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『ドキュメント死刑囚』ミクシイで大議論に。

死刑囚.jpgのサムネール画像 12月13日に『創』編集長・篠田博之著『ドキュメント死刑囚』についての記事がミクシィのニュースで紹介されたところ、そのニュースについてたちまち1200件もの日記が書かれました。それぞれの日記にまたコメントがついていますから、とても全部は読み切れないほどの意見・感想が書き込まれたことになります。
 紹介された記事は元々雑誌『サイゾー』のインタビューで、それが同誌の「日刊サイゾー」に転載されたもののようです。死刑問題についてこんなに議論が盛り上がるというのは、恐らく今月から裁判員制度が本格始動し、多くの人が関心を持ち始めているせいでしょう。元のインタビュー記事はこちらからアクセスできます。

 自分の著書についてこんなに多数の人が議論を行うというのはそれだけでありがたいことですが、「自分は死刑制度に賛成だから廃止論者の意見は聞きたくもない」といった反発の声もあり、賛同・反発相半ばという感じ。でも、この著者の主張は別に死刑廃止論でないぞ、よく読めよ」という親切なアドバイスもあったりしました。確かにあの本は著者としては別に死刑廃止論を展開したという気持ちはないのです。というか、死刑存廃論議にどうも現実から少し遊離した硬直した応酬という印象を持つことがあって、そうではなくて個々のケースに即して考える必要があるのではないか、というのがあの本の基本的スタンスです。

 『ドキュメント死刑囚』は宮崎勤、小林薫、宅間守という3人の死刑囚の自分との関わりを書いたものですが、確かにいずれのケースも、死刑によって彼らは本当に罪を償ったことになるのだろうか、それが本当に解決になるのだろうか、という疑問がこの本の基本的モチーフです。その意味では、死刑を宣告すれば最大の罰を与えたことになるという社会通念を批判したと言ってよいでしょう。例えば小林薫死刑囚のように、元々「死にたい」と言っていて、裁判でも事実関係についていっさい争わないという人物にとって、死刑宣告と生きて償うことと、どちらが重たい刑罰かと考えると、どうも彼を処刑することで何かが解決するという考えは間違っているのではないかと思えるのです。

 それから書き込まれた意見に、「死刑廃止論者は被害者の立場をもっと考えろ」といったものも目についたのですが、『ドキュメント死刑囚』では、小林薫死刑囚に娘を殺された両親の訴えに相当多くのページをさいています。法廷でそれを聞いたほとんどの人が涙を流しましたし、あの本を読んだ人にぜひあの箇所は熟読してほしいとも思っています。そして被害者の訴えに涙を流すというのが事件取材の原点で、そのことを我々ジャーナリストは忘れてはならない、とも思います。でも、その法廷にいながら涙を流さなかった加害者の小林被告を、ただ「冷血」と指弾するのでなく、彼はその訴えをどう受け止めたのか、自分の母親のことになると法廷で涙ぐんだ彼が被害者の訴えになぜ涙を流さないのか。それを考えることから、こういう凶悪犯罪を予防する第一歩が始まるような気がするのです。
 これまでの多くの議論は、被害者側に立つか加害者側に立つかで最初に立場が分かれ、どうも硬直した応酬に終始している気がしてなりませんでした。被害者の涙の訴えを直接小林死刑囚にぶつけ、「あなたはどう思うのか」と尋ねる、そしてその死刑囚の言葉を社会にまた投げかける。そういう作業がジャーナリズムの仕事ではないかと思うのです。
 
 ミクシィに書きこまれた意見には、『創』に言及したものも多く、「これまで犯罪者の味方ばかりをする気色の悪い雑誌かと思ったらそうでないことがわかった」という意見もありました。また学生時代マスコミ志望で、篠田の講義を聞いたという書き込みをした人も多く、なかには作文添削でボロクソに酷評されたという人もいました。既存のマスメディアではありえないネットを通じたコミュニケーションのすごさを改めて感じるとともに、それぞれの意見を今後の参考にさせていただきたいと思います。

朝日新聞記事のサムネール画像

 おかげさまでこの大議論の直後から『ドキュメント死刑囚』を買い求める人がたくさんいたようで、アマゾンのランキングが急に100何位かに跳ね上がりました。発売後に、朝日新聞の読書欄に大きく紹介された時も順位が跳ね上がりましたが、その時と同じ状況です。朝日新聞の記事については、今でもアサヒコムから検索できます(記事はこちら)が、同業者でもあの記事を読んで本を買い求めたという人が多く、朝日の影響力を改めて知らされました。今回のミクシィの影響力も恐るべし、です。 書評関係では、発売後『週刊文春』が大きく取り上げてくれたのを始め、たくさんのメディアで紹介されました。この11月の奈良女児殺害事件の被害者の命日には、朝日新聞が奈良県版で篠田のインタビューを大きく載せました(写真参照)。 『ドキュメント死刑囚』は順調に増刷がかかっており、現在15000部。多くの人に読んでもらい、ぜひ死刑の問題について議論してほしいと思っています。    (篠田博之)

 

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