トップ> 月刊「創」ブログ > 現役編集者らが突然逮捕された「現代書林」事件の公判を傍聴しました。

月刊「創」ブログ

現役編集者らが突然逮捕された「現代書林」事件の公判を傍聴しました。

 同業の現役編集者が手錠腰縄姿で入廷したのを見た時には、ちょっと深刻な思いにとらわれました。さる2011年12月27日、横浜地裁で行われた出版社「現代書林」が被告となった裁判の第一回公判でのことです。大手マスコミではほとんど報道されていないのですが、言論や出版に関わるこういう事件は、きちんと報道がなされないといけないと思います。
この事件は昨年10月6日に、現役編集者やフリーライターら4人が薬事法違反容疑で逮捕されたもので、その後2人が不起訴で釈放されましたが、元社長と現役編集者はこの公判まで勾留され、接見禁止でした。編集者やライターがいきなり逮捕されるという、言論・出版に携わる者にとっては大きな事件であるのに、大手マスコミの関心は薄く、逮捕があったことさえ知らない人も多いようです。薬事法違反容疑という、やや専門的な領域に属する事件であることと、逮捕直後に神奈川県警がリークしたのでしょうが、問題となった本がひどいものだと強調する新聞報道がなされたため、報道する側が引いてしまったのでしょう。ちなみに、その警察の意図のままに報道を行った神奈川新聞に対しては、現代書林側が名誉棄損で提訴を行っています。
12月27日の公判で象徴的だったのは、勾留されている現代書林の元社長と現役編集者が入廷した時の姿が手錠腰縄のままだったこと。裁判開始前から「犯人」「悪人」であることを印象づけるとして、入廷前に手錠腰縄を解くという配慮をするケースもあるようなのですが、今回はそうではありませんでした。健康食品販売会社の社長も含め、被告が4人の統一公判であるため、関係者も多く、40席近い傍聴席は満席でした。被告の家族や関係者にとっては、接見禁止がついていて逮捕後初めて被告と顔をあわせた人もいたと思うのですが、手錠をはめられたまま出廷する姿はショッキングだったと思います。
その日は起訴状朗読と冒頭陳述で終わったのですが、この事件は、警察・検察側の主張にかなり無理があり、任意の取り調べを拒否していない人たちをいきなり逮捕するという手法も相当乱暴です。そもそも問題となった本は約10年も前に出版されたもので、当時はまだ健康本ブームで、「○○がこうした治った」式の体験記を並べた本がたくさん出ていた時期でした。その種の本を薬事法違反とするのも法的には簡単ではないのですが、現代書林の場合も、当時の社長はずいぶん前に退社しているし、仮に法的に問題だとしても時効が成立しているケースです。警察は、いまだにその本が書店に置かれていたとして起訴に踏み切ったのですが、こういう場合の「販売を行っていた」主体が誰なのか、現在の現代書林なのか、元社長なのか、あるいは書店なのか。初公判では弁護側が、その点を検察側に質すところから始まりました。
今の出版システムを含め、出版に関わる者にとってはいろいろな問題を提起している事件ですが、どう考えても逮捕という強硬手段をとる必要がない事例で、フリーライターまで逮捕して実名報道するという乱暴な取り締まりの仕方が気になります。かつてなら言論出版に関わる問題にこんな乱暴なやり方で国家権力が関わってくることに、新聞が批判的報道を行ったものですが、今はマスコミ自体の力も問題意識も低下して、報道さえきちんとなされていません。逆に言えば、そういう権力を監視する勢力が衰退している現状が、乱暴な逮捕といった事態を生み出しているのだと思います。ちなみに勾留されていた被告に対しては、この公判でようやく保釈が認められました。最近は、公安絡みの事件でも、逮捕後否認しているといつまでも保釈を認めないという「人質司法」が一般化していますが、警察検察のやり放題というこの現状に、もっと言論報道に携わるものが危機意識を持たないといけないと思います。
なお、この現代書林の逮捕事件については、『創』1月号に詳しいレポートを掲載しました。事件について多くの人に知ってもらいたいという思いから、いずれかの時点で、全文をネットで公開するつもりです。

日野不倫殺人事件の24年目の現実

1993年12月、日野市のアパートが放火され、子ども2人が焼死した。逮捕された北村有紀恵さんは無期懲役の判決を受け、服役中だ。その彼女の置かれた現実を通して贖罪について考える。
200円(税込)

2018年5・6月号 マンガ市場の変貌


試し読み

ご購入はこちら

紙版

電子版

◆『コロコロコミック』『ちゃお』

 児童誌のゲーム、アニメとの連動

◆『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』
 少年マンガ誌三者三様の行方

◆集英社が『マンガMee』立ち上げ 
 女性マンガの映像化とデジタル化

◆『空母いぶき』『キングダム』など期待作が
 実写映画で青年マンガに期待

◆LINEマンガ含め各社のデジタルコミックの現状は
 拡大するマンガのデジタルとライツ

◆フジテレビ、テレビ東京のアニメ戦略とは...
 アニメ市場拡大とテレビ局アニメ戦略

◆『「なろう系」と呼ばれるweb上の小説のコミカライズ
 コミカライズとKADOKAWAの戦略

◆「海賊版」をめぐる迷走の内幕
 「暴走」の末に頓挫した海賊版対策......川本裕司


◇寝屋川中学生殺害事件被告手記(続)
 死刑を宣告された私の近況と逮捕をめぐる経緯......山田浩二

◇『DAYS』性暴力事件をめぐる経過報告
 『DAYS JAPAN』広河隆一さんの性暴力問題を考える......篠田博之

◇被害から25年目の今、性犯罪受刑者との対話を望む
 性暴力被害者の私が、なぜ加害者との対話を求めるのか......にのみやさをり

◇同性愛差別が続く社会で起きた事件と波紋
 一橋大学アウティング裁判が社会に投げかけた問題......奥野斐




トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 現役編集者らが突然逮捕された「現代書林」事件の公判を傍聴しました。

このブログ記事に対するトラックバックURL: https://www.tsukuru.co.jp/mt/mt-tb.cgi/2654

コメントする