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月刊「創」ブログ

NHK受信料拒否裁判判決、予想外の大きな反響でした。

  7月28日、NHK受信料拒否裁判に判決が出ました。たぶんこういう裁判そのものがもう2年以上にわって続いていたことさえご存じない方が多いと思います。裁判開始から2年余、弁護士を探し始めた段階からすると3年にわたったNHK受信料拒否裁判ですが、今回の東京地裁判決については、朝日新聞、毎日新聞などが大きく報道したために(特に毎日新聞は見出し4段、記事8段という大きな扱いでした)、予想外の反響がありました。『創』編集部が立ちあげている「NHK受信料督促裁判を考える」というブログにもたくさんのコメントが寄せられました。

■NHK受信料督促裁判を考える
http://www.tsukuru.co.jp/nhk_blog/

 もともと3年ほど前、NHKの受信料不払いが膨大な数にのぼったのを受けて、NHK側が法的督促、つまり払わないと裁判に訴えるよという強硬手段に転じたのがきっかけでした。ほとんどの人が裁判所の通知をもらって仰天し、不払いをやめるか、あるいはさらに抵抗して裁判まで行っても途中で和解して支払いに応じました。

 ただ、なかにはこういう強圧的な方法に納得できないとあくまでも裁判で闘うのをやめなかった人もいます。東京では3人、途中で1人が和解に応じて、残った2人が2年以上にわたる裁判を続けてきたのです。不払いで督促を受けた金額は数万円ですから、普通は弁護士を雇って裁判を続けるのと余計痛手を被るし、NHKもそれを見越して法的督促を行っているのですが、実は『創』編集部で弁護士さんにお願いして、この裁判を手弁当でつまり報酬なしで引き受けてもらうことにしたのです。これまでNHK問題に関心を持っていた弁護士さんが約10人も集まってくれて、2年前に弁護団が結成されました。

 そこから予想外に長期戦となったのですが、この裁判は、受信料の手続き問題だけに限定すると1~2回で終わってしまうものです。実際、今回の判決も「法律で決められていて、契約も成立しているのだから、受信料を払うべきだ」というものです。NHKもそういう判断に基づいて法的督促をかけて、不払い者に圧力をかけようとしたわけです。

 では何を2年余も争ったかというと、弁護団としてはせっかく争うのだから、そもそも「公共放送とは何か」「受信料とは何か」という論争まで踏み込んで議論を起こそうとしたわけです。裁判に入る前に弁護団は合宿までやって、公共放送やその成立経緯、海外での公共放送の実例など徹底的に調べたのです。だから本当はこの間、大手マスコミがもう少しこの裁判に注目してくれれば、そういう議論も起こせたと思うのですが、残念ながらマスコミでそこまできちんと取材して報道したところはほとんどありませんでした。

 でも、裁判をずっと傍聴していると、今まであまり考えもしなかった「公共放送って何だ」というテーマが実は奥深いものであることがわかりました。戦後の憲法や教育基本法などが制定される過程で、マスメディアの国家権力からの独立を担保し、市民が支える放送を、という精神でできたのが、公共放送なのでした(私もそこまで知らなかった)。NHK元職員も傍聴に来ていましたが、「本当はこういう議論をNHKが自分たちでやらないといけないんだ」と言っていました。NHK職員自身でさえ、自分たちが依拠している受信料制度や公共放送の本来の趣旨を忘れてしまっているのが現実なのです。

 しかし今回の判決では、過去2年間にわたって弁護団が展開した「公共放送とは何か」「受信料制度とは何か」という議論は、ほとんど触れずに形式論議だけで「受信料は合憲」という結論が出されてしまいました。弁護団もその点はがっかりしていました。

 ただ判決を詳しく読むと、裁判所として微妙な領域にまで少し足を踏み入れた記述もあります。
例えば、大きな論点のひとつは、被告は、NHKの不祥事や放送姿勢に対する抗議として受信料支払拒否をしたとして、それを正当な権利と主張したのですが、公共放送の理念として、放送法に照らしてそれを正当と判断するのか否か、という問題でした。つまり、公共放送とは、国家権力やスポンサーから独立して、市民が受信料によって放送を支えるというシステムですから、抗議の意思表示として、不払いという権利も担保されていると思うのですが、果たしてその主張に対して裁判所がどう判断したのか、ということ。これは極めて大事な論点です。

 で、判決でそこがどう書かれているかというと、こうなっています。

《放送法の趣旨にかんがみれば、原告は、広告主や国家やもちろん視聴者(放送受信契約の相手方)からも一切の影響を受けず、自らの表現の自由を全うすることによって、「豊かで良い放送を行う義務」を実践することが求められているというべきであって、原告が負担する「豊かで良い放送を行う義務」は、放送受信契約の相手方(被告ら)個々人に対する義務ではないというべきであるから、同義務は、被告らが負担する放送受信料支払義務とは牽連関係にないと解するのが相当である。》

 いやあ、わかりにくい文章でしょう。結論的に言うと、被告の主張を退けているんですが、ここで裁判所がどういう解釈をしているのか、考えることは重要です。で、近々判決そのものの主要部分を前述したブログにそのままアップしますので、興味ある方は前後の文脈を何回も読みこんでみてください。

 被告が控訴したことで裁判はもう少し続きます。この裁判が、本質的な議論がなされるきっかけになってくれることを期待します。

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