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2007年9月アーカイブ

 ジャーナリスト草薙厚子さんが講談社から上梓した単行本に掲載された奈良少年事件の供述調書の流出経路をめぐって鑑定医などが家宅捜索を受けた。著者の草薙さんや講談社の担当者も事情聴取を受けるなど、事件は異例の事態に発展しつつある。
 けさ18日の朝刊で朝日新聞社もこの問題を社説で取り上げ、先週の読売・毎日に続いて大手紙の見解が出揃ったことになる。言論・表現の自由に軸足を置いた論陣を張ったのが毎日と朝日。読売は著者と講談社に批判的だ。先週驚いたのがテレ朝「報道ステーション」の扱い。ちょうど金曜のゲストは元検事総長の堀田力さんだったから、検察当局寄りのコメントを出すのは目に見えていたが、司会の古舘さんがこれに安易に同調し、極めてバランスを欠いた扱いになった。
 言論表現の問題をめぐって、こんなふうにマスコミの論調が分裂するのは、現在のジャーナリズム界の混迷状況の反映といえる。週末に一斉に報道されていたが、図書館でもこの本を閲覧制限するところが出ているのも由々しき事態といえる。
 私はといえば、先月、日本ペンクラブでこの問題について声明を取りまとめたばかり。強制捜査という新たな事態を受けて、ペンクラブでも改めて議論が起きている。
 これからマスコミをめざす人たちには、こういう問題について関心をもってほしいと思う。先週金曜の読売・毎日と今朝の朝日の社説をまず読み比べ、どこがどういう問題なのか、自分はどう考えるのか。ぜひ考えてほしい。
 ちなみに、著者の草薙さんの見解は、発売中の月刊『創』9・10月合併号を見てほしい 。草薙さんがまとまって見解を述べたのはこれだけなので、今回の報道でも、読売新聞を始めあちこちで引用された。日本ペンクラブの声明は、同団体のホームページに公開されている。少年事件のあり方やノンフィクションの手法など、議論すべきことはたくさんあるが、言論表現の問題に国家がこんなふうに直接介入してくるのには反対だ。ペンクラブの声明の趣旨はそういうことで、私の見解と同じだ。放送の領域で顕著だが、このところの言論報道機関への国家の介入の激しさは驚くばかりだ。
 先週来、この事件ととともに、光市母子殺害事件をめぐる橋下徹弁護士発言についてもあちこちで発言した。一番よくまとまっているのは先週金曜の朝日新聞の第3社会面か。CS「朝日ニュースター」を見られる環境にある人は、今日・明日再放送の「痛快!おんな組」の「篠田の目」のコーナーでこの問題を取り上げているのでご覧いただきたい。永六輔さんらがレギュラーを務めるトーク番組だ。 

(篠田博之)