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3月18日の都議会総務委員会で行われた議論

3月18、19日の都議会総務委員会を傍聴してきた記者の長岡義幸さんから、詳しいレポートが届きましたので早速以下にアップします。(編集部)

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東京都青少年条例の改定・強化案の採決が3月19日の都議会総務委員会で棚上げになった。継続審議を求めた民主党に、生活者ネットや反対を決めていた共産党が同調、改定案の採決を求めると見られていた自民党・公明党も民主党の提案を呑み、委員会を構成する全会派一致で「閉会中の継続審査」が決まったからだ。4~5月の閉会中に参考人を呼ぶなどの審議を続行し、6月の第2回定例会で採決が行われる見通しだ。

実は、15日に里中満智子さんやちばてつやさん、永井豪さんほか出版業界関係者らが民主党総務部会のヒアリングに応じ、引き続いて記者会見や都議会内での300人規模の集会を開いた直後、民主党執行部は会議で採決に対する態度を決めたという。19日の採決前には、提案者の都青少年・治安対策本部も巻き返しの一手を打ってきたらしいが、総務委員会の前の理事会では、当初、改定案に賛成すると見られていた自民党・公明党も、旗色が悪いと見て、その場で継続審議に賛成すると表明。この時点で採決の先延ばしが決まった。規制反対派が先行きを案じてじりじりしていたさなか、会派間や行政との間では微妙な駆け引きが行われていたようだ。

青少年条例の改定案について実質審議が行われた18日の総務委員会には、定員20人の傍聴席に40人以上の傍聴希望者が集まり、40席に増やされた。やむなく傍聴をあきらめた人も大勢いた。委員会は、午後1時に開会し、青少年条例の審議は午後1時40分ごろからはじまり、2回の休憩を挟んで、午後8時まで行われる長丁場となった。

審議を通じていくつか明らかになったことがある。東京都の考える「非実在青少年」の判断基準や改定条例案に連動した「東京都規則」の具体案、性的描写が青少年にどのような影響を与えるのかについて東京都がどう考えているかといったことだ。各議員の質問には、青少年・治安対策本部(青少年対策担当)の浅川英夫参事が答えた。

民主党の小山くにひこ議員は「条例改正案に対して多くの反対の声が届いている。東京都は意図せざるところに進んでいるのではないか。本来、事業者、作家の声を聴取して条例改正を行わなければならなかったのではないか」と慎重姿勢を示しつつ、条例案では「非実在青少年」を「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」としていることに対して、具体的な判断基準の説明を求めた。

浅川 「年齢や学年を表示し、明らかに18歳未満が登場していることがわかるもの。視覚的に幼く見えるということではない。たとえば小学校で授業をしている描写のように限定する。服装は小学校の制服、所持品はランドセルや名札、背景としては小学校や幼稚園の校舎や、何年何組という描写など。音声は幼い声というのではなく、情景の描写やナレーションの内容による。作品中で18歳未満が描かれていなければ、非実在青少年とはならない。配慮を十分に行う。不健全図書の指定時には、青少年健全育成審議会に諮るので恣意的な判断は排除される」

小山 「18歳以上と明記されれば該当しないというのは、矛盾を抱えている。定義が明確ではない」

山議員はさらに、改定案の条文中にちりばめられた「東京都規則で定める」としている8項目の規則の公開を求めた。規則とは、たとえば、従来から行われている「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」の3類型の「不健全」図書指定にかかわっては、現行の青少年条例で次のように規定されている。

(不健全な図書類等の指定)
第8条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

「東京都規則で定める基準」は施行規則に明記されている。「性的」を取り出すと、次のような基準だ。

(指定図書類、指定映画等の基準) 
第15条  条例第8条第1項第1号の東京都規則で定める基準は、次の各号に掲げる種別に応じ、当該各号に定めるものとする。
 一  著しく性的感情を刺激するもの  次のいずれかに該当するものであること。
  イ  全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
  ロ  性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。 
  ハ  電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に卑わいな行為を擬似的に体験させるものであること。
  ニ  イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
(※かつては、条例中に明記した規則にもとづく規定ではなく、それよりも軽い扱いである都知事決定の「認定基準」でしかなかった。2004年の条例改定時に、施行規則に格上げされている)

小山議員の質問に答えて、浅川参事は、改正案で新設しようとしている「規則」を読み上げた。多岐にわたるので、改定案の「非実在青少年」にかかわる第8条2の「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第7条第2号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」のみを取り出すと、次のような内容だと説明した。

 ※強姦、強制わいせつ等刑罰法規に触れる性交又は性交類似行為を不当に賛美し又は誇張するもの
 ※近親相姦等著しく反倫理的な性交又は性交類似行為を不当に賛美し又は誇張するもの
 ※これらを擬似的に体験させるもの

2001年の条例改定の際には、「自殺・犯罪誘発」を新たに「不健全」図書指定の対象に加えた。しかし、都議会での審議中に行政当局が「認定基準(当時)」の案を明かすことはなく、条例改定案が都議会で成立後、しばらくして、ようやく業界側に案として提示されるという経過をたどっている。業界に提示する前に、どのような案文が検討されているのか、私が取材を申し込んでも、青少年課は明らかにしなかった。今回、都議会の審議中に案文が提示されたのは、その内容の如何は別にして、画期的なことといえるかもしれない。ただし、「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」に比べれば、茫漠とした内容で、行政の恣意の余地を大きく広げた基準案だったこともはっきりしたといえそうだ。

一方、浅川参事が読み上げたジュニアアイドル誌の「著しく扇情的なもの」の基準は、かなり詳細かつ露骨なものだった。

 ※性器、肛門若しくは乳首(以下「性器」)若しくはその周辺部(陰部、臀部及び乳房)を殊更に強調し、又はその衣服若しくは水着等の上から認識できるように性器等若しくはその周辺部の形状を殊更に浮き立たせた姿態
 ※飲食物その他の物品を用いること等により、性交又は性交類似行為を容易に連想させる姿態
 ※青少年の性器等若しくはその周辺部を他人が触り、又は青少年が他人の性器等若しくはその周辺部を触る姿態
 ※前3号に掲げたもののほか、衣服の全部又は一部を着けず、又は水着のみを着けた状態にある13歳未満の者の姿態であって、その描写がこれらの基準に該当するものと同程度に扇情的なもの

東京都は、未だに青少年条例の改定案そのものを市民が容易に閲覧できるかたちで公開していない。規則案は、小山議員が質問しなければ、知ることのできなかったことだ。議員はもとより、市民に判断材料を提示しないまま、条例を強化されたのでは堪ったものではない。

次に質問に立った自民党の吉原修議員は、「改正案は社会の常識を規定したものにすぎない。このようなものを放置することが続くと、マンガ・アニメの作家や出版社も社会から大きな批判を受けるのは当然」「今まで表現の自由を奪われた出版社はあるのか。ないのではないか」と発言し、改定案に賛意を示した。

公明党の大松あきら議員は、「一般書店で誰でも読めるようになっている。誤った性道徳を植え付けることになる」と主張。近代法制の原則からは遠い、法と道徳の「融合」を説いた。

共産党の古館和憲議員は、「(実在の被害者の存在する)児童ポルノは絶対に容認しない」としつつ、「新たに非実在青少年のような創作物の規定を設けたが、当然、表現の自由を侵害されると多くの人が心配している」「ほとんどのマンガ・アニメは、論理で描けない何らかの感情を表現するために創作されている。捉え方や感じ方は人によって違う」などと発言して条例改定案に疑義を呈した上で、次のような質問をした

古館 「マンガの登場人物が、自分の年齢を18歳といえば、非実在青少年と見なされないことになるが、それでいいのか」

浅川 「そのような理解になるものです」

古館 「非実在の人間に規制の網を被せることに無理がある」

古館 「マンガ・アニメ等において、性的描写を見た青少年が性に関する健全な判断能力を阻害するという学問的知見はどのようなものがあるのか」

浅川 「なかなかいま現在は見いだせていないものです」

古館 「科学的根拠をもって証明されていないのに、28期青少協答申や条例の提案者は阻害すると断定しているから、そのことを聞いた。多くの人々がそう思っているから条例改正の合意が得られると考えている、というのが都の言い分。それでいいのか。過去の芸術作品でも、断罪された後、後世、貴重な財産となったものがある。人間の表現行為に対する規制はきわめて慎重であるべきだ。マンガの表現と、現実の子どもの権利侵害との関係は証明されていない。どのような表現が逸脱行動につながるのか、科学的に証明することはできない。改正案はあまりに拙速で、表現の自由にとって危険。表現の自由を萎縮させることになりかねない」

浅川 「我々が想定しているのは、科学的証明がなくとも、子どもを守るためにやらなければならない蓋然性があればやってもいいと考えている」

1964年の東京都青少年条例の成立した際、朝日新聞は社説で「気休めにすぎないにしても、気休めを必要とするのが、現在の青少年問題の実態である」(7月29日付)と書いた。「蓋然性」という不確かな言葉で条例改定を正当化するのは、40年以上前の「気休め」から何も変わっていないことを露わにしたようだ。

生活者ネットワークの西崎光子議員は、現行条例の不備を突いた。

西崎「指定取り消しと異議申立のルールはあるのか」

浅川「条例には規定を置いておらず、通常の行政処分不服申立ができる。いままで申立は1件もない」

マンガ家の山本直樹さんの作品『Blue』(光文社)が1991年に「不健全」指定されたことがある。山本さん本人や当時、図書規制に反対して活動していた「有害」コミック問題を考える会のメンバー、コミケの代表だった米澤嘉博さんらが東京都の青少年課に指定理由を尋ねに赴き、私も同行取材をした。このとき、都の職員に「指定に異議があるときはどのような手続きをすればいいのか」と私が質問したところ、「条例には手続きが書かれていないので、行政処分不服申立ということになると思うが、作家個人というのは難しいかもしれない」とのことだった。

宝島社は2000年、「不健全」図書指定を憲法違反だとして処分の取り消しを求める行政訴訟を提起した。このとき東京都は、「不健全」図書指定には処分性がないとして、訴訟を門前払いするよう主張。2003年には地裁で、2004年には高裁で、宝島社は敗訴となり、終結したものの、裁判所は処分性については認める判決を下している。

少なくとも、地裁判決のあった2003年まで、東京都は出版社による行政処分不服申立を受け付けていなかった。作家個人、あるいはマンガ愛好者による不服申立は、現在も取り合わないのではないか。

静岡県青少年条例は「一般からの申し出」の項で「何人も(中略)取消しをすることが適当であると認めるときは、知事に対し、その旨を要請することができる」としている。出版社はもとより、作家や市民など「何人も」異議申立ができるしくみをつくらなければ、浅川参事の説明は無意味だろう。

続けて西崎議員は次のように質した。

西崎 「健全育成審議会が非公開だ。青少協の答申案に対するパブリックコメントも公開されていない。情報公開を進めるべきだ」

浅川 「健全育成審議会は、不健全指定候補の図書を詳細にみるため、傍聴を制限している。青少協のパブリックコメントは主な論点を公開した。すべてみたいという開示請求があれば適切に対応したい」

民主党の西沢けいた議員は、青少年課にパブリックコメントの閲覧を求めたところ、他の案件では行政当局が議員に詳細を説明していたにもかかわらず、青少協の答申案に対するパブリックコメントについては、情報公開条例による開示請求を行わなければ見せられないという対応を取ったという。西沢議員は情報公開の手続きを取ったものの、開示の可否を決定する期限である14日後、さらに決定が延長され、審議の参考にできない状態になってしまった。「適切な対応」をしているのかは疑問の残る答弁だ。また、青少年健全育成審議会の実態については、『ず・ぼん』7号(2001年、ポット出版)「東京都青少年健全育成審議会の場合 『有害』『不健全』図書は誰が、どうやって決めているのか」で詳しく書いているので、参照してほしい。(ポット出版のサイトに全文が掲載されている。2001年当時の条例改定の審議内容について、民主党や共産党、生活者ネットに対して厳しい文面もあるが、今回の各会派の姿勢は評価できるものと考えている、とフォローしておきたい)

西崎 「七生養護学校の性教育が行き過ぎていると批判された。児童ポルノ規制が拡大解釈されて性教育の規制に拡大することはないか」

浅川 「性教育教材は児童ポルノには該当しない」

七生養護学校では、障碍のある子どもたちにわかりやすく性教育を行うため、性器のついた人形をつかって性交や妊娠の説明をした。これを問題視した都議らの追及によって、都教委は人形などの教材を没収し、関係した校長や教職員を(別な理由で)処分した。校長に対する処分はこの2月、裁判で取り消されている。西崎議員の質問には、このような背景があった。


(つづく/以上、長岡義幸[インディペンデント記者])


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