話したという。自民党の法務部会後、部会長の森雅子参院議員らは「読売新聞の記事は誤報」とも説明したそうだ。報道関係者の一人は「思惑をもって情報を流していた議員がいたようだ。読売の記者は、それを鵜呑みにしてしまったのではないか」と見る。


 7月の修正協議をベースにした法案提出を目指していたのは、自民党の塩崎恭久議員、民主党の小宮山洋子議員ら。これに対して、森議員や当初の自公案を推進していた高市議員らが「この修正案ではダメだ」と、塩崎議員らの動きを押し戻したという見方もある。


 与野党合意の法案が提出されれば何の議論もなく、法務委員会を通り、衆参の本会議で可決されかねない事態だったが、規制慎重派と強硬派の隔たりが大きかった上に、自公内も一枚岩でなかったことから、寸前のところで議論なしの成立を阻むことができたという構図だ。


 自公が民主を加えて法案提出を急いだ理由


 ではなぜ、この時期に民自公を中心にした法案提出の動きがでてきたのだろうか。児童ポルノ禁止法の強化に慎重姿勢を貫き、自公案を批判していた保坂展人前衆議院議員(社民党副幹事長)は、その背景をこう説明する。


 「自公が民主党を加えて法案提出を急いだのは、日本ユニセフ協会などの働きかけを受け、ここで法案を通さなければ自らの発言力が弱まるという、自公の都合だったのだろう。法案提出が決まるというのでアグネス・チャンさんも、国会周辺でロビイングしていたという話もある。その裏にいたのは法務省の官僚。この際、通してしまおうと ・お手伝い・ をしていたらしい。しかし、社民党が慎重だということがこれほど大きな影響を与えるとは思っていなかったようだ。民主の枝野さんも納得しなかった。自民党の内部もごたごたしていたようで、その結果、自公だけで出しますということになったのだろう。ほんとうに危ないところだった」


 民自公の有志議員の動きを止めたことで、とりあえずは関係した議員の影響力が弱まったと見てよさそうだ。ただ係者によると、法務省は手助け以上の積極的な後押しをしていたとする。与野党合意による議員立法であれば、審議抜きの委員長提案で可決成立できる。閣法(内閣提出法律案)ならば、議員が質疑を重ねることにより、仮にそのまま成立したとしても、立法上の解釈が記録として残り、法律の運用に縛りがかかる。法務省や警察がフリーハンドを握るには「委員長提案をやらせたかった」というわけだ。千葉景子法務大臣は記者会見で法改定に理解を示しているものの、内閣提出法案にするつもりはないと話している。法務省キャリアの働きかけが奏功しているらしい童ポルノ禁止法そのものの問題点も次のように指摘する。


 「(第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議で決議された)ストックホルム宣言以来、児童ポルノを何とかしようと、われわれも議員立法に参加した。しかし、この法律をつくるときに、援助交際で大人が芋づる式に摘発されると想像した議員はひとりもいなかった。善し悪しは別にして、児童買春による事件は、児童ポルノ事件の数倍もある。単純所持の処罰が行われるようになれば、一般市民に対して、持っているかどうかカバンを調べられたり、住居を捜索されたり、パソコンをクリックされたりということが日常になりかねない。『サンタフェ』の広告が掲載されている朝日新聞の縮刷版を持っていたら、それを破棄しなければ摘発されることさえ論理的にはあり得るだろう」


 保坂氏は、創作物規制にマスコミが鈍感なことにも危機感を表明する。

 「アニメのロリキャラのように、一般的には社会的評価が低いと見なされているような、弱いところから表現の自由に対する規制が襲ってくる。新聞記者は、頭では表現規制は問題だと分かっていても、体では分かっていない。規制強化の動きを追うストレートニュースばかりで、表現の自由の問題としムの関心を呼んでないのは残念。規制側は、共謀罪が必要だと訴えているのに、そのことにも感度が鈍い」


 臨時国会での成立は現時点で押しとどめたものの、来年の通常国会では国会論戦だけでなく、マスコミも議論に参加して、問題点を深めるべきだというのが保坂氏の提案だ。


 東京都でも青少年条例強化改定を目論んだ動き


 東京都も不穏さを漂わせている。東京都青少年問題協議会が児童ポルノ禁止法の強化を側面支援するかのように、青少年条例の改定を目論んでいるところだ。


 学識経験者で構成する青少協の専門部会の第8回会合では、国会で自公推薦の参考人にもなっている部会長の前田教授を筆頭に、規制推進派が居並び、江戸の敵を長崎で討つがごとき議論が行われた。


 会議は、法務委員会の審議が行われた直後の7月9日に開かれ、現実の被害者が存在しない創作物の性的表現についての規制に議論が集中した。前田教授は〈実在する人がいなければ、どんな漫画でも許されるというのはおかしい〉〈そろそろ前に出なきゃいけないと思うんですが、出る以上は腰を据えていかないと、漫画の問題は非常に大変だと。/国のレベルも、児童ポルノで、与党案でやるということを書いただけで、ネットでものすごい数の脅迫メールとか、国会議員の担当にはものすごい来たという話を聞きましたけれども、だからこそやらなきゃいけない〉などとと提起した。


 この発言を受けて、日本誕生学協会代表理事の大葉ナナコ氏は〈漫画家の方たちがすごい議論を持ってきて、何とか法制化するという人たちに対して攻撃をするということだったんですけれども、どう考えても暴力で、エビデンスを出す時間もない、必要もないぐらい暴力ですね〉と、規制を要する客観的データ=エビデンス(証拠)は必要ないと主張。さらに、性描写のあるマンガの読者に対して〈と同じく持って生まれた嗜好だという事で、子供に対する性暴力漫画を好む人達を放免とするのであれば、彼らは認知障害を起こしているという見方を主流化する必要があるのではないか〉と問題発言を重ね、〈彼らに認知障害があり、暴力的だという事が分かっていれば、証拠が無いのに法規制出来るのかという主張を論破出来る。そうした対策を考えていきたい〉と宣言した。


 東京都小学校PTA協議会会長の新谷珠恵氏は〈マイノリティに配慮しなくてはいけないということは当然ですが、それのプラスとマイナスが相反する場合が多い〉〈マイノリティに配慮しすぎたあげく、当たり前のことが否定されて通らないというのはどうしても私は納得できない〉と語った。エッチなマンガの作者・読者は差別の対象であるのだろうか。


 非公開になってしまった青少協の会議


 以前の青少協の専門部会は、傍聴人や取材者に公開されていた。ところが、今回は、早稲田大学名誉教授で青少協副会長の加藤諦三氏が〈できるだけ静かな環境の中で議論するということと、外部からのいろいろな圧力があって発言しにくいというような環境ができないことが望ましい〉と第2回の専門部会で宣言し、非公開にした。実は、紹介した各委員の発言は議事録から引用したもの。市民の監視もなく、密室審議のなかで規制に反対するマンガ家の団体やマンガ愛好者に対する悪罵や放言を重ねていたわけだ。


 青少協の事務局である青少年・治安対策本部青少年課は、非公開にしたのは前回の条例改定を審議した04年の専門部会で傍聴者が議事を妨害したことから、今回は混乱を避けるための措置だと説明する。ただ、当時その場に私もいたが、傍聴者の一人が腕を振りながら親指を下に向ける反対の意思表示のジェスチャーをしたのを加藤氏がとがめ、退席させたものの、その後、混乱もなく平穏に議事は進み、以後の会議も公開されていた。


 11月24日には、専門部会の委員だけでなく、都議会から選出された委員や行政関係者を加えた、公開の拡大専門部会が開かれた。「密室」でまとめられた答申の素案の説明と意見交換を行い、正式な答申にするための会議だ。
 この場で明らかになった素案では、前述の通り、携帯電話や図書類の新たな規制を提案するものだった。

 メディア関連では、
・児童ポルノをはじめ、児童を生の対象とするメディア(マンガ・ゲームジュニアアイドル誌)の根のための、機運の醸成と環境の整備に努める
・国に対して、児童ポルノの「単純所持」の処罰化を強く要望する
・ジュニアアイドル誌への子どもの売り込みを行った保護者に対する指導・勧告の仕組みを検討する
・児童を性の対象にするマンガ等のうち、著しく悪質な内容のものを追放の対象として明確化するとともに、「不健全図書」の対象に追加する
・児童・生徒の性行為を描写した小・中学生を対象にする「ラブ・コミック」をレーティング(推奨年齢の表示)の対象にする
と提案する内容だ。


 議論では、民主党の関口太一都議が単純所持規制によ査権の乱用や冤罪のおそれがあると指摘し、単純所持の定義の厳格化が必要だと指摘。都合で出席できなかった民主党都議二人も書面で同様の意見表明を行い、その一方で、江東区長は書面による意思表明に激高し、規制の強化を要求。公明党都議、PTA協議会会長らは素案に賛意を示し、他の委員からは異論も出なかった。結局、一部の字句修正を行い、パブリックコメントに付すことになり、12月17日には非公開で専門部会を開いて最終的な確定作業の後、来年1月の総会では都知事に答申を手渡すことが決まった。東京都は、答申を受け取った後、青少年条例の改定案を策定、新年早々には都議会に諮る予定だ。出版社の集中する東京都での規制強化は、全国に影響を及ぼし、国に対する要請が加われば、最後の一押しになりかねない。一地方自治体の問題では済まなくなってしまうのは明らかだ。


 ジュニアアイドル誌など十数点を問題視

 拡大専門部会を前にした11月19日、表現規制に反対するコンテンツ文化研究会と連絡網AMIは、民主党の西沢圭太都議、浅野克彦都議が同席して、都青少年・治安対策本部に過剰な規制を行わないよう文書で申し入れている。パブリックコメントの活用やそれ以外の行動を重ねる必要が出てきた。


 拡大専門部会の終了後、青少年課長による記者レクが行われた。その際、問題視している出版物の例として、十数点が提示された。ジュニアアイドル誌は、『Namiのキモチ 浅岡なみセカンド写真集』『虹のしずく 真野しずくセカンド写真集』(いずれも心交社発売)、ゲームソフトは『幼辱~天使たちの檻~』(WestVision)、「児童を性の対象にするマンガ」は、『背徳恋愛6』『危険恋愛H45』『レイプvol.1』(以上、松文館)、『奥サマは小学生』(秋田書店)、『碧の季節』『08美少女同人誌徹底攻略』(以上、モエールパブリッシング)、青少協用語の「ラブコミック」(一般にはティーンズラブ)は、『レンアイ至上主義』『僕は妹に恋をする』(いずれも小学館)だ。このうち、実際に条例上の「不健全」図書に指定されているのは『レイプ』のみになる。


 東京都の青少協や青少年・治安対策本取り組みは、携帯電話のフィルタリングのように、子どもを権利の主体とは見ず、一方的に保護の対象にするパターナリズム的発想が色濃い。同時に、創作物規制を含めた児童ポルノ法強化の先取りの意味合いが強そうだ。境界線上のジュニアアイドル誌については、何らかの対処の必要性は否定しないが、それでも規制一辺倒でいいのかという疑問がある。『サンタフェ』も、いってみればジュニアアイドルものだったのではないだろうか。また、現実の被害者が存在しない創作物を規制の対象にするのは、従来の青少年に対する販売規制を踏み越え、憲法違反の内容規制・出版規制のおそれさえある。


 刑法学者の中山研一氏(京都大学名誉教授)はかつて、一見、福祉的な目的の法律や条例が実質的な治安立法として利用される「機能的治安立法」という概念を提示した。道路交通法や軽犯罪法、迷惑防止条例などが、例えば「ビラくばり」の規制に利用され、労働運動や大衆運動が取り締まられるような事態だ。


 ならば国や東京都がやろうとしているのは「機能的治安立法」ではないと、誰が言い切れるのだろうか。時間は残されていないものの、巻き返しが必要だ。

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