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創出版: 2009年11月アーカイブ

 今回は業界内の薬物汚染について書こう。前回に続いて『創』に掲載した
手記を紹介する。2004年1・2月号の元講談社『少年マガジン』副編集長の
告白だ。2002年大麻所持で逮捕されたのだが、この事件は出版界に激震を与
えた。というのも、当時の『少年マガジン』の副編から2人が芋づる式に逮
捕されたからだ。一人の逮捕を受けて講談社の局長が慌てて警察を訪ねると、
「実は今朝もう一人逮捕された」とその場で告げられたというのだ。

『創』はこの事件を02年8月号で詳しく報じたのだが、ここで紹介したのは、
その逮捕された当事者のインタビューだ。「講談社は真面目な人ばかりです
よ」と語っているが、逮捕された人がそう言っても説得力はないかも。でも
この久保さんとはその後も何度か会ったけれど、なかなか面白い人だ。大麻
を今でも悪くないと言っているところなど、無頼っぽくていい。大手マスコ
ミに対する幻想を打ち砕いてくれる。今ではマスコミ業界で薬物事件など珍
しくなくなったが、逮捕例が多くなったのは1990年代後半からだろうか。あ
まりそういう人がいそうにない文芸春秋でも薬物逮捕者が出たりしたから、
もうどのマスコミで逮捕が出ても不思議ではない。

「創」の記事は以下のURLを参照(PDFファイル)
http://www.tsukuru.co.jp/kodansha.pdf

 衝撃的だったのは、オウム事件の取材で活躍した共同通信社の社会部のエ
ース記者が薬物で逮捕されたことだ。しかもかなり重症で、独り暮らしの部
屋の中は無茶苦茶だったという。最前線で取材に奔走しながら、この人はど
うして薬物に走らざるをえなくなったのか。正義のためにやっていると最初
は考えていた自分の仕事に虚しさを感じるようになったのか。こういう事例
は深刻な問題を提起しているのだが、それについては次回書こう。

※このコラムについての感想や意見はmixiのコミュニティ「マスコミ就職フ
ォーラム」で募集しています。
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 前回、新潮社と小学館に入社後、自殺した新人の実例を紹介したが、今回は入社して半年以内に退社した2人の手記を紹介しよう。

 最初は『創』88年9月号に掲載した女性記者の手記だ。早大在籍中から中国に留学して現地報告を朝日新聞社の媒体に発表し、優秀だと評価され、期待されて採用されたのだが、半年で退社。そして手記を『創』に発表したのだが、これが大反響を呼んだ。単なる愚痴でなく、筋の通った告発だったからだ。これを機に朝日新聞社は新人教育システムを見直し、翌年の選考の面接でもこの手記が話題になったほどだ。
 もうひとつは読売新聞社を3カ月で退社した男性の手記で、『創』90年9月号に掲載された。こちらも大きな反響を呼び、手記に出てくるデスクは左遷させられるという事態を引き起こした。

 この時代は、こんなふうに大手マスコミに合格しながら何カ月かで辞める事例が増え、問題になり始めた時期だった。それ以前は日本は終身雇用制が確立していたため、一度入った会社を辞めると不利になると、疑問を感じていた人も我慢したものだった。だから、大手新聞社やNHKなど、皆の憧れの的だったはずの職場から退職者が相次いだことは、それらの会社に衝撃を与えたのだった。

「創」の記事は以下のURLを参照(PDFファイル)
http://www.tsukuru.co.jp/asahi.pdf
http://www.tsukuru.co.jp/yomiuri.pdf

 ここに紹介した2人の手記は、もうだいぶ昔の事例で、当時の状況と現在とで変わった面もあるが、大部分は今でも参考になる内容だ。これからマスコミをめざす人たちにぜひ読んで一緒に考えていきたいと思う。
(以下次号)

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『マス読』を30年近くも続けてきて、様々な学生との出会いがあった。そん
ななかで今回紹介するのは悲しい思い出だ。

 2004年12月に『週刊新潮』の記者が西新宿のホテルで、ドアノブにひもを
かけ首つり自殺した。その年の4月に早大を卒業して入社した男性だった。
学生時代から真面目な男性で、仕事上のことで思い悩んだ末の自殺だとされ
た。
 葬儀に当初、遺族は新潮社関係者の参加を拒否したという情報も伝わって
きた。当然ながら、自殺に至った事情を取材した。その結果、いろいろなこ
とがわかった。実の兄弟が関西のテレビ局に在籍していることもわかった。
1月に何度か接触を試みた。しかし、遺族の返事はこうだった。「今はそっ
としておいてほしい」
 新潮社内部の人にもオフレコで話を聞いて、記事にできるくらいの材料は
あったのだが、遺族のその言葉を聞いて、記事にするのをやめた。人の生死
にかかわることを外部からあれこれ詮索するのが僭越だと思えたからだ。も
し遺族がこの自殺に納得できないからと話を聞かせてくれるなら記事にしよ
うと思っていたのだが。

 もうひとつ、こちらはもっと悲しい話だ。93年5月号の『創』で記事にし
ているので、それをご覧いただくことにしよう。小学館に入社して3カ月後
に自殺した男性の母親から手紙をもらったのがきっかけだった。一人息子が
ようやく憧れの出版社に入社して喜んだのもつかの間、わずか3カ月後に自
殺し、母親ははかりしれない衝撃を受けた。遺品の中に『マス読』があった。
自殺した男性はその年、『マス読』に合格体験記を執筆し、その現物を大事
にとっておいたのだ。
 当時はネットのなかった時代で、『マス読』はマスコミ志望者のほとんど
が情報源にしていたまさにバイブル的な本だった。そこに合格体験記を執筆
するのがマスコミ志望者の夢だった。自殺した息子の机を整理していて、母
親はその本に気付き、息子が合格体験記を執筆していたのを知って手紙をく
れたのだった。

 この件については、私も小学館関係者も含め、相当の取材を行った。その
一端を記事にしたのが『創』93年5月号だ。今読み返しても、当時のことが
思い出されて胸がつまる。プライバシーに関わることなので、この記事もだ
いぶ抑えて書いている。小学館に入社して希望通りの配属がかなわなかった
ことが最初のつまづきで、自身を喪失し、辞表を提出と、不幸な経過だった。

 次回、今度は朝日新聞社に入社後、半年で退社して『創』に手記を書いた
女性のケースを紹介しよう。この手記は大きな反響を呼び、朝日新聞社はそ
の後、新人研修システムを変えることになった。  (以下次号)

『創』93年5月号の記事は以下のURLを参照(PDFファイル)
http://www.tsukuru.co.jp/11_17.pdf

 マスコミでもSPIなどの適性検査を実施する会社が多くなった。それに伴っ
て書店の就職コーナーにはSPI対策本があふれるようになった。その適性検査
の中味についてここで紹介しようというのではない。
 ここで考えてみたいのは、あの適性検査はいったい何のために実施してい
るのか、ということだ。就活に追われてそんなことを考える余裕はなくなっ
ているかもしれないが、大事なことなのでここで考えてみたい。

 もともとSPIとは70年代以降、リクルートの関連会社で労務管理のために
開発されたものだ。それがこの10年ほどマスコミにも一気に浸透したのには
理由がある。マスコミ内定者で、学業成績は優秀だが、入社後精神的不安定
になったりする人が増えたからだ。
 昔は労務管理といえば新入社員については、学生運動などに参加していな
かったかどうか身元調査をすることが多かった。ところがいまや学生運動経
験者などほとんど存在しない。それに代わって、別の労務管理問題が深刻に
なりだしたのだ。精神的に不安定になったり、自殺や薬物依存といった事例
が増えたのだ。

 だから入社時に、組織の中で周囲に溶け込めるか、精神のバランスはとれ
ているか、協調性があるかといった、パーソナリティに関わる部分をチェッ
クするようになった。学業や知識の多さなどは一般常識試験でチェックすれ
ばよい。適性検査はそうでなく、その人のパーソナリティやメンタルな面が、
その会社で仕事をするのに適しているかどうかをみるためのものだ。つまり、
採用にあたって、そういう要素を勘案する必要度がこの10年ほど増したとい
うわけだ。

 特にマスコミに合格するのは、高校・大学までは、いわゆる優秀だと言わ
れてきた者が多い。そういう人が社会に出て、人間関係でつまづいたり、組
織の中でうまく協調できなかったりして、挫折感を味わう、その機会が入社
直後であることが多いのだ。
 この10年ほど、目立つようになったのは、大手マスコミで、入社後1年以
内に辞めてしまう人が増えたことだ。これは終身雇用制の崩壊という社会シ
ステムの変化とも関わっているのだが、もっと深刻なのは、自殺してしまっ
たりする人もいることだ。適性検査はそういう悲劇を防ぐために実施してい
るのだが、次号で実際に起きた事例を紹介していこう。(以下次号)