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月刊『創』: 2013年4月アーカイブ

警察の大失態が明らかに

 元五輪体操選手の岡崎聡子さんが覚醒剤使用容疑で2月15日に逮捕されたことは『創』4月号で書いた。その後、3月7日、勾留期限ぎりぎりになって彼女は処分保留のまま釈放され、13日付で不起訴となった。尿検査で陽性反応が出たと警察は発表していたから、極めて異例といってよい。検察から公式の説明はなされておらず、釈放時のマスコミ報道でも「地検は釈放理由を明らかにしていない」と書かれていた。

 『創』4月号の記事で、次号は岡崎さん本人の手記を掲載予定と書いたが、実はなかなか簡単ではない。釈放された後、本人と話してはいるのだが、今回はメディアに登場してあれこれ話す心境にはなれないという。ただ、前号でも書いたように、彼女の逮捕はかなり報道されており、ある程度の事情説明はしておきたい。

 なかには『週刊新潮』2月28日号のように、匿名の「警視庁担当記者」のコメントで「腕には注射痕がはっきりと認められたので新宿署に任意同行して尿検査したところ、陽性反応が出ました」などと、誤った情報を活字にしているメディアもあった。注射痕が認められたという事実は存在しない。

 今回の逮捕は、たぶん岡崎さん本人も予期しなかったほど、社会的に流布されている。それを端的に示すのが、『週刊ポスト』3月22日号にやくみつるさんが描いた4コママンガだ。取調室で刑事が「岡崎よ、恥ずかしいと思わんのか。女性アスリートたちが、皆、世間の尊敬を集めているというのに」と説教し、「オリンピック精神を忘れたのかっ!」と怒鳴りつけて机をバン!と叩く。それに対して岡崎さんが「より多く! より純度高く!でやってるんですっ」と答えるというギャグ漫画だ。このギャグが成立するということは、岡崎さん逮捕がある程度広く知られていることが前提だ。昨年来、オリンピック女子選手の活躍が話題になっていることもあって、「元五輪女子選手が薬物で6度目の逮捕」の話題は、予想外のニュース性を持ったのだろう。

 さて、その逮捕が、結局、不起訴となって、警察は思わぬ大失態をさらしたことになったのだが、そこに至る経緯を説明しておこう。実は3月5日に勾留理由開示の法廷が開かれるなど、警察と弁護側との攻防が行われていたのである。弁護人は、今回の逮捕や勾留が違憲・違法だと強く主張したのだった。

 具体的に岡崎さんの逮捕や取調べがどのように行われたのか。弁護人が法廷で主張した内容を簡単に紹介しておこう。

逮捕・捜査に問題も

 2月15日午前2時頃、岡崎さんは友人と会うために、新宿区内の職安通りから大久保通りに出たところで、数名の警察官に周りを取り囲まれ職務質問を受けた。警察官らは、予め彼女がその場所に来ることを把握していたかのようなタイミングで接近し、職務質問を始めた。

 岡崎さんは関係者に携帯電話をかけようとしたが充電が切れたために、コンビニに入って充電をすることにした。その間、警察官もコンビニに入り、トイレの中まで付いてきて、任意に尿を提出するよう要求。本人が任意提出を拒むも聞き入れようとせず、「尿を出さないなら逮捕する」とまで言ったという。

 押し問答が延々と続いた後、岡崎さんは近くの交番まで同行。そこで強制採尿令状を示されて、やむなく尿を出したが、「量が少ない」と言われ、「強制採尿するため病院に行く」と無理矢理パトカーに乗せられた。岡崎さんは抵抗したために転倒するなどしたという。

 病院に着いた後、岡崎さんがやむなく尿を提出したところ、その場で予試験を行ったら薬物反応が出たと言われ、「これから科学警察研究所に鑑定を依頼するから」と言われて、新宿警察署に連行された。そして取調室に入れられて、所持品検査が行われるとともに、午前10時頃、逮捕状を示されて逮捕された。

 任意の職務質問と言いながら警察が強引に取調べを行うのは、よくあると言われるが、厳密に言えばこれは違法捜査で、弁護人はそれを主張した。岡崎さんは釈放される日に検察官に「警察官を呼んで話を聞いたが、大筋では弁護人の主張の通りだった」と言われたというから、検察官も違法捜査を認めたらしい。今回の警察捜査については、家宅捜索も逮捕から何日もたってから行うなど、ずさんさが目立っていた。強引な捜査は、どうやら岡崎さんと個人的にトラブルになっていた知人による見込みに基づく密告に端を発したという事情もあったらしい。
 ちなみに岡崎さん自身は、勾留理由開示での法廷証言でも、薬物使用については「身に覚えがない」と否認していた。

 一件落着とはなったものの、逮捕時の報道もあって、岡崎さんは社会復帰のために行っていたことにも支障が出るなど、大きな打撃を受けた。前回の薬物使用での服役から出所して1年もたたないうちにこの騒動で、疎遠になっていた家族との関係もさらに悪化したようだ。

 この間、本誌も前号で書いたような事情で彼女の社会復帰については間近で見てきたが、服役後出所した人の社会復帰は、簡単ではない。そのあたりの苦労については、田代まさしさんが弊社から出版した『審判』をご覧いただきたい。田代さんの場合は、よりによって、その更生を誓った著書のサイン会に、一儲けを狙った売人が現れて大麻のサンプルと連絡先のメモを手渡し、再び彼を薬物使用に引きずり込むという事態になったのだった。

 薬物依存については、処罰だけでなく治療を取り入れた対策が必要で、アメリカのドラッグコートなどを参考に日本も早急に取り組みを行うべきだという、本誌の元来の主張を改めて指摘しておこう。

篠田博之