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福田次官セクハラ事件めぐるテレ朝現場への報復攻撃という気になる展開

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 何やら気になる展開になってきたので書いておこう。福田淳一財務次官のセクハラ事件だ。今、大事な局面を迎えていると言える。

 告発を行ったテレ朝女性記者Aさんとその上司Mさんに猛攻撃がかけられているなかで、Aさんがテープを『週刊新潮』に持ち込んだことや、Mさんが報告を上にあげなかったということで、テレ朝が何らかの処分を行うのでは、と言われているのだ。

 

DSCN0877.JPGのサムネイル画像ネットではこの間、AさんとMさんに対する「反安倍」「反日」などという攻撃が実名・顔写真をさらしながら行われている。4月22日の下村博文元文科相の「ある意味、犯罪だと思う」発言や、24日の麻生太郎財務相の「はめられたのではという意見もある」発言がそれを勢いづかせているのだ。つまり今回の告発を、「反安倍」派の陰謀といった構図に矮小化させようという力が働いているわけだ。

  そんな中で波紋を投げたのが4月23日発売の『週刊現代』5月5・12日号「テレ朝女性記者は社内でも有名な『反安倍』一派」という記事だ。記事中にテレ朝上層部と官邸が裏取引を行ったかのような記述があって、テレ朝は事実無根だとして抗議している。ただ、それと別に、「社内でも有名な『反安倍』一派」という、この見出しはどうなのだという問題もある。

 記事自体は何となくAさんやMさんを支援しようとしているふうに読めなくもないのだが、この見出しはそれを台無しにしている。今回の事態をそういう構図に持っていくこと自体、政権側の思うつぼではないかと思わざるをえない。

 

 記事の中身を紹介しよう。4月19日のテレ朝の会見で、セクハラを告発した女性記者が相談した上司とされた人物について、記事はそれが『報道ステーション』の元プロデューサーであるM経済部長だと明かしている。2015年に古賀茂明さんの『報道ステーション』爆弾発言事件というのがあったことを覚えているだろうか。古賀さんが生放送中に、テレ朝が安倍政権に気兼ねして自主規制し、コメンテーターを降板させ、プロデューサーを現場からはずした、と告発した、そのプロデューサーだった女性だ。その時、古賀さんの発言を怒って制止しようとしたのが篠塚浩報道局長。今回、19日未明の会見で説明を行った人物だ。

 

 会見の後、一部では、現場記者がセクハラにあっているのを知りながら上司が女性を現場に行かせたのはパワハラではないかなどという指摘をする人もいたが、実際には上司は逆に「福田から情報をとらなくていいし、会う必要もない」と指示していたという。そのあたりは24日の会見でかなり明らかになった。

 そういう事実経過は比較的正確なのだが、『週刊現代』の記事が波紋を投げたのは、なぜ19日の会見で、Mさんが悪者にされたのかという説明だった。記事に、匿名の自民党幹部というコメントが載っているのだが、それが驚くべき内容だった。実は会見前に官邸とテレ朝が打ち合わせを行い、問題をMさんのせいにすることで合意した。安倍政権に批判的なMさんのせいにすることで事態を収めようとした、というのである。本当だったら大変なことだが、前述の通り、テレ朝はこれについては事実無根として、『週刊現代』に強く抗議。送った抗議文をホームページに公開している。

 

 ちなみに『報道ステーション』の古賀さんの事件といってももう知らない人もいるかもしれないので、当時私が書いた記事を示しておこう。その後、『報道ステーション』は古舘さんの最後の放送での「ワイマール憲法」特集でギャラクシー賞を獲得したのだが、その特集の制作にあたったのもMさんだった。

 [ https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20150406-00044597/]

古賀茂明さんが「報道ステーション」で告発したものは何だったのか


 [ https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20150427-00045210/]

「報道ステーション」は大丈夫なのか? 4月24日の岡本行夫氏出演めぐる意味

 

[ https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20160602-00058386/]

報道ステーションの「ワイマール憲法」特集を大賞に選んだギャラクシー賞に感動した

 

 さて4月19日未明のテレ朝の会見では、女性記者が上司に相談したけれど、それが上に報告もされず、会社として適切な対応ができなかったと説明された。この上司が、現場記者のセクハラ告発を握りつぶしたかのような印象を持たれていたのだが、実態はそうでない。そもそもMさんは、セクハラの訴えを握りつぶすようなタイプとは正反対のジャーナリストだ。

 このことは会見の後、業界の一部で話題になり、例えば東京新聞の望月記者はツイッターにこう投稿していた。

《福田次官のセクハラ被害を訴えたテレ朝記者の上司は、私が最も尊敬する女性だ。訴えた記者も信頼を寄せている。その上司がなぜ「記事は出せない」と言ったのか。もみ消すためではない。これまでの会社の行動からすれば、逆に潰される可能性が高いと判断したという。日本のマスメディアに共通の課題だ》

《セクハラ被害を訴えたテレ朝記者の上司は、被害を記者から聞いた際、夜のサシ飲みには「もう行かない方がいい」と助言。記者はしばらく行くのを止めていたが、森友の公文書改ざん、財務省の虚偽説明が次々と明らかになる中、取材を進めるため電話に応じ、夜の会合へ。その先で一連のセクハラ被害に遭った》

 このへんの事情は24日午後に行われたテレ朝の定例会見では、19日より丁寧な説明がなされていた。恐らく関係者の間で、19日のMさんについての説明は誤解を招くという指摘がなされたのだろう。

 

 19日のテレ朝会見の説明では曖昧だったのだが、AさんがMさんに相談を持ちかけたのは、セクハラ被害の訴えというよりも、それを報道できないかというものだった。そこでMさんは、その女性記者の保護という観点からも、テレ朝が自社の記者へのセクハラを報道するというのでは、政権に真っ向から闘いを挑むことになるから、いろいろな状況を考えて難しいのではないかという意見を言ったようだ。19日以降、Aさん本人の希望もあって、テレ朝は告発したのが同社記者であることを公表し、財務省に正式に抗議も行ったのだが、これはセクハラ事件が大きな問題になっていった後のことだ。

 そうした状況に至る前の段階で、政権に真っ向勝負を挑むことについては、テレ朝だけでなく、マスメディアのほとんどが、簡単ではないと考えるであろうことは想像に難くない。実際、福田次官のセクハラ被害にあったのはテレ朝の記者だけでないし、他局の記者もあまりにひどいと会社に報告したが、結局、何の対応もとられなかったという情報もある。他社にも第2第3のAさんがいるはずなのに、それが次々と名乗りをあげて報道する状況にはなっていない。今の状況では比較的名乗りをあげやすいにもかかわらずだ。

 漠然とした形では、福田次官からセクハラを受けた他社の記者の話も週刊誌などに書かれてはいるが、他社の第2第3のAさんはぜひ具体的な告発を行ってほしいと思う。この局面で、次々とそういう声があがることは、まさにそれこそ「♯Me Too!」で、大きな力になるはずだ。

DSCN0879.JPG

 24日の会見でも明らかになったが、AさんはMさんに相談した後、自分の判断で、『週刊新潮』に話を持ち込んだようだ。同誌が福田次官批判をしようとして取材を進めているとAさんが耳にしていたのが、持ち込み先が『週刊新潮』になった理由らしい。そして同誌での告発は、具体的な音声が存在し、それが常軌を逸したひどいセクハラだったことで大きな反響を招いた。

 Mさんは相談を受けた際に、Aさんのそのテープを具体的に聞くところまでいたっていなかったらしい。具体的にテープまで聞いていたら対応が変わっていたのかどうか。今となってはわからない。

  24日のテレ朝の社長定例会見では、望月記者らも訪れ、詳細な質問がなされた。角南源五社長も篠塚報道局長もかなり詳しく説明を行っている。その内容を詳しく報じているのは、ネットの産経ニュースだ。

 また翌25日朝のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」もかなり詳しい経緯に踏み込んでいた。この番組では、テレ朝の社員である玉川徹さんが女性記者について「会社に言いたいんだけど、彼女が記者を続けたいと思っている限りは、記者を続けさせるように何とかしてくれと、ボクは言いたいんですよね」などと発言していた。社員が生放送の番組でこんなふうに会社上層部に意見を述べるというのは、考えて見ればすごいことだ。

  今回のセクハラ事件は、官僚トップのスキャンダルというだけでなく、メディアにおける取材過程でのセクハラという、メディアがまさに当事者であることが特徴的だ。記者にしてみれば取材だから、深夜でも呼び出されれば出かけていくし、そもそも夜回り取材で政治家や警察を訪ねるのは日常茶飯事だから、今回のようなセクハラにあう恐れは十分にある。実際これまでもこの手の話はかなり業界で流布されてきた。私自身も、警察幹部に夜回り取材したら無理やりキスを迫られたといった話を当該女性記者から直接聞いたことがある。

 だからこの事件は、他社のメディアがどのくらい自分の問題として捉えられるかが大事なポイントだ。福田次官セクハラ事件がこれだけ大きな問題になっていったのは、世界的にセクハラに対する批判が広がっていたという背景もあるが、報道という仕事に直結した事件だったから多くの報道関係者が積極的に取り上げたという事情もあるだろう。

 この間の報道を見ていると、例えば4月22日付毎日新聞の「記者に中傷 2次被害」という記事や、24日付の東京新聞の大きな紙面をさいての女性記者や女性管理職である文化部長の見解掲載など、テレ朝女性記者の問題を自らの問題として受け止めようという報道が目につくのは歓迎すべきことだ。

 一方で、政権とそれを支持する人たちは、一連のセクハラ告発を、安倍政権を叩こうという政治的陰謀といった矮小な構図に落とし込んで巻き返しを図ろうとしているように見える。女性記者の行動をハニートラップなどと言うトンデモない言説も出ているのは周知のことだ。

 まさに事態は、権力対ジャーナリズムという攻防戦になりつつあるのだが、こういう大事な局面だからこそ、テレ朝上層部にぜひお願いしたい。24日の会見での見解は、女性記者がテープ録音を行ったことは是認するが、それを他社へ持っていったのは遺憾だ、というものだった。どうも会社としてはそこで線を引こうとしているように見える。

 AさんやMさんへの何らかの処分が出されるのではないかと言われているが、それがどういう意味を持ってしまうかよくよく考えてもらいたい。Aさんが週刊誌に話を持ち込んだことは、確かに企業としては認めるわけにはいかないことかもしれないが、ジャーナリズム全体として考えれば、何とかして世に訴えたいというジャーナリズム魂にのっとった行為であることは明らかだ。 

 かつてジャーナリズムをめぐる議論が盛んだったころには、日本の記者は会社人間の側面が強すぎる、社員である前にジャーナリストであるべきだ、といった意見がよく出されたものだ。

 今まさにAさんやMさんに対して、テレ朝内「反安倍」一派の陰謀だなどとして個人攻撃が行われている現状で、そういう攻撃をしかけている人たちを喜ばすようなことはないように、テレ朝上層部にはお願いしたい。

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日野不倫殺人事件の24年目の現実

1993年12月、日野市のアパートが放火され、子ども2人が焼死した。逮捕された北村有紀恵さんは無期懲役の判決を受け、服役中だ。その彼女の置かれた現実を通して贖罪について考える。
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