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田代まさしさん4度めの逮捕には思わず絶句した。 篠田博之(『創』編集長)

マーシーこと田代まさしさんの逮捕には思わず言葉を失った。だって、この1年くらい仕事も順調に増え、音楽活動も始めていた。しかも1カ月ほど前には『帰ってこいマーシー』という激励本も出て、記者会見までやっていたのだから。
7月29日のその会見には私も発言したのだが、奇しくもこんな話をしたのだった。「最近は田代さんと会う機会もだんだん減ってきたけれど、これは田代さんの仕事や生活が順調に行き出したため。もう一時期のようなサポートがいらなくなったためなんです」と。
「刑務所は地獄だった」と言っていた田代さんの薬物依存との闘いについては創出版刊『審判』をご覧いただきたいが、その闘いも一定の成果をあげ、薬物依存からの脱却は軌道に乗ったし...と、会見での発言はそういう趣旨だったのだが、まさかその時、再び薬物に手を染めていたとは......。しかも、約1カ月ぶりに会ったその時、「あれ、また痩せました?」と聞いたら、本人は「いや体重はその後減ってないから」と否定していたのだった。一時、激やせしたのは胆のうの手術を行い、その後も食事制限をしていたからだが、それにしても昨日の逮捕直後の容貌を見た人はびっくりしたに違いない。激やせというレベルを超えていたからだ。逮捕による絶望感と憔悴が表情に出ていたのだろう。

逮捕騒動に暮れた昨日は、夕方から田代さんが居住していた妹さんのマンションに行っていた。本人以外で一番ショックを受けたのは妹さんたちのはずで、ちょっと心配にもなったし、報道陣がマンションに張り付いて出入りができない状態だったから、それを何とかしようという目的もあった。
妹さん2人とも話したのだが、今回の薬物については本当に「何故なの?」という感じだ。理由がわからない。仕事も生活も一応は順調で、周囲にもたくさんの応援する人たちが集まっていた。この2年3カ月は、本当に大変なことの連続で、出所直後は名前を聞いただけで前科がわかってしまうから携帯電話の契約も部屋の契約もできないような状況だった。そういうマイナスからの再スタートを切って、少しずつ理解者が増えていったのに、今回、それが全て無駄になってしまったわけだ。妹さんたちも私も、思わず「脱力」という感じだった。

妹さんの携帯にはひっきりなしに電話が入り、「変な気を起こしてはだめだよ」と心配した知人の激励を受けていた。妹さんは時には号泣。「お世話になった人たちに会わせる顔もないし、それを思うと死にたいような気持ち」とも言っていた。恐らく留置場の田代さんも「死にたい気持ち」になっているはずだ。置かれた状況を考えると、今回は気をつけないと本当に自殺してしまう怖れもあると思う。
今回は改めて薬物依存の怖ろしさを思い知らされた。たぶん本人だって頭の中では、今度手を染めたらもう帰るところがなくなってしまうことはわかっていたはずなのだ。それが理性ではやめられないのが依存症の怖さだ。この2年3カ月で大変な思いで勝ちとったものを一瞬にしてゼロにしてしまった。しかも、今度は「やり直すから」と言ったって、応援してくれる人はそういないだろう。そんなことわかっているはずなのに、それでもやめられなかったわけだ。
 
田代さんが生活していたマンションは妹さん家族の居住地だったのだが、昨日はそのマンションにマスコミが張り付き、建物が特定できるような映像をテレビで映すわ、近隣住民に取材をするわ、出入りする人を誰何するわ...。妹さんとその家族は被害者なのに、その彼らをさらに痛めつけるようなメディア・スクラムぶり。ワイドショーなどスタジオでキャスターが正義を振りかざして逮捕された人間を断罪するのだが、現場でのこの無神経さには本当にあきれた。
しかもお粗末なことに、実は夕方、捜査員6人が田代さんの部屋に入り、家宅捜索と妹さんたちの事情聴取を行ったのだが、正面にしか張り付いていない報道陣はいっさい気づかない。いったい何のためにマンション前に群がっていたのだろうか。

前回の田代さんの裁判には私も証人として出廷したのだが、今度の法廷では、薬物依存対策についてもっと突っ込んだ議論をしてほしい。これだけ日本社会に薬物が浸透している現在、刑罰を科すだけでそれを防ごうというやり方では薬物防止ができないことはもう明らかだ。ドラッグコートのある米国のシステムや考え方を日本も近年、少しずつ取り入れているようなのだが、本当はもっと本格的な薬物対策を講じなければならない時期に日本が至っていることは明らかなのだ。

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