トップ> 編集長の目 > 創出版: 2008年1月アーカイブ

創出版: 2008年1月アーカイブ

 最近最も驚いたのはNHK職員のインサイダー取引の話です。最初に問題になった職員以外に、内部調査が進むにつれ、NHKではこれまでも職員が同様に株取引をやったケースがたくさん発覚しているようです。これ、ジャーナリズムにとっては命とりともいうべき根幹に関わる事柄。不祥事が日常茶飯事になっていささか感覚が麻痺しつつあるメディア界でも、ここまでやるか、と驚きを隠せないひどい話です。何のためにジャーナリズムを志すのかという、当事者が本来持っていたはずの理想や理念がここまで瓦解してしまったのはいったいなぜなのか。これからマスコミをめざす人にちょっと考えてみてほしいテーマです。マスコミというのは情報に早く接することができるし、大手マスコミは給料も一般の人に比べてはるかに高い、いわば特権を持った集団なのですが、モラルが崩壊するとそれをここまで悪用する人が出てくるという実例です。こんなことが続くと、ジャーナリズムは自壊作用を起こすことは必至で、今回の事件は、職員が接待費をごまかしていたといったこれまでの不祥事に比べてはるかに深刻な問題です。

 でも、私は「ジャーナリズムの劣化」と呼んでますが、最近ひどい話が多すぎます。正義の味方と思われていたのがこの10年ほどで一気に信頼崩壊した職業といえば、警察官と弁護士と言われてますが、マスコミも遠くない時期にその仲間入りをするかも。

 そういえばこのところ、三田佳子さんの二男の覚せい剤事件で、ワイドショーなどの取材を受ける機会が続いたのですが、それら情報番組の見識のなさにもがっかりしている今日この頃です。私のコメントも、忙しい中を収録に1時間くらいとられて、せっかく協力したのに、放送されたのを見ると大事なところを取り上げず、刺激的な部分のみ使うというケースが多く、いったい何を考えているのかと思うことが多いのです。同業者として彼らの取材にはなるべく協力したいと思ってきましたが、今後は基本的にテレビの取材は報道番組以外は断ろうかと思っています。

 げえーっ。けさフジテレビ「とくダネ」に映ってた自分の顔を見たら、あまりにも疲れきった表情をしてて、恥ずかしかった。テレ朝「スーパーモーニング」の方はまあまあでしたが。でもテレビって、どうして話した内容を大半カットしながら、どうでもいい裁判所前を歩いてるシーンとかを放送に使うのでしょうかね。

 ただ最近疲れきってるのは確かで、19日の関西マス読ライブの日も、京都の会場で司会やりながら廊下に出ては携帯で打ち上げの座席の交渉をしたりと、相当疲れましたが、そのまま深夜東京に帰って、東京新聞の21日掲載のコラム原稿(北海道新聞と中国新聞にも転載)を朝4時までかかって執筆。週明けには朝から三田佳子の息子の公判を傍聴し、テレビ取材を3件受け、合間をぬって作家/写真家の藤原新也を訪ね、ケータイ小説についての話を聞くという感じでした。藤原新也の話は『創』3月号に載りますが、これがなかなかいい話で、ケータイ小説論としては秀逸です。

 22日のきょうは朝から電通の澤本さんのインタビュー。例のソフトバンクの、父親が犬というシュールな家族のCMを作った今一番人気のクリエイターです。あのCMがどんなふうに作られているか詳しく聞いたのですが、次号『創』の広告特集に2ページしか紹介できないのが残念。でも澤本さんもチョー多忙で、深夜帰宅で早朝から仕事という生活のようです。犬の家族はきょうから新バージョン放送開始。澤本さんは近々封切りの犬の映画の脚本も書いている多才な人です。

 『創』ってマスコミ就職の雑誌かと勘違いしている人もいるのですが、本格的なジャーナリズムの雑誌で、発売中の2月号にも、隠蔽された徳島刑務所暴動のスクープなどが掲載されています。獄中での虐待に抗議して40人の受刑者が暴動を起こしたなんて事実、ほとんどの人が知らないでしょう。権力の側が必死に隠蔽してしまうと、事実であってもほとんど報道もされないのが現実なのです。

 本当はマスコミ志望の人たちって、狭い受験勉強でなく、クリエイターの話を聞いたり、ジャーナリズムの現場に出掛けたりとか、そんなことの方が役に立つんですよね。2月のマス読ライブ広告編には著名クリエイターもたくさん出演します。

 昨日のマス読ライブ映画映像編も、北海道や鹿児島から参加した人もおり、打ち上げではみなが思いを熱く語っていました。ライブでも話しましたが、この映画映像という分野は、今大きく変化しつつある業種です。従来の狭義の映画会社に限定すれば採用数は極めて小さいのですが、今は邦画ブームとあって様々な会社が映画に参入しつつあります。「ALWAYS~」の続編で話題になっているロボットも、元はといえば広告制作会社でした。番組製作と広告制作の会社として知られる東北新社も次々と映画を手がけています。出版社だって小学館が神保町に映画館を建ててしまう時代で、出版社の映画
への取り組みも拡大の一途をたどっています。avexだって今や音楽だけでなく映画の会社でもあります。
 そんな時代だからこそ、自分は何をやりたいのかよく考え、どこをどう受験したらよいのかできるだけ調べていただきたいのです。以前からよく言ってきましたが、まず「映画を作りたいのか」「映画会社に入りたいのか」どっちなのかを考えてほしい。東宝、東映など日本の映画会社が永らくほとんど自社製作をやらなかった時代には、この2つは全く別のことだったのです(最近は邦画ブームで自社製作も増え様変わりしていますが)。  
 それとの関わりで言うと、月刊『創』2月号に、あの大島渚監督の息子の大島新さんが今度劇場映画に初めて挑戦したというので登場していますが、彼がなぜフジテレビをわざわざ退社してフリーのドキュメンタリストになったのか、そのあたりもぜひ読んで考えてみてください。
 昨年夏に公開された「ひめゆり」というドキュメンタリー映画を作った監督も、NHKで沖縄をテーマに仕事をしていたディレクターで、わざわざNHKをやめて戦争や沖縄というテーマに本格的に取り組んだものです。企業の社員であることと、表現者でありたいという思いは、時として両立しない場合もある、ということを映画志望者は考えてみてもよい気がします。