月刊「創」ブログ
森達也『A3』講談社ノンフィクション賞受賞めぐる応酬
森達也さんの本『A3』が先頃、講談社ノンフィクション賞を受賞したことは既に報じられているが、これに対する抗議が講談社に対してなされている。オウム真理教という微妙なテーマを扱っていることに伴う異例の事態といってよいだろう。
抗議を行ったのは日本脱カルト協会。抗議文の全文がホームページで公開されている
http://www.jscpr.org/activity.htm#20110903
2日に会見を開いたため3日付の朝日新聞と産経新聞がそれを報じている。産経新聞は結構大きな記事だ。ネットにアップされた記事は以下の通り。
http://www.asahi.com/national/update/0903/TKY201109030104.html
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110902/trd11090221060023-n1.htm
この抗議に参加している滝本太郎さんや青沼陽一郎さんは『週刊文春』7月28日号でも、『A3』を批判するコメントを出しており、これに対して森さんは発売中の『創』9・10月合併号で反論し、公開論争を呼び掛けていた。
『A3』への授賞を決めた選考会の議論は、発売中の雑誌『g2』(講談社)に公開されており、なかなか興味深い。特に中沢新一さんが選考委員としてこの作品をどう評価したかは、関係者の注目を浴びていた。9月5日の授賞式には、中沢さんが選評の挨拶に立ったのだが、なぜか「挨拶は短くと言われたので」とほとんど内容に踏み込まず、東京会館のパーティールームを埋め尽くした参加者をがっかりさせた。ちなみに、この授賞式とパーティーには、アレフの荒木浩さんや「光の輪」の広末さんら元オウム関係者も会場に来ており、会場の片隅で両人が議論を行うという、これもノンフィクション賞授賞式では異例の光景が見られたものだ。
さて、その5日に、『創』は、この問題について双方が直接顔を合わせて公開論争してはどうかと滝本さんに提案した。そして、結果的に拒否となった滝本さんの回答が返事のあった6日にそのまま滝本さんのブログに掲載された。ネット社会では話題になりそうなテーマだけにたちまちツイッターでこれが広がったらしい。で、気になるのは、滝本さんのその文書の中で、論争提案についての経過をめぐって誤解があり、それがひとり歩きしているらしいことだ。
それ自体は単なる行き違いなのだが、『創』としては一応事情説明をしておいた方がよいだろうと考え、滝本さんに返信するとともに、ここにその文書を公開することにした。
滝本さんのブログはこちらである。http://sky.ap.teacup.com/takitaro/
それについての『創』の説明が以下の文書である。
森さんの『A3』をめぐる論争、本当なら生産的なものになってほしいのだが、感情的な対立もあって、なかなか難しいことが今回のこの一件で明らかになったといえるかもしれない。
滝本太郎様
昨日9月6日に、ファックスを受け取りました。昨日の午後は忙しかったので、日を改めて、受け取ったことと、事実関係について誤解されているようなのでその説明をこちらから返信しようと思っていたのですが、その前に昨夜、滝本さんがご自身の文書をブログにアップされ、それを受けてツイッターなどで発言している人もいることを知りました。
まず当方からの申し出をそのまま森さんの意向と受け取られたようですが、それは誤解です。5日に滝本さんに電話をさしあげたところ、ご不在だったか面談中とのことでしたので、文書を送ったのですが、その時点ではこの申し出について森さんと相談はしていませんでした。
森さんは、そもそも『週刊文春』に滝本さんたちのコメントが掲載された段階で、論争をしたいという意向を表明していたし(発売中の『創』9・1O月号の連載コラムでもそう言明しています)、3日付の朝日新聞でも「論じ合いたい」とコメントしています。言論に携わる者にとっては、こういう論争をきちんと行うことは歓迎すべきことで、かつ、今そういう場の設定をできる媒体はなかなかないので、『創』で行ってはどうかと考えたのです。森さんの意向は既に公式に表明されていたので、今回まず滝本さんの意向を打診してから具体的なステップに進もうと考えました。これは『創』が滝本さんと面識があり、弊社刊『ドキュメントオウム真理教』でも協力いただいているなど、初対面ではないがゆえに考えた手順です。5日に滝本さんにファックスを送った直後に、森さんにはメールで、滝本さんにそういう申し出を行ったことを伝えました。
森さんがブログに「基本的には黙殺する」との書き込みを行ったのは4日のようですが、その時点で私はそれを見ていません。ただ見ていたとしても、言論戦をきちんと設定するのは編集者の仕事であり、森さんにも改めて論争の提案をしたと思います。森さんとは5日夜、講談社ノンフィクション賞授賞式で会えることは知っていたので、その時に詳しく相談しようと考えていたわけです。
滝本さんとしては、討論を提案しながら「黙殺する」と表明するとは何事か、「アリバイ証明のためにかかる申し込みをしてきた」と考えられたのでしょうが、別にそういうことではないのです。当たり前のことですが、森さんと『創』編集部は一体ではありません。
何かこういう細かい経過のところでやりとりするのはあまり生産的ではないとは思いますが、誤解に基づく話がひとり歩きするとややこしくなるだけなので、以上の通り事実経過を説明しておきます。既に誤解されている方もいるようなので、この文書は、『創』ブログでも公開することにします。滝本さんのブログでも見られるようにリンクを張るか、この文書を転載いただけると助かります。
私としては、この問題は、オウム事件や麻原元教祖に対するスタンスだけでなく、ノンフィクションのあり方にも関わる事柄でもあるだけに、生産的な議論ができればという思いを今でも持っています。
2011年9月7日 月刊『創』編集長・篠田博之
日野不倫殺人事件の24年目の現実
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