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創出版: 2010年3月アーカイブ

資料が揃ってから書こうと思っていましたが、時間がどんどんたっていくので、とりあえず現段階で書いておきます。3月19日に札幌地裁で出されたNHK受信料裁判の判決は、その持つ意味を考えるとすごいことです。東京では扱いが小さいのですが、本当はもっときちんと新聞などが掘り下げて報じるべきものです。
もう多くの人が忘れていると思いますが、NHKの不祥事に端を発した受信料不払いの動きが全国に拡大したのを受けて、NHKは2006年頃から全国各地で法的督促というのを行うようになりました。簡単に言うと、不払いを続けると裁判所に訴えるぞという脅しですね。大半の人はこの法的督促の文書を受け取った段階で、仕方ないと支払いに応じているのですが、なかにはこういうやり方は納得できないと、裁判に至ったケースもあるわけです。
有名なのが東京での裁判で、2007年に大弁護団が結成され、今も高裁で審議が進んでいます。この裁判については、『創』では専用のサイトを立ち上げ、逐一報告してきました。http://www.tsukuru.co.jp/nhk_blog/
これを見て全国から同じように法的督促を受けた人の情報が集まり、サイトで紹介した以外でもたくさんの相談を受け、弁護団を紹介したりしてきたのです。確かこの札幌の裁判の当事者の方も、その過程で一度接触があったような気がします。
この裁判については上記サイトで詳しく書いているように、東京地裁での判決は、被告側の敗訴、つまりNHK側の主張が認められたのでした。ところが、今回の札幌での裁判は、東京の被告と似た事例なのですが、NHKが敗訴したのです。このケースは契約に応じたのが、当人が不在中に対応した妻だったというもので、契約は成立していないと裁判所が認定したのですが、これでNHKが敗訴となると、他の裁判にも大きな影響を及ぼすことは必至です。たぶんNHKは驚天動地だったのではないでしょうか。
東京地裁と札幌地裁の認定はどこでどう異なったのか、詳しく分析する必要があり、今東京の弁護団も資料を取り寄せているのですが、札幌の判決には、関係者も驚いたのではないでしょうか。この判決が前例となると、この間の他の地方での裁判の形成が逆転する可能性があるからです。
で、この問題がなぜ大事かというと、これが単に不払いの個人の主張が通るかどうかということでなく、受信料制度ないし公共放送とは何なのかという根源的な問題につながっているからなのです。筆者(篠田)もこの裁判に関わる過程で多くのことを学んだのですが、そもそもNHKの受信料制度というのは、戦後の民主化の中で、放送を市民が支えることで権力から独立性を保つという理念でスタートしたものなのです。それが次第に形骸化し、払っている側もあまり意味がわからないまま払い続けてきたわけですが、このメディア激動の時代状況の中で、公共放送というあり方を「そもそも」論にまでさかのぼって議論することはすごく大事なことなのです。
本当はNHK側がそういう議論を起こすべきなのですが、当面受信料確保を狙っているために難しい議論に立ち入って裁判を長引かせたくないからと、原告のNHK側はそういう議論を避け、手続き論だけで勝負してきました。つまり契約が成立しているか否かだけを争うという戦法です。で、東京の場合は、それでNHKの思惑通りの判決が出たのですが、今回の札幌の裁判は、そのNHKの戦法が破たんしてしまったわけです。これは東京での高裁での審議にも影響を及ぼしかねないものです。
 というわけで、こういう問題をきちんと取り上げられない大手マスコミのふがいなさを見るにつけ、『創』の出番だ!と思うのですが、『創』も最近は大変で(苦笑)思うようにはいきません。今回もその札幌での裁判の被告の人に連絡をとろうと思ったら、以前のメールがどこへ行ったかわからず、いまだに連絡がとれない始末(トホホ)。もしこの書き込みを見ていたら、連絡下さい!札幌の人。
 ちなみに東京でのNHK受信料裁判控訴審ですが、次回の期日は4月27日午後3時、東京高裁817号法廷です。

 

3月18、19日の都議会総務委員会を傍聴してきた記者の長岡義幸さんから、詳しいレポートが届きましたので早速以下にアップします。(編集部)

     *     *     *     *

東京都青少年条例の改定・強化案の採決が3月19日の都議会総務委員会で棚上げになった。継続審議を求めた民主党に、生活者ネットや反対を決めていた共産党が同調、改定案の採決を求めると見られていた自民党・公明党も民主党の提案を呑み、委員会を構成する全会派一致で「閉会中の継続審査」が決まったからだ。4~5月の閉会中に参考人を呼ぶなどの審議を続行し、6月の第2回定例会で採決が行われる見通しだ。

実は、15日に里中満智子さんやちばてつやさん、永井豪さんほか出版業界関係者らが民主党総務部会のヒアリングに応じ、引き続いて記者会見や都議会内での300人規模の集会を開いた直後、民主党執行部は会議で採決に対する態度を決めたという。19日の採決前には、提案者の都青少年・治安対策本部も巻き返しの一手を打ってきたらしいが、総務委員会の前の理事会では、当初、改定案に賛成すると見られていた自民党・公明党も、旗色が悪いと見て、その場で継続審議に賛成すると表明。この時点で採決の先延ばしが決まった。規制反対派が先行きを案じてじりじりしていたさなか、会派間や行政との間では微妙な駆け引きが行われていたようだ。

青少年条例の改定案について実質審議が行われた18日の総務委員会には、定員20人の傍聴席に40人以上の傍聴希望者が集まり、40席に増やされた。やむなく傍聴をあきらめた人も大勢いた。委員会は、午後1時に開会し、青少年条例の審議は午後1時40分ごろからはじまり、2回の休憩を挟んで、午後8時まで行われる長丁場となった。

審議を通じていくつか明らかになったことがある。東京都の考える「非実在青少年」の判断基準や改定条例案に連動した「東京都規則」の具体案、性的描写が青少年にどのような影響を与えるのかについて東京都がどう考えているかといったことだ。各議員の質問には、青少年・治安対策本部(青少年対策担当)の浅川英夫参事が答えた。

民主党の小山くにひこ議員は「条例改正案に対して多くの反対の声が届いている。東京都は意図せざるところに進んでいるのではないか。本来、事業者、作家の声を聴取して条例改正を行わなければならなかったのではないか」と慎重姿勢を示しつつ、条例案では「非実在青少年」を「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」としていることに対して、具体的な判断基準の説明を求めた。

浅川 「年齢や学年を表示し、明らかに18歳未満が登場していることがわかるもの。視覚的に幼く見えるということではない。たとえば小学校で授業をしている描写のように限定する。服装は小学校の制服、所持品はランドセルや名札、背景としては小学校や幼稚園の校舎や、何年何組という描写など。音声は幼い声というのではなく、情景の描写やナレーションの内容による。作品中で18歳未満が描かれていなければ、非実在青少年とはならない。配慮を十分に行う。不健全図書の指定時には、青少年健全育成審議会に諮るので恣意的な判断は排除される」

小山 「18歳以上と明記されれば該当しないというのは、矛盾を抱えている。定義が明確ではない」

山議員はさらに、改定案の条文中にちりばめられた「東京都規則で定める」としている8項目の規則の公開を求めた。規則とは、たとえば、従来から行われている「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」の3類型の「不健全」図書指定にかかわっては、現行の青少年条例で次のように規定されている。

(不健全な図書類等の指定)
第8条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

「東京都規則で定める基準」は施行規則に明記されている。「性的」を取り出すと、次のような基準だ。

(指定図書類、指定映画等の基準) 
第15条  条例第8条第1項第1号の東京都規則で定める基準は、次の各号に掲げる種別に応じ、当該各号に定めるものとする。
 一  著しく性的感情を刺激するもの  次のいずれかに該当するものであること。
  イ  全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
  ロ  性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。 
  ハ  電磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に卑わいな行為を擬似的に体験させるものであること。
  ニ  イからハまでに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
(※かつては、条例中に明記した規則にもとづく規定ではなく、それよりも軽い扱いである都知事決定の「認定基準」でしかなかった。2004年の条例改定時に、施行規則に格上げされている)

小山議員の質問に答えて、浅川参事は、改正案で新設しようとしている「規則」を読み上げた。多岐にわたるので、改定案の「非実在青少年」にかかわる第8条2の「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第7条第2号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」のみを取り出すと、次のような内容だと説明した。

 ※強姦、強制わいせつ等刑罰法規に触れる性交又は性交類似行為を不当に賛美し又は誇張するもの
 ※近親相姦等著しく反倫理的な性交又は性交類似行為を不当に賛美し又は誇張するもの
 ※これらを擬似的に体験させるもの

2001年の条例改定の際には、「自殺・犯罪誘発」を新たに「不健全」図書指定の対象に加えた。しかし、都議会での審議中に行政当局が「認定基準(当時)」の案を明かすことはなく、条例改定案が都議会で成立後、しばらくして、ようやく業界側に案として提示されるという経過をたどっている。業界に提示する前に、どのような案文が検討されているのか、私が取材を申し込んでも、青少年課は明らかにしなかった。今回、都議会の審議中に案文が提示されたのは、その内容の如何は別にして、画期的なことといえるかもしれない。ただし、「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」に比べれば、茫漠とした内容で、行政の恣意の余地を大きく広げた基準案だったこともはっきりしたといえそうだ。

一方、浅川参事が読み上げたジュニアアイドル誌の「著しく扇情的なもの」の基準は、かなり詳細かつ露骨なものだった。

 ※性器、肛門若しくは乳首(以下「性器」)若しくはその周辺部(陰部、臀部及び乳房)を殊更に強調し、又はその衣服若しくは水着等の上から認識できるように性器等若しくはその周辺部の形状を殊更に浮き立たせた姿態
 ※飲食物その他の物品を用いること等により、性交又は性交類似行為を容易に連想させる姿態
 ※青少年の性器等若しくはその周辺部を他人が触り、又は青少年が他人の性器等若しくはその周辺部を触る姿態
 ※前3号に掲げたもののほか、衣服の全部又は一部を着けず、又は水着のみを着けた状態にある13歳未満の者の姿態であって、その描写がこれらの基準に該当するものと同程度に扇情的なもの

東京都は、未だに青少年条例の改定案そのものを市民が容易に閲覧できるかたちで公開していない。規則案は、小山議員が質問しなければ、知ることのできなかったことだ。議員はもとより、市民に判断材料を提示しないまま、条例を強化されたのでは堪ったものではない。

次に質問に立った自民党の吉原修議員は、「改正案は社会の常識を規定したものにすぎない。このようなものを放置することが続くと、マンガ・アニメの作家や出版社も社会から大きな批判を受けるのは当然」「今まで表現の自由を奪われた出版社はあるのか。ないのではないか」と発言し、改定案に賛意を示した。

公明党の大松あきら議員は、「一般書店で誰でも読めるようになっている。誤った性道徳を植え付けることになる」と主張。近代法制の原則からは遠い、法と道徳の「融合」を説いた。

共産党の古館和憲議員は、「(実在の被害者の存在する)児童ポルノは絶対に容認しない」としつつ、「新たに非実在青少年のような創作物の規定を設けたが、当然、表現の自由を侵害されると多くの人が心配している」「ほとんどのマンガ・アニメは、論理で描けない何らかの感情を表現するために創作されている。捉え方や感じ方は人によって違う」などと発言して条例改定案に疑義を呈した上で、次のような質問をした

古館 「マンガの登場人物が、自分の年齢を18歳といえば、非実在青少年と見なされないことになるが、それでいいのか」

浅川 「そのような理解になるものです」

古館 「非実在の人間に規制の網を被せることに無理がある」

古館 「マンガ・アニメ等において、性的描写を見た青少年が性に関する健全な判断能力を阻害するという学問的知見はどのようなものがあるのか」

浅川 「なかなかいま現在は見いだせていないものです」

古館 「科学的根拠をもって証明されていないのに、28期青少協答申や条例の提案者は阻害すると断定しているから、そのことを聞いた。多くの人々がそう思っているから条例改正の合意が得られると考えている、というのが都の言い分。それでいいのか。過去の芸術作品でも、断罪された後、後世、貴重な財産となったものがある。人間の表現行為に対する規制はきわめて慎重であるべきだ。マンガの表現と、現実の子どもの権利侵害との関係は証明されていない。どのような表現が逸脱行動につながるのか、科学的に証明することはできない。改正案はあまりに拙速で、表現の自由にとって危険。表現の自由を萎縮させることになりかねない」

浅川 「我々が想定しているのは、科学的証明がなくとも、子どもを守るためにやらなければならない蓋然性があればやってもいいと考えている」

1964年の東京都青少年条例の成立した際、朝日新聞は社説で「気休めにすぎないにしても、気休めを必要とするのが、現在の青少年問題の実態である」(7月29日付)と書いた。「蓋然性」という不確かな言葉で条例改定を正当化するのは、40年以上前の「気休め」から何も変わっていないことを露わにしたようだ。

生活者ネットワークの西崎光子議員は、現行条例の不備を突いた。

西崎「指定取り消しと異議申立のルールはあるのか」

浅川「条例には規定を置いておらず、通常の行政処分不服申立ができる。いままで申立は1件もない」

マンガ家の山本直樹さんの作品『Blue』(光文社)が1991年に「不健全」指定されたことがある。山本さん本人や当時、図書規制に反対して活動していた「有害」コミック問題を考える会のメンバー、コミケの代表だった米澤嘉博さんらが東京都の青少年課に指定理由を尋ねに赴き、私も同行取材をした。このとき、都の職員に「指定に異議があるときはどのような手続きをすればいいのか」と私が質問したところ、「条例には手続きが書かれていないので、行政処分不服申立ということになると思うが、作家個人というのは難しいかもしれない」とのことだった。

宝島社は2000年、「不健全」図書指定を憲法違反だとして処分の取り消しを求める行政訴訟を提起した。このとき東京都は、「不健全」図書指定には処分性がないとして、訴訟を門前払いするよう主張。2003年には地裁で、2004年には高裁で、宝島社は敗訴となり、終結したものの、裁判所は処分性については認める判決を下している。

少なくとも、地裁判決のあった2003年まで、東京都は出版社による行政処分不服申立を受け付けていなかった。作家個人、あるいはマンガ愛好者による不服申立は、現在も取り合わないのではないか。

静岡県青少年条例は「一般からの申し出」の項で「何人も(中略)取消しをすることが適当であると認めるときは、知事に対し、その旨を要請することができる」としている。出版社はもとより、作家や市民など「何人も」異議申立ができるしくみをつくらなければ、浅川参事の説明は無意味だろう。

続けて西崎議員は次のように質した。

西崎 「健全育成審議会が非公開だ。青少協の答申案に対するパブリックコメントも公開されていない。情報公開を進めるべきだ」

浅川 「健全育成審議会は、不健全指定候補の図書を詳細にみるため、傍聴を制限している。青少協のパブリックコメントは主な論点を公開した。すべてみたいという開示請求があれば適切に対応したい」

民主党の西沢けいた議員は、青少年課にパブリックコメントの閲覧を求めたところ、他の案件では行政当局が議員に詳細を説明していたにもかかわらず、青少協の答申案に対するパブリックコメントについては、情報公開条例による開示請求を行わなければ見せられないという対応を取ったという。西沢議員は情報公開の手続きを取ったものの、開示の可否を決定する期限である14日後、さらに決定が延長され、審議の参考にできない状態になってしまった。「適切な対応」をしているのかは疑問の残る答弁だ。また、青少年健全育成審議会の実態については、『ず・ぼん』7号(2001年、ポット出版)「東京都青少年健全育成審議会の場合 『有害』『不健全』図書は誰が、どうやって決めているのか」で詳しく書いているので、参照してほしい。(ポット出版のサイトに全文が掲載されている。2001年当時の条例改定の審議内容について、民主党や共産党、生活者ネットに対して厳しい文面もあるが、今回の各会派の姿勢は評価できるものと考えている、とフォローしておきたい)

西崎 「七生養護学校の性教育が行き過ぎていると批判された。児童ポルノ規制が拡大解釈されて性教育の規制に拡大することはないか」

浅川 「性教育教材は児童ポルノには該当しない」

七生養護学校では、障碍のある子どもたちにわかりやすく性教育を行うため、性器のついた人形をつかって性交や妊娠の説明をした。これを問題視した都議らの追及によって、都教委は人形などの教材を没収し、関係した校長や教職員を(別な理由で)処分した。校長に対する処分はこの2月、裁判で取り消されている。西崎議員の質問には、このような背景があった。


(つづく/以上、長岡義幸[インディペンデント記者])


 性表現規制強化などを盛り込んだ東京都の青少年条例改定案は、18日・19日の両日、都議会総務委員会で審議され、今回は可決せず継続審議とすることで決着した。18日は夜11時近くまで及ぶ大議論で、傍聴人も40人と異例の多さだった。いやそもそも先着順となっていったため、委員会が始まる1時間前には傍聴券希望者の列が定員の20人を突破。傍聴席を40人まで増やしたのだが、それでもあっという間に埋まってしまったのだった。18日付の東京新聞が一面トップで「都規制案先送りへ」という記事を掲げ、その中で詳しく書いているが、この間、都議会各会派や議会局には規制反対の手紙やメールが殺到した。16日以降、メールが1日2000通以上に達したこともあったという。
 総務委員会での審議は、今回の改定案の中味や運用について論じられたもので、議事録公開までには時間がかかるので、簡単な傍聴記録を近々公開するつもりだ。かつて自民党一党支配が続いた時代には、市民がいくら反対してもそれと関係なしに政治が動いていったために政治的無関心が拡大していったのだが、今回は、市民の声が議会の流れを押しとどめた形だ。3月15日の漫画家らの記者会見での訴えと、都議会で行われた集会に400人近い人がつめかけたあの熱気が議会を動かしたといえよう。その後、出版各団体や日本図書館協会、日本ペンクラブなどの反対声明が相次いだことも大きかった。この国の民主主義がまだ死滅してはいないことを証明したといえよう。
 ただ、ここで全く楽観はできない。今回は採決されなかったといっても、早ければ6月に再び審議が行われるし、3月20日付の新聞が報じているように、大阪府の橋下知事が、大阪でも条例改定の検討に入ることを表明している。東京都では先延ばしになったといっても、規制推進派の動きは全国に拡大しつつある。今回、東京都での予想外の抵抗に危機感を持ったこともあってか、一時なりを潜めていた国レベルでの児童ポルノ法改定への動きも再び動き出した。今回は水際で押しとどめたけれど、そう遠くない時期に、もっと大きな波が押しよせてくるのは明らかだ。
 そのために、もっと大きな市民的議論をしておくべきだと思う。この間、個人レベルも含めて多くの人が声をあげたが、それらを連携させる、あるいは互いに議論するという作業が必要だ。
1990年代初めの「有害」コミック騒動の時は、漫画家やマンガファンだけでなく、フェミニズムの立場から性表現規制をどう見るかという声もあがり、双方で激しい論争も行われた。この間、性表現論議の陰に隠れた印象があるが、今回の規制案には、ネット・ケータイ規制も大きなウエイトを占めている。法的規制に反対するには、これらについての市民的議論を深めることが必要になる。そもそも規制推進派の主張は、表現者や出版現場に任せておいては改善はされないので法規制が必要だということなのだから。
 そうした議論のために、この間明らかになった論点を整理するために、この間の書き込みなどをベースにして、『創』編集部では、この問題の専用サイトを立ち上げることにした。http://tsukurukari.blog3.fc2.com/サイト名は「青少年条例と児童ポルノ法改定による表現規制を考える」。各団体の声明や関係者の意見書なども閲覧できるようにした。ぜひアクセスしてみてほしい。

 本日18日、いよいよ東京都青少年条例改定についての委員会の審議が行われたが、この模様は追って報告するとして、様々な団体から上がった反対声明を紹介しておこう。まず日本ペンクラブの声明。本日夕方5時に発表したのだが、この起草などで一昨日から昨日、私も忙しかった。今回の規制強化はマンガが狙い撃ちされているのだが、この問題をマンガだけでなく表現に関わる作家やジャーナリストが全体として受け止めて反対していこうという意志を示すためには、日本ペンクラブが声明を出すことは大きな意味があった。ペンクラブでは私が副委員長を務める言論表現委員会と「子どもの本」委員会ですり合わせを行うところから始め、様々な人が意見交換しながら声明文を練っていった。大きな組織であるだけに、緊急でこういう作業を行うのは大変なのだが、執行部始め大勢の人が力を尽くしたおかげで何とか本日発表にこぎつけた。

●東京都青少年条例改定による表現規制強化に反対する
 現在、東京都議会で審議されている青少年健全育成条例の改定案に対し、出版界の
主要な団体やコミック作家などが強い反対の意を表明している。表現に対する規制強
化の意味を持つ今回の条例改定については、日本ペンクラブも危惧を表明せざるをえ
ない。青少年条例による規制は、直接的には青少年への販売や閲覧を制限するものと
されるが、それが表現全体に影響を及ぼすことは明らかである。
 そもそも性表現といった個々人によって受け止め方が異なる、デリケートな事柄に
ついては、国家や行政による法的規制や取り締まりを極力排し、表現者や出版社等の
自律による自主的規制などによって対処するのが好ましいことは言うまでもない。
 今回の条例改定については、今日に至るまで、十分な市民的議論に供せられること
もなく、表現に関わる規制強化という重大さに比して拙速に事が運ばれている印象は
拭えない。また、「非実在青少年」といった恣意的な判断の余地がある造語によっ
て、表現行為が規制されることが好ましくないことも言うまでもない。さらに、改定
案の中に含まれるインターネットの規制についても、公権力がフィルタリング基準に
関与することにつき、活発な議論を通した上での合理的なコンセンサスが得られてい
るとは、到底言えない。
 表現に関する規制は、歴史的に見ても、恣意的な運用や拡大解釈の危険性が排除で
きず、表現の自由と、ひいては民主主義の根幹に関わる重大な弊害をもたらすおそれ
がある。なぜいま表現規制を強化しなければならないのか、納得のいく説明もないま
まの今回の条例改定について、日本ペンクラブは強く反対するとともに、同様な改定
を予定している各地方自治体や政党に対し、開かれた場において冷静かつ慎重で十分
な検討をすることを強く求める。
2010年3月18日         社団法人日本ペンクラブ  会長 阿刀田 高

                                                      


 次に日本図書館協会が昨日発表した声明だ。
http://www.jla.or.jp/kenkai/20100317.pdf
 さらに日本雑誌協会と別に小さな出版社が集まって作っている出版流通対策協議会も本日付で声明を出した。
 これだけ多くの団体が次々と声明を出していくのは久々で、今回の問題への危機意識がいかに大きく広がったかを示すものといえよう。

 

出版流通対策協議会声明


東京都青少年育成条例の改定に反対する声明

                                                                        2010年 3月18日
                                                                                         
                                                                                         
                                                                    出版流通対策協議会
                                                                            会長 高須 次郎
                                                          東京都文京区本郷3-31-1 盛和ビル40B
                                                      TEL 03-6279-7103/FAX 03-6279-7104
                                                                                         

1 今回の都の青少年条例改定には、すでにある児童ポルノ規制の範囲をこえて、実在しない 児童を描いたマンガ等を含めて拡大解釈され、規制強化をしているのは、表現の自由を著し く損ねる恐れがあり、反対である。「非実在青少年」に関わる性表現を不健全図書指定に追加 してはならない。

2 都民に「児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」とあるのは、権力による恣意的 運用の危惧があり、逮捕、えん罪の起こることの疑念がある。そもそも児童ポルノの定義が 曖昧なままでの単純所持の新設は、過去に入手した出版物を破棄しなければならない義務が 生じ、梵書そのものとなり、到底容認できない。かつて国会において、児童ポルノ処罰法が 上程されたが、単純所持の処罰化に疑義が呈され、廃案になったことをふまえるべきである。

3  「表示図書類に関する勧告」については、すでに出版業界は成人向けコーナーで区分陳列 (ゾーニング)の自主規制を行っており、現在の条例でも「不健全図書」の指定対象になっ ている。新たに不健全図書指定を公表する必要はない。

 

 本日、出版倫理協議会が『「東京都青少年条例改正案」に対する緊急反対声明』を出した。出版倫理協議会とは、日本雑誌協会、日本書籍出版協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会で構成される出版業界を全て網羅する団体だ。つまりオール出版界が反対を表明したことになる(声明文はこの文の末尾にアップ)。


 明日から都議会総務委員会で条例改定の審議が行われ、あさってには採決に至る。改定案の賛否は今のところ総務委員の中では7対8と拮抗しており、成立せずに継続審議になる可能性も出てきた。15日の漫画家の会見と集会が潮目を変えたのは明らかだ。ただ、賛否が拮抗しているからどっちに転ぶかわからないというのが実態だ。


 先週末から新聞・テレビが報道を始めたが、新聞によって扱いが極端に異なる。16日朝刊で1面と2面を使って大々的に報道したのは朝日新聞。東京新聞も社会面で大きく報道、さらに同紙は本日17日朝刊の特報面でも大きく取り上げている。毎日新聞は16日の報道はさほど大きくなかったが、会見には都庁クラブ以外の記者も来ていたから、恐らく明日明後日の紙面で扱うのだと思う。読売・産経がやはり扱いが小さい。というわけで、これは恐らく新聞社のこの問題に対するスタンスの違いを反映しているといえよう。意外だったのは、15日の会見を日本テレビの「ニュースゼロ」やテレビ東京などが結構大きく扱ったことだ。これらの映像はYou Tubeにアップされている。


 この問題についてはネット社会で一気に関心が高まり、まとめサイトなどもできているが、一連の流れを網羅したサイトがないので、『創』編集部で明日にも作成して立ち上げようかと考えている(但し忙しいのでできるかどうか未定)。とりあえず今日は、出版倫理協議会の声明をアップしておきたい。


 また、15日に発表された京都精華大学などのマンガ学科を持っている大学の意見書なども昨日からそれぞれのホームページにアップされている。マンガの規制問題で大学がこういう動きをするというのも20年前の規制騒動と大きな違いだ。この20年間でマンガはコンテンツ産業として認知されたことの現われだろう。

 

●京都精華大学マンガ学部教授会の意見書(PDF)

以下は出版倫理協議会の声明


「東京都青少年条例改正案」に対する緊急反対表明
                            平成22年3月17日     出版倫理協議会議長 鈴木富夫

 

 出版物が青少年に及ぼす影響力は大きく、その社会的責任が重大であることは言うまでもない。出版に携わる者として、青少年の健全な成長を願い、そのための努力が必要であることは、十分認識している。
 しかし、その責任は出版関係者が自主的に負うべきものであり、法的・行政的措置は表現の自由の立場からも慎重に討議され、最小限に留められるべきと考える。
 このような観点から昭和38年に設立された出版倫理協議会では、青少年に見せたくないコミックやグラフ誌に対しては、出版ゾーニングマークをつけたり小口シール止めを施し、書店、コンビニでの区分陳列や対面販売を徹底するなど自主規制に努めてきた。
 しかし、今回示されている条例改正案は、業界のこのような自主規制の努力をないがしろにするものと言わざるをえない。
 当協議会が特に問題と考える点を以下に列記する。
 1.18歳未満と判断される架空の人物の性を描いたコミック等を規制しようとしていること。(コミックにおける登場人物は設定年齢よりも幼くみえたり、年齢不詳の場合も多く、当局の恣意的な判断によって、著作者や発行者への検閲や弾圧につながる怖れがある)
 2.現行の児童ポルノ法において、「児童ポルノとは何か」の定義が曖昧とされているにも拘わらず、それを踏襲しようとしていること。(国会において定義の見直し論議を行っている)
 3.児童ポルノの「単純所持」について規制しようとしているのは、権力の乱用につながりかねない。(国も論議中で未だ規定していない)
 以上の理由から、当協議会は論議不十分で周知されていないこの条例改正案に対し、反対の立場を表明するものである。
                              構成団体(社)日本雑誌協会(社)日本書籍出版協会 
                                   (社)日本出版取次協会  日本書店商業組合連合会


 昨日の都条例改定に反対する漫画家会見は、朝日新聞が1面で報じたり、テレビのニュースでも扱われるなど大きな報道となった。新聞では東京新聞も社会面で大きな扱い。毎日や産経も記事にしている。ようやく12日頃から新聞記事が出始めたこの問題だが、一気に大きな話題になった。
 昨日の集会でも、今までこういう動きがあったのを知らなかったという発言が多かったのだが、実は昨年来、児童ポルノ法と青少年条例改定の問題は水面下で連動しながら着々と動いていたのだ。ほとんど報じられていないその経緯について、詳しく報告したのが『創』2010年1月号の長岡義幸さんのレポートで、これがこの間、改めて注目を浴びている。
 その関心の高まりを受けてアマゾンなどでもこの号の追加注文が入るなどしているのだが、事態が風雲急を告げているため、『創』はここに、そのレポートを公開することにした。大手出版社にはありえない太っ腹な判断だが、あと数日のうちに条例改定が採決されてしまうという大事な局面に細かいことを言っている場合ではない。
 同時に、このサイトでは、この間出された改定に反対する声明や意見書もできるだけ紹介し、リンクを張っていきたいと思う。
 では以下、『創』1月号に掲載された「児ポ法、青少年条例など性表現規制強化の動き」(長岡義幸)の全文である。
(『創』編集部・篠田博之)

 行ってきましたよ。正午からの漫画家らの反対会見と2時からの集会。既に動画がアップされているので詳しい中身はそちらをご覧いただきたいと思います。会見で発言した漫画家は、里中満智子、ちばてつや、竹宮恵子、永井豪の各氏。それに呉智英、宮台真司、藤本由香里の各氏らも同席しました。このほか会見前に行われた民主党のヒアリングには雑協(日本雑誌協会)、書協(日本書籍出版協会)なども参加、意見書を提出しました。
 条例改定案は19日の総務委員会で実質上決着がつきそうなのですが、今のところ改定推進が自・公、反対が民主・共産・無所属という色分け。民主全議員が反対すれば改定反対派が過半数を制するとのことですが、問題は民主が一枚岩でないらしいこと。そのためにきょう漫画家や業界団体、学者らを呼んで話を聞くことにしたようです。
 
 驚いたのは会見の後2時から行われた集会でした。私・篠田は食堂で時間をつぶして2時少し前に会場へ行ったのですが、何と!ものすごい人の群れで、会場に入れない人たちが大行列。会場となった会議室は100人弱の席があったのですが、座れない人が200人はいました。集会が始まってからも立ち見は増える一方で、最終的に座れた人を含めて400人くらいになったのではないでしょうか。会議室の開きっぱなしにしたドアの外にも人だかりができていました。主催者の予想をはるかに超える人が集まったわけで、里中さんや竹宮さんらもこの熱気には感激していました。
 ちょうど1990年代前半、コミック規制の動きが全国に広がって漫画家らが危機感を持って立ちあがったあの時に似た雰囲気。私もその当時は運動の渦中にいましたが、きょうの集会にはその時一緒に運動をやったメンバーも集結していました。これだけの人が集まったというのは、改定反対派議員には大きな後押しになったはずです。上記したように民主の動向が決定的な意味を持っているとすると、きょうの集会で潮目が変わった可能性があります。

 私もこれまで個人情報保護法やら共謀罪やらで最終局面に議会に足を運んだことはしばしばありましたが、きょうのあの熱気は十分流れを変える力を持ちえるものと思います。竹宮さんらの京都精華大や、会場に関係者が来ていた東京工芸大など、マンガ学科を持っている大学も意見書を出しているし、今後、業界団体でもこうした動きに加わる可能性は高いといえます。
 会見にはもちろん、各テレビ局や新聞社がほとんど参加し、テレビカメラも回っていましたが、明日朝の新聞・テレビはそう大きな報道にはならないでしょう。ただ、会見には都庁クラブ以外の社会部や文化部の記者も来ており、今後議会での議論を見ながらストレートニュースでない解説記事が出てくる可能性は高いといえます。そして、それ以上に、以前のコミック騒動の時と違うのは、ネットという媒体が大きな力を持っていること。もともとこの問題については、ネット社会に規制強化反対の声が大きいし、ネットの媒体力が大きな力を発揮する可能性があります。現に会見や集会の様子はネットにすぐにアップされました。これまでは、いくら集会が盛り上がっても新聞・テレビが報道しないと、それは存在しないことになってしまったのですが、きょうのように漫画家が直接顔を出しての発言といった素材ができると、それがネットで力を発揮する可能性は大です。
 今すべきことは、様々な動きを連動させていくことなのですが、20年前のコミック騒動の時に私が石ノ森さんや里中さんらと連絡をとりながら、事務局を務めた時代と比べると、ネットという大きな武器が存在するのは決定的な要因。条例改定を阻止することは十分可能です。
 ちなみに今回の条例改定には、マンガなどの性表現規制の問題と、もうひとつネット規制が大きな柱として含まれています。この点でも重大な問題なのです。
 最後に書協・雑協の本日付の意見書をアップしておきます。

書協、雑協の意見書100315.pdf

また写真は、会見に臨んだ里中満智子さん(手前)ら。

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ちばてつやさんと竹宮恵子さん、それに集会で発言する永井豪さんです。

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(『創』編集長・篠田博之)

 性表現規制をめぐる東京都条例改定の攻防戦が最終局面を迎えているのでお知らせしたい。このままだと19日の東京都議会の総務委員会で条例改定の採決が行われる可能性が高く、15日の月曜日からいろいろな動きが一気に噴出しそうだ。
 私(篠田)は1990年代の「有害」コミック規制騒動の時に、故・石ノ森章太郎さんや里中満智子さんらと「コミック表現の自由を守る会」を立ち上げ、その事務局長を務めた関係で、このテーマには関わりが深い。ということで、今回も新聞のコメント取材が入ったりしている。
 とりあえず15日(月)の動きをお伝えすると、午前中に都議会民主党が雑協(日本雑誌協会)などにヒアリング、正午から都庁記者クラブで漫画家らが会見(竹宮恵子、里中満智子、ささやななえ、呉智英、藤本由香里、他)。午後2時から会見に出席した人たちを中心に都議会議事堂2階第二会議室で集会も予定されている(4時まで)。またマンガを発行している大手出版社なども声明を出すらしいし、雑協も何らかの見解を発表するようだ。会見等についての詳細は山口貴士弁護士のHP(http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/)を参照。会見開催を申し入れた山口貴士弁護士は、なるべく多くのメディアに訴えたいという意向だ。
 
 今回の条例改定のポイントは、ネットのフィルタリング規制と、児童ポルノ法改定を先取りする形での性表現規制強化で、後者は今後、国会レベルで法改正論議につながっていきそうだ。昨年来、児ポ法改定論議と東京都の条例改定の動きはセットになって進んできたのだが、問題はこんなふうに現実に条例改定がなされるという段階に至っても社会的議論がほとんど尽くされていないことだ。都議会をめぐる攻防はもう1カ月以上続いているのだが、そんな問題が起きていることすら知らない人がほとんどだろう。
 
 私の基本的立場は90年代のコミック騒動の時から変わっていないのだが、表現しかも性に関する表現というデリケートで、人によって受け止め方の分かれる問題を、法的規制で権力によって取り締まるというのは弊害が大きい、というものだ。社会的議論を経たうえで、ある種のルールを作っていく必要はあると思うが、例えば90年代の論議を経て出版流通でのゾーニング(すみ分け)はかなり進んだ。当時は「書店ではドラえもんの隣にポルノが置かれている」と非難されたものだが、いまやさすがに「ドラえもん」と大人向け性表現マンガは別の棚に分けられている。差別表現や性表現については、法的規制でなく、「思想の自由」市場における市民的ルールによって解決がはかられるべきものだ。
 ま、この議論も細かくやっていくと簡単ではないし、「児童ポルノ」の問題というのはまた別の側面もあるので、本当はかなりきちんと議論しないといけないのだが、今はそういう議論の場そのものがないのが現実だ。今回の条例改定の動きについても、新聞・テレビはほとんど報道していないため、議論の前提になる事実そのものが知られていない。こういう中で次々と表現規制がなされていくのは怖いことだ。
 ということで、来週、都議会の動きに要注目!だ。なお90年代の「有害」コミック騒動については創出版から『「有害」コミック問題を考える』『誌外戦』という2つの本が出版されており、まだ在庫もある。今日にまで至る問題の基本は既にこの90年代の議論にほとんど集約されている。参考文献としてご覧いただきたい。(『創』編集部、篠田博之)

 

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3月9日付朝日新聞がインターネット新聞JANJAN休刊について大きく報道していました。既成の大手メディアに対抗して登場した媒体がこんなふうに潰れていくのは残念です。新聞・テレビの大手資本がメディアを独占していた時代が、インターネットの普及によって崩れつつあるなかで、現状では「情報は無料」というネット社会特有の壁もあり、独立系の小資本の媒体も
生き残っていくのは簡単ではないようです。
紙媒体の世界ではそれはさらに顕著で、今や一定の影響力を確保している独立系雑誌は数えるほどになってしまいました。広河隆一さんの『DAYS JAPAN』も先頃、休刊の危機に瀕しながら読者拡大運動を展開、昨日、定期購読者が9000人に達したとして存続が発表されました。
70~80年代には『話の特集』『噂の真相』を始め、独立系雑誌が群雄割拠し、言論の多様性が確保されていたのですが、昨今の出版不況で、大手資本に属さない雑誌の存続は大変厳しくなってしまいました。もちろん大手出版社の雑誌だって次々と休刊しているわけですが。
そんななかで『創』も今後どうするか改めて考えねばならない時期に直面し、とりあえず一度立ち止まって考えようということで今月号は4・5月合併号としました。そして困難な状況に直面していることを率直に読者に知らせるための説明を掲載したのですが、これが思わぬ反響を呼び、読者や執筆者から激励の声が毎日たくさん寄せられています。ジャーナリズム系の雑誌がこの1~2年次々と休刊に至っていることへの危機感も背景にあるのだと思います。
『創』今月号に掲載した説明も、内情を率直に書いた異例なもので、従来は恐らくこんなことを明らかにする例はなかったと思います。今回敢えてそうしたのは、『現代』の休刊に際して、「執筆者に何の相談もなくいきなり休刊というのはどうなのか」「もう少し広い議論に供したら何か別の道がありえたのではないか」という声があがったからです。考えてみればメディアというのは作り手だけで成り立っているものではなく、読者や書き手があってこその存在だから、そういう声があがるのは当然でもあるのです。
ということで、ここに『創』に掲載した「読者の皆さまへ」と、読者から届いた声を2~3紹介したいと思います。執筆者や同業者からの激励のメールもいろいろあるのですが、これは私信なので公開は控えておきます。「読者の皆さまへ」は公の文書というより個人的心情を書いたものなのですが、ちょうどこれを書いて『創』を校了した直後に2月26日の「小沢VS検察」シンポジウムがあったわけです。
大手メディアが取り上げないような少数意見や異論を世に問うという役割を果たしてきた独立系媒体が存続しがたくなっている今の状況は、本当に残念に思います。
『創』は5月6日発売(通常は7日発売ですが休日なので繰り上げ)の6月号は予定通り出すことにしていますが、刊行形態その他についてはいろいろなケースを検討しています。『週刊金曜日』や『DAYS JAPAN』のように直販を中心とした雑誌ではなかったのですが、事前予約の直販の比率をあげるというのも安定させるためのひとつの方策です。
よしそれならひとつ応援してやろうか、という方がいましたら、こちらをクリックして創出版のホームページから申込んでいただけないでしょうか。年間定期購読は12冊分ですが、もし合併号などが出た場合は、繰り越していきますし、もちろん万が一休刊となれば残金は返却します。どうぞよろしくお願いします。

【読者から寄せられた声の一部】
●篠田編集長の巻末のメッセージを拝読いたしました。
 私はまだここ1・2年ばかりの間に愛読をしている年数の浅い読者ではありますが、貴誌のスタンス、示されている問題やテーマに非常に刺激を受け、勉強になっています。
 次々と雑誌が休刊、廃刊になる中、『創』も厳しい経営状況ということはうすうす感じてはいましたが、編集長個人が私財を投げ打っていたことを知り、ますます『創』への愛着が増してきました。季刊にして、価格を上げても送料を読者負担にしても構いません。どうか続けていく道を探って頂けるようお願いします。     (埼玉県 41歳)
●北海道新聞の「週刊誌を読む」(平成22年、2月3日夕刊)で知りました。ついでに、週刊朝日も買い、検察のやり方に怒りを感じました。 どの大手新聞社も、検察の味方しかしないのでしょうか。今後、新聞に書いてある、裏のこと、本当のことを書くべきだと思います。歴史的にみて、今の、大手新聞には期待できません。 本当の民意は選挙です。それを踏みにじる検察。大手新聞の書けないこと。正義を貫いてください。(『創』を知ったことで、少し救われました。)   (北海道 60歳)
●定価が1200円になっても読みつづけたい雑誌です。
 宜しくお願い致します。                  (東京都 58歳)

 東京都議会で性表現規制を狙った条例改定の動きが山場を迎えようとしている。
『創』でこの問題を追ってきた長岡義幸さんに最新情報をレポートしてもらうことにした。
全体の動きや問題点については、『創』2010年1月号でレポートしているが、このバックナンバーがアマゾンで定価600円のところ1800円でオークション売買されていたため、弊社ではアマゾンに在庫を入れて正規料金で購入できるようにした。
弊社のホームページからももちろん購入可能だ。

 都議会をめぐる攻防については、15日の週が山場のようで、集会なども予定されており、今後もこの『創』ブログでレポートする予定だ。
以下は長岡さんのレポートだが、東京都が提出した条例改定案もクリックすれば読めるようにした。(『創』編集部・篠田)


 

 東京都青少年問題協議会(都青少協)が法律の改定に先行して児童ポルノの単純所持規制をはじめるべきだとする議論を行い、青少年条例を強化する準備が進められていると『創』1月号「児童ポルノ法、青少年条例など性表現規制強化の動き」の記事で報告した。
 その後、都青少協は1月14日、青少年条例の全面強化を求める答申を都知事に手渡し、これを受けて、青少年条例を所管する東京都青少年・治安対策本部は、3月24日開会の都議会に条例改定案を提出した(改定案の全文は、PDFでアップした東京都青少年条例改定案.pdf)。


 条例改定案を読んでの感想は、予想にたがわず、現行の流通規制を大きく踏み出し、徹底した表現規制の意志を露わにしたものだった。
18歳未満の「非実在青少年」の性描写が描かれていれば「不健全」図書に指定し、言うことを聞かない出版社には「勧告」「公表」をすると脅しをかけ、国会でも議論のある児童ポルノの単純所持禁止にかかわる条項を設けて法規制の後押しをし、青少年の描かれている「青少年性的視覚描写物」の「まん延」防止を目的に、青少年を性的対象として扱う「風潮」を助長させないための「気運の醸成」を官民で行う責務(義務)を課す、などというものだ。

 青少年条例による図書規制は、「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」という3類型のもと、青少年の目に触れさせないために「不健全」図書を指定し、18歳未満への販売を禁止する(流通規制)というのが建前だった。
大人が購入して読むことは何ら問題ない。ところが、改定案では、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から18歳未満として表現されていると認識される」創作物で、「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写」したものを「不健全」図書に指定するとした。

 指定には至らない「みだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」は、18禁マーク付の「表示図書」にするよう出版社や自主規制団体に勧告できるようにする条文もある。マンガ・アニメなどの創作活動で描いてはならない表現をあらかじめ条例で決め、結果的に、大人向けの創作物であっても、このような描写は禁ずるということだ。販売規制・流通規制どころか、内容規制(出版規制)そのものだ。

 条文が拡大解釈されれば、以前から冗談交じりに言われつつ、そんなことはあり得ないとされていた「ドラえもん」のしずかちゃんの入浴シーンのあるコミックスは、区分陳列の対象になる「表示図書」にして子どもには売るな、と勧告されるかもしれない。永井豪の「ハレンチ学園」などはもってのほかだろう。
 1999年の児童ポルノ法施行時に、18歳未満の性交場面が描かれていた「バガボンド」「ベルセルク」「あずみ」などのコミックスを一部の書店が販売自粛するという出来事があったが、これらの表現はほんとうに禁止対象になるおそれがある。

 いや、高校生のけだるい日常を描いた山本直樹の名作「Blue」(光文社版)は、1991年、すでに学校内のセックス描写があったという理由で東京都が「不健全」図書に指定している。
当時、「有害」コミック問題を考える会のメンバーが山本直樹さんを誘って指定理由を東京都に聞きに行き、私も同行取材した際、都の職員が説明したことだ。その後、版元は「Blue」を回収し、掲載誌のひとつであった「Comic Be!」(光文社)は休刊(事実上の廃刊)になった。
 条例改定案が成立すれば、このようなことは頻発するに違いない。過去の名作も読めなくなってしまうだろう。


 もちろん、問題のある表現は存在する。だが、実在の青少年が表現されたわけではなく、あくまでも頭のなかの妄想を表現した創作物だ。こういうことは考えてはならないと公権力がたがをはめることが許されるわけがない。
 そもそも、法と道徳を分離するのが近代法制の根本原則のはずだ。「まん延」防止や「気運の醸成」などという気分で、行為を伴わないにもかかわらず、性道徳まで条例で規制するのは倒錯も甚だしいのではないか。
 こういう言い方は最近流行らないようだが、公権力が表現の自由に干渉するのは、いうまでもなく憲法違反だ。内容に問題があれば、私人間の問題として、書き手や発行者に要請したり、市民的議論を尽くせばいい。

 児童ポルノの単純所持禁止の責務(義務)を定めた条項も非常に危険だ。とりわけ児童ポルノ法第二条第三項の3で定義されている、いわゆる3号ポルノ「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」とのかかわりだ。

 昨年6月26日の衆議院法務委員会での審議では、過去のミリオンセラーである宮沢りえ写真集「Santa Fe」が児童ポルノにあたる可能性が取りざたされている。
 条例改定案では、「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都民等の責務」を定めた第18条の六の四で「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」と書かれていた。
 他の条文では「都民」としているにもかかわらず、この条文だけはなぜか「何人」とされた。東京都以外にも効力を拡大させたいという意志の現れだろうか。


 現在も「Santa Fe」を手もとに置いている100万人以上の人々はいずれ廃棄を義務づけられ、保存していれば犯罪者扱いされかねない。写真家が保存するネガや紙焼き、出版社の在庫、図書館の蔵書にも累が及ぶかもしれない。
 1999年の児童ポルノ法の施行時に一部の書店が販売自粛したタイトルには「本上まなみ写真集」もあった。このような写真集も、都条例では、現実に児童ポルノと見なされることになるかもしれない。


 ネット関連では、青少年向けの携帯フィルタリングの強化を事業者に課し、親が同意してフィルタリングを申し込まなかった場合は、そのときの書面の保存を義務づけたり、事業者に対する立ち入り調査権を認めたり、青少年のネット利用によって「自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発したと認めるとき」は、保護者に対して知事が直接、指導・調査なども行えるとしたりと、まさに何でもござれ状態だ。


 もう少し詳しく見ると、携帯関連の事業者に対する調査などは「知事が指定した知事部局の職員」と限定する一方、青少年のネット利用にかかわって「違法」「有害」な行為などをした場合は「知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる」と書き、指導などを行うのは誰なのか明記せず、何らの縛りもない。言われるままフィルタリングを外し、子どもを厳しくしつけなかった親は、警察が懲らしめるという意図でもあるのではないかと疑わざるを得ない。


 実は、改定案の条文をよくよく読めば、ほかにもこういった細かいところで、妙な条項がある。

 条例改定案は、3月30日の本会議で最終的に決まるものの、3月18日の総務委員会で審議され、19日に委員会採決が行われ、この時点でほぼ決着がつくことになる。その前哨戦として、3月12日の予算特別委員会では民主党の松下玲子都議が改定案を質す予定という。
 また、民主党の西沢けいた都議、浅野克彦都議などの若手議員は、はやくから条例改定反対を鮮明にし、行動しているところだ。共産党も反対方向という。


 石原都政の野党会派である民主党、共産党、生活者ネット、自治市民'93が一致して反対すれば条例改定をとめることができる。
 業界団体や表現の自由の侵害に危機感を持つ市民の動きも加速している。東京都の暴走によって、全国に表現規制を波及させないためにも都条例改定を何とか食い止めたい。(フリーランス記者:長岡義幸)


 青少年条例の動向についてはポット出版の「出版時評 ながおかの意見 1994-2002」(http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-939015-39-7.html)の第二章・図書規制の実情/青少年条例強化をめぐって、第七章・出版物を取り巻く規制/青少年条例と法的規制の動向、出版メディアパルの「出版と自由」(http://www.murapal.com/books09/ps012.html)などで詳しくフォローしています。ぜひ参考にしてください。私も一部を(ペンネームで)執筆した創出版の「『有害』コミック問題を考える」(http://www.tsukuru.co.jp/books/2007/11/post-2.html)、さらに「誌外戦」(http://www.tsukuru.co.jp/books/2007/11/post-3.html)は、20年前に青少年条例の強化によって起きた図書規制の実態を知るための基本図書といってもいい内容です。

 

houchi.jpg 『創』4・5月合併号は6日に発売されるが、その中に三田佳子さんの息子・高橋祐也君の手記が掲載されている。前回の逮捕以降の獄中生活や薬物依存脱却のプログラムに参加した話、それに2月に結婚し、年内に子どもも生まれることなどを書いている。で、この手記について報知新聞から問い合わせがあり、4日に「報道目的に限り」という条件を付けて記事を渡したのだが、翌5日の同紙紙面を見て驚いた。
「三田佳子今秋おばあちゃん」と題して5段組の記事が載っているのだが、三田佳子さんに初孫が生まれることが「4日、分かった」という内容だ。「4日、分かった」って、これ『創』の記事で知ったということじゃないか。『創』記事を使う場合は出典を明記して下さいと言ったのに、全く言及もせず別の記事に仕立てて、「4日、分かった」っていうのはちょっとひどすぎない? 
 これ、雑誌記事を新聞がパクる時によく使う表現で、こちらも目くじら立てるつもりはないが、仁義もなにもない。報知新聞、「なんだかな~」という感じだ。

 話は変わるが、『創』1月号がネットオークションで1800円で売られているという。中にある長岡義幸さんの性表現規制に関する記事が、ちょうど東京都の条例改定問題がヒートアップしているため話題になったらしいのだが、まだ在庫があって定価600円の雑誌を1800円で競売しているというのもひどい状況だ。アマゾンなどネット書店ではバックナンバー購入ができないし、ほとんど出版社がバックナンバー販売をしていないということでこんな事態になるらしいのだが、これもなんだかな~。そもそもオークションで3倍で売買されても創出版には全くお金は入ってこないわけで、これ、何とかならないものか。