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漫画界に衝撃与えた「ブラックジャックによろしく」佐藤秀峰さんの告発

 「海猿」「ブラックジャックによろしく」などテレビ化・映画化された人気マンガで知られる佐藤秀峰さんのホームページ上の告発が、この何ヵ月かマンガ界で話題になっている。

 「ブラックジャックによろしく」は、元々講談社の『モーニング』で連載されていた作品だが、突然、連載が小学館の『ビッグコミック・スピリッツ』に移り、「新ブラックジャックによろしく」として今も続けられている。この移籍劇は当時、業界で大きな話題になったが、真相はわからないままだった。その真相を佐藤さん本人がweb上で告白したのだった。詳しくは下記URLにアクセスしてプロフィール欄、また「制作日記」のバックナンバーの「漫画貧乏」の項をご覧いただきたい。
https://satoshuho.com/index.html

 昨年も「金色のガッシュ」の雷句誠さんがwebで告発を行い話題になったが、こんなふうに人気マンガ家が、講談社や小学館といった大手出版社を批判するというのは、以前は考えられないことだった。というのも、マンガの世界は、集英社、講談社、小学館の大手3社で市場の60%を支配している圧倒的な寡占市場なのだ。大ヒット作品はほとんどがこの3社のマンガ雑誌で連載され、3社から出版されてきた。だから3社と対立したら、もうメジャー作品の発表の場がなくなってしまうことを以前は意味した。
 どうしてこういう寡占化が進行したかといえば、マンガは独特な作家管理システムによって成り立っているからだ。新人賞で若い新人を発掘し、編集部がマンガの作法を教えこんでいく。その代わり、著作権を含め、出版社がいわば丸抱えともいうべき形で漫画家を管理していく。そういうシステムができあがっているのだ。そうやって大手3社が市場分割をしてしまったのが実情だ。

 これはマンガが、ストーリー作りや作画などある種のチームワークによって作られていくことにも規定されている。作画自体がアシスタントによる共同作業を前提とするのはもちろんだが、特に「ブラックジャックによろしく」のような医療問題といったテーマの作品は、膨大な資料収集や取材を必要とする。マンガ家と編集部の共同作業によって作品が作られていくわけだ。問題はその共同作業において、マンガ作家と編集者がどういう関係を作っていくかということで、これまでは概ね、出版社がマンガ家を管理するという関係だった。

 雷句さんや佐藤さんのような告発が飛び出したというのは、その大手出版社の支配的なシステムが根底から揺らぎ始めたことの現れだ。どうしてそういう事態が生じたかといえば、第一にマンガがもっぱら紙媒体だった時代が終焉し、二次使用権の問題が大きくなってきたという事情がある。最近はテレビ化映画化などの二次使用について、出版社に全面委託していた慣習を見直し、エージェントと契約するケースも増えている。

 そして第2に、デジタルという新たな市場が生まれ、必ずしも大手出版社に頼らなくても作品を発表できる機会が増えたこと。また自分の意見をブログで発表するという発信の場としてもネットが使えるようになったことだ。佐藤さんのような告発は、ネットという自分の意見を自由に発信できる場ができたという事情も大きい。

 佐藤さんは今後、実験的に自分の作品のデジタル販売を、出版社に任せずに行うことも表明、その方法をマンガ家の間で共有することも提案している。

sato01.jpg これはまさに、マンガという注目ソフトがこれまでの紙媒体中心の時代から次の時代に転回しようとしている状況を象徴する動きだ。とはいっても現時点で彼のように講談社や小学館に自分の主張を突き付けていくことが大変なことであることは確かだ。大手出版社の支配体制に個人の表現者が対抗しようとしている、とあっては、やはり『創』としては、少数派の方につかざるをえず、7日発売の8月号でさっそく佐藤さんのロングインタビューを掲載している。

 Webでは詳しく語られていない「作品に抗議があった事例」などを、佐藤さんはこのインタビューで詳細に語ってくれた。自分の作品が、出版社の自主規制によって書き換えられてしまうというのは、かの筒井康隆さんの「断筆宣言」で問題になったことだが、マンガの世界は活字以上にそれが日常化していることを、佐藤さんは具体的に語っている。
 この佐藤秀峰衝撃告発、佳境はこれからだ。注目してほしい。

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