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創出版: 2009年4月アーカイブ

 4月16日、朝一番で大阪拘置所に向かい、林眞須美さんに面会しました。
 彼女からはトレーナーから靴下、ハンカチに至るまで真紅のものを一式差し入れてほしいと頼まれていました。その日の面会では、彼女はお気に入りのピンクのトレーナーでしたが、判決を前にして真紅の勝負服に替えたいというわけです。高裁判決の時も彼女は真紅のハンカチを胸にして法廷に臨みました。今回も本人は出廷させてほしいと希望したらしいのですが、「行けなくて残念」とのことでした。せめて拘置所内で真紅の服を着て、意思表示をするということのようです。

林01.jpg 面会室で彼女は、先日最高裁で痴漢冤罪事件が逆転勝訴になった新聞記事を掲げ、「篠田さん、同じ裁判官が判断するのだから私の場合もこうしてほしい」と熱っぽく訴えました。また裁判記録をかざし、検察側の提出した目撃者の見取り図などがいかにデタラメかを訴えました。世間では、今の最高裁の厳罰化の流れから見ると死刑判決の可能性が高いと言われているのですが、本人は全くそうでなく、無罪判決を強く信じていると強調していました。既に房内を整理し、身の回りの衣類などを除いてほとんどの荷物を支援者などに宅下げしてしまったとのこと。「だって無罪判決が出たら私はここから出ていくのだから」と言うのです。逆に私が「篠田さん、弱気なこと言っていてはだめよ」と励まされました。

 励ましに来たはずが逆に励まされて面会室を出て、差し入れ屋さんで差し入れ手続きを行っている時、そこのおばちゃんが、「あの子は幸せだよ。この仕事を長くやっているけど、こんなふうにたくさんの支援を受けている人はそんなにいないよ」と言ってました。本人の無罪への強い思いや、周辺の支援の動き、それと世間の思惑と、それぞれのギャップの大きさに、私は逆にものすごく重たい気分になって帰京しました。眞須美さんとはもう10年以上のつきあいになります。今度の21日の判決がどうなるか。私にとっても重たい判決です。

 この裁判についての説明はここではしませんが、世間で思われているよりも1・2審の判決は論理構造が脆弱なのです。保険金事件を類似事件として挙げて、カレー事件を状況証拠だけで死刑に持って行っているのですが、保険金事件の方の例えば「くず湯事件」などは、夫の健治さんの2審証言でひっくり返り、検察の描いた論理は相当破たんしています。このへんの詳しい内容は『創』4月号に書きました。全文をアップしたので、下の画像をクリックしてください。

 

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 また発売中の『冤罪File』という雑誌に私が一挙50枚の長文のレポートを書いています。これは1998年のカレー事件当初からの私と林家の家族とのやりとりなどを詳しく書き、事件の中身や裁判の経緯を、わかりやすくまとめたものです。『創』は健治さんの判決確定直後の独占手記や、眞須美さんの高裁判決直前の独占手記など、この10年余、節目節目でスクープ手記を掲載してきました。関心ある人は、『冤罪File』 http://enzaifile.com/ や『創』の記事をぜひ読んでください。

 私のもとにも今、テレビ局などから取材依頼が入っていますが、ちょうど雑誌校了間際で超多忙な時期ですが、可能な範囲で取材も受けるつもりです。取材依頼される方は、できれば前述した記事などを先に読んでから連絡してきてください。

 4月15日に奈良地裁で行われた調書流出事件の判決公判を傍聴してきました。業界的には『僕パパ』問題と言われてますが、裁判はその出版のあり方が問題でなく、あくまでも鑑定医の秘密漏示が問われたわけです。というか、著者である草薙厚子さんや出版元の講談社でなく、情報提供者を痛めつけるというのが検察側、国家側の戦略なわけです。

 

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 傍聴希望者の倍率は2倍くらいかな。開廷前に裁判所のロビーで奈良在住の市民がいて「『創』の篠田さんですね、いつも雑誌読んでます」と声をかけられました。たぶん彼以外は傍聴したのは大半がマスコミ関係者だったと思います。吉岡忍さんら見知った顔も何人もいました。そういえば毎日新聞が、検証委員会の元委員だった山田健太さんも傍聴していたかのように書いてましたが、山田さんは来ていません。以前の公判には来ていたという意味で本人が言ったのを記者が聞き違えたのでしょうか。

 

 
 判決についての具体的な感想は長くなるので省略します。公判後、私も囲み取材を受け、一部の新聞にはコメントが載りました。

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 ただ私がいささか衝撃を受けたのは、判決後の記者会見での被告の元鑑定医・崎浜さんの言葉でした。会見で「資料を見せたのは間違いでなかったが見せる相手を間違えた、というのは今もそういうお気持ちでしょうか」という質問が出たのですが、崎浜医師は「その言葉が独り歩きしてしまってちょっと困っているのですが」と冗談まじりに言った後で、こう言ったのです。「それでは草薙さんや講談社以外ならよかったといえば、他にもそういうジャーナリストはいなかったのです」。これ衝撃的な発言ですよ。

 今や崎浜さんと草薙さんは敵味方のようになっていますが、崎浜医師は草薙さんが広汎性発達障害について詳しいジャーナリストだということは認めていたわけです。それを信頼して協力したのに、全く自分の意思に反した本になってしまった、ということなのです。


 崎浜医師は自分の意図は今でも間違っていなかったというのですが、その意図とは、自分が鑑定した少年が決して世間に思われていたような殺人犯ではなく、少年に殺意はなかったということを何とかして社会に知ってほしいということだったのです。それを知ってもらいたくてジャーナリストに内部資料を見せたわけです。草薙さんはその使い方を間違えたわけですが、じゃあ他のジャーナリストなら崎浜医師の意図をくみ取りそれを社会に伝えるということができたかというと、そういうところはなかったというわけです。


 会見場でそれを聞いていて重たい気分になりました。つまり、崎浜医師が自分のリスクを覚悟で訴えたい真実があったというその局面で、それをきちんと受け止めて社会に伝えるジャーナリズムが存在していなかったということ。結局、これは今のジャーナリズムが本来の役割を全く果たせていない情けない状況だということを示しているわけなのです。だからジャーナリズム界は草薙さんと講談社を責めるだけでなく、崎浜さんという情報源をきちんと掴み、あるべき報道をなしえたところがなかったという、この現実を深刻に受け止めるべきなのです。

 この事件は全体を通して、つまり国家権力が本格的に介入した後の対応を含めて、まさにジャーナリズムの脆弱性をもろに浮き彫りにしたもので、もちろん講談社の責任は大きいのですが、他人事のようにそれを責め立てるのでなく、もう少し皆が自分のこととして問題を受け止めなければいけないと思います。

 で、何となく重たい気分になって、実は一夜明けた16日は大阪へまわり、林真須美さんに接見しました。彼女の近況を含めたこの報告は、また一呼吸置いてアップします。(篠田博之)

 『週刊新潮』の虚報問題が大騒動になってますが、きょうはその話でなく『AERA』です。発売中の号で、『創』の連載執筆者・鈴木邦男さんが「現代の肖像」で大きく取り上げられてます。ミヤマ荘の内部も初公開!って、それはニュースバリューないか(笑)。

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 取材に半年くらいかけた力作で、「活動家から言論人へ」というキーワードで鈴木邦男さんをわかりやすく論評しています。前半は鈴木さんの「言論の覚悟」ぶりを、そして後半では右翼という原罪との格闘、という構成もよくできています。鈴木さんを知るためには必読の記事といえましょう。

 

  

 ただ少しだけ感想を言うと、右翼というレッテルの呪縛という話がちょっと多すぎます。鈴木さん自身が気にしているので話が長くなったのでしょうが、それよりも鈴木さんにとっての言論とは何かという話をもう少し書いてほしかった。例えば鈴木さんが著書に敢えて自分の自宅ミヤマ荘の連絡先を記入し、それもあって自宅を放火されたりしていること。この放火事件はぜひ紹介してほしかったですね。

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  逆に言うと、鈴木さんの肉親のコメントなど、これまで出ていなかった話も書かれており、よく取材しています。このあたりの話はもう20年以上のつきあいになる私も知らなかったことです。

 ちなみに「言論の覚悟」という鈴木さんのキーワードは『創』連載のタイトルで、著書のタイトルでもあります。『週刊新潮』の問題もそうですが、言論に携わる人間にこういう覚悟が薄くなったことがジャーナリズムの劣化を招いているわけで、その意味では鈴木さんの言論活動から学ぶべきことは大です。

 単行本『言論の覚悟』は、続巻を何とか今年中に出そうと思っています。 (篠田博之)

 

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 7日発売の月刊『創』5月号はマンガの大特集。 人気漫画家が大勢登場するが、その中での一人、「もやしもん」「純潔のマリア」の石川雅之さんから、読者へのプレンゼントが! 石川さんが自費で発注したというレア物、ケータイストラップに付けるアクセ「松茸菌」を抽選で5名に。

 

ほしい人は、『創』5月号の巻末のとじ込みハガキで申し込もう!



 

takusannkin.JPGのサムネール画像

 また、『イブニング』編集部より、A.オリゼー、A.アルテルナータなどの菌アクセサリーをいただいているので、こちらは抽選から漏れた方の中から再抽選して5名に、セットでプレゼントします。

 「もやしもん」は『イブニング』にて、「純潔のマリア」は『good!アフタヌーン』にて(ともに講談社刊)大好評連載中!

 



 

 

石川さんの他に登場していただいた方々は以下の通り。豪華ですね。

松本大洋 「竹光侍」
河合克敏 「とめはねっ!鈴里高校書道部」
浅野いにお 「おやすみプンプン」 (小学館『ビッグコミックスピリッツ』連載中) 
瀧波ユカリ 「臨死!!江古田ちゃん」(講談社『アフタヌーン』連載中)
槇村さとる 「リアル・クローズ」(集英社『YOU』連載中)
磯谷友紀「本屋の森のあかり」(講談社『Kiss』連載中)
きら「パティスリーMON」(集英社『YOU』連載完結。コミックス全10巻)
                             (以上、敬称略)

千葉県東金市で起きた女児殺害事件で昨年12月6日に逮捕された容疑者が知的障害者だったため、その報道をめぐって大きな論争が起きている。マスコミ報道批判をしているのは同容疑者の弁護人である副島洋明さんで、『創』は2月号以降、同時進行連載の形でその主張を掲載している。そのインタビュー記事で批判されたTBSが、副島弁護士ばかりか『創』にも掲載責任を問う抗議文を寄せているし、副島弁護士もTBSだけは許せないと、BPOへの申し立てを行い、裁判所への提訴も検討中だ。論争には毎日新聞社も大きく関わっているのだが、個別の事件でここまで継続的に論争が起こるのは珍しい。全体を整理するために『創』4月号に掲載した、編集部による論争のまとめをここに転載しておきたい。

 

東金事件報道をめぐる論争の経緯 篠田博之


 本誌もTBSから抗議文を受け取るなどしているから決して他人事ではないのだが、東金事件をめぐり、知的障害者の関わった犯罪報道のあり方についての論争が繰り広げられている。2月20日時点までの応酬を紹介しておくことにしよう。
 

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 事件が起きたのは08年9月21日だ。女児が行方不明となり、遺体で発見された。容疑者が逮捕されたのは12月6日。知的障害者の諒君だった。
 

 逮捕と同時に、それまで見込み取材で諒君の映像やインタビューをとっていたマスコミは一斉にそれを報道した。その時点で副島洋明弁護士はまだ弁護人になってはいないのだが、8日のTBSの報道を見て仰天した。「ニュース23」で容疑者がカラオケに興じる映像を流していたからだ。知的障害者をそんなふうにさらしものにすることに、長年彼らの支援に関わってきた副島さんは激しい怒りを覚えたのだった。