デザイン専攻から漫画の編集者へ

Kくん/総合出版社内定


漫画好きという理由で出版を志望

 デザインを専攻する大学に入り、「就職がきびしいぞー」というまわりの大人の影響を受けて、大学生活ではゆるやかにその準備をし続けていたように思います。自分が制作したものの可否があきらかになるデザインの世界は逃げ場がなく、その分やりがいもありました。具体的にはデザインサークルに入って商品開発を行ったり、デザインコンペに応募したりして、プロダクトからグラフィックまで幅広く制作を続けました。大学3年生の時点で自分のスキルに満足ができなかったので、就職活動をせずに大学院への進学を決めました。

 そうやって過ごすうち、いよいよ就活がさし迫ってきた2013年の夏頃、どういう会社を志望するか真剣に考えました。デザインをやってきたからだと思いますが、「何らかのモノをつくっている会社でないといやだ」という気持ちがありました。さらにどういうモノがいいかを考え、漫画が好きだということに思い当たりました。そもそも高校生の頃にデザインの大学に行きたいと思った最初の動機が、「絵とか描くし漫画に近そう」というものだったことも思い出しました。こういう順番で出版社を受けることを決めました。

 就活をする上で最初にやったことで、かつ重要だと思っていたことが「信頼できるメンター探し」でした。大学3年生のときに就活をしていた同期の様子を見ていて感じたことでもありました。まず知り合いのいろんな人に自分が出版社を受けることを伝えて、編集者の方とのつながりを聞きました。

 偶然にも、ウェブサイトの制作で関わったゲーム会社の方の後輩に漫画編集者の方がおり、実際にお会いすることができました。この出会いのおかげで出版社の就活においてやるべきことが分かり始め、『マスコミ就職読本』(以下マス読)の存在も知ることができました。結局、この方には就活の最後までお世話になりっぱなしで、ESの添削や面接対策など、さまざまな形で相談にのっていただきました。

 私の場合、志望する職種にぴったり当てはまる方とたまたまお会いすることができたのですが、メンターだと思い定めるべき方はそれに限らないと思っています。事実、ESの相談に一番しつこくのっていただいたのは他業界の方でしたし、ここでやらなければならないのは「社会人と学生のギャップを埋める」ことだと思います。ここに書き切ることが難しいですが「ESはビジネス文書だと思え」など、いま思えば本当に重要なアドバイスをいくつもいただきましたし、それは「社会人にとって当たり前のこと」でもあるようでした。大学のキャリアセンターでできるOB訪問や自分の人間関係、マス読のイベントなどきっかけはたくさんあると思います。遠慮をできるだけしないよう心がけ、動き回っていました。

 それともう一つ、マス読実践講座で出会った就活生と勉強会を開いていました。情報収集や作文の読み合いをはじめとする筆記対策など、週1回くらいのペースで集まって行いました。いろんな情報や意見を聞けるという具体的なメリットはもちろんありますが、個人的には「お互いに監視し合える」という環境がありがたかったです。例えば作文を週に3本書くぞ!と自分で決めても、なかなか達成できなかったりします。1週目はできたとしても、それを何週も続けるのはさらに難しい。自分のコンディションとは関係なく、無理やりにでもやらないといけない状況は、なまけ者の私にとって本当に救いになりました。ここまでが、本格的に就活が始まる前に行った環境・体制づくりでした。

最も力を注いだES対策

 年が明け、いよいよ各社のウェブエントリーが開始され、同時にESも配布され始めました。就活を通して、最も力を注いだのはこのESでした。なぜかというと、ESはただ面接に呼んでもらうためのものではなく、内定が決まるときまで使われ続ける参考資料だからです。それと後から分かったのですが、面接のときに話すアイデアや意見はESの段階でかなり練ることができます。真剣にやればやるほど、応募先の会社に対する理解も深まります。

 とにかく書きまくりました。他業界も受けようとしていたので、最終的には70社くらい応募したと思います。ESを書く上でのなんとなくの決まりもあると思ったので本を買って勉強し、書いたもののいくつかは社会人の方に添削してもらいました。第一志望である出版業界の前に他業界のESを書きながら学び、出版社のESにはすべてをぶつけるイメージで臨みました。実際に出版社のESは多いもので7回も添削のやりとりをしてもらいました。

 書き続ける途中、先が思いやられることもありましたが、だんだん慣れてきますし、書くべき内容も決まってきます。確実に前半よりも後半のほうが楽でした。最初はしんどいかもしれないけど、折れずにやり続けることが肝心だと思いました。それと個人的に心がけたのは、正直に書くことでした。もちろん書き方として演出をしたりはしますが、事実に嘘はつかない。仮に大きな嘘をついて入社したとしても、仕事をしていく上でいずれ辛い状況になってしまうだろうし、きっと大切なのは入ることだけじゃなく、よりよく働くことだと思っていました。

 そうこうしているうちに筆記試験の時期がやってきました。筆記試験は対策本や情報誌などを使って1カ月前くらいから準備を進めました。ただ作文はもっと前、10月のマス読実践講座に参加して以来、練習していました。直前になると各社の面接やESに追われ、じっくり作文に取り組む余裕がなくなったので、あらかじめやっておいてよかったと思いました。最初に受けた出版社の筆記試験で落ちてしまったので、「筆記試験で全て落ちてしまうかもしれない」と深刻に考えましたが、めげずに勉強し続けて、以降はなんとか筆記試験を突破することができました。

 ついに出版社の面接が始まりました。面接に関してもESと同じく、他業界も受けていました。全ての面接のうちだいたい3分の1くらいは出版社の面接が始まる前に経験したと思います。面接も確実に慣れはあります。ただ漫画編集志望の場合、とにかく漫画の話をしなければなりません。これに関して、先ほどの漫画編集者の方にお会いしたときに苦い思いをしました。「最近おもしろかった漫画は何?」という何気ない質問を受け、ある漫画を挙げたのですが、しどろもどろになってしまい、うまく説明ができません。「それだとあまり漫画を読んでいる感じがしないね」と言われました。かなりショックでした。就活中、明らかに自分より漫画に精通している人に何人も出くわし、その度に「漫画編集が向いていないのかもしれない」と思っていましたが、それでも多少の自負はありました。 すぐにどうすればいいか考え、手始めに今まで読んだことのある漫画について、良い部分と悪い部分を主観的に書き出していきました。そうすると、自分の考えのうち人に共感されやすいものと、そうでないものがあることに気付きました。個人的すぎる趣味については、その作品の魅力として語ると伝わりにくくなってしまいます。それと売れる・売れないという、数字で分かる客観性のあるものさしも持つようにしました。もちろん売れるものが全てというわけでなく、その上で自分はどう考えるか、というところも突き詰めました。

漫画喫茶にこもって単行本を読み漁った

 あとは好きな漫画を増やす努力をしました。書店にある漫画雑誌をできる限り購入して目を通し、漫画喫茶にこもりながら単行本を読み漁りました。読んでいると頭がクラクラしてきて嫌になるときもありましたが、かまわず続けました。

 最初の面接はスクウェア・エニックスでした。かなり緊張もしましたが、就活中で一番楽しい面接ができたのじゃないかと思っています。理由としては編集職のほとんどが漫画編集者の方なので、面接中は漫画の話ばかりしていた、ということがあります。好きな漫画について話すのは基本的に楽しいことですし、その話をプロの方が真剣に聞いてくれるという状況に舞い上がっていたとも思います。「自己紹介をもう一回してみて」というトリッキーな質問もありましたが、同時に「ゆっくり考えていいから」と親切に言っていただき、お言葉に甘えて考えながら話すことができました。全体として話しやすい雰囲気をつくっていただいたようで、「作家とたくさん会話しながらものをつくり出す編集者の人はやっぱり会話のプロなんだな」と、ひとり納得したりもしていました。

 そしていくら話しやすい雰囲気といっても、これは面接全般にいえることだと思うのですが、面接中は一度考えたことのある内容しか話すことができませんでした。その場で思いつくのは本当に難しいです。ですから本番以外、就活中はとにかく考え続けることが大事だと思います。最終的に内定のご連絡をいただいたときは、これで漫画に関わる仕事ができると思い、叫びたいくらいうれしかったのを覚えています。実際にちょっと叫んだかもしれません。

 私は漫画をつくっている出版社しか受けていませんが、もちろん受けた面接が全て楽しかったわけではありません。どうしても会話が噛み合わない面接もありました。そういうときはやっぱり落ちているものですが、後で面接中のやりとりを書き出して悪かった部分を反省しつつ、必要以上に落ち込まないよう「合わなかっただけ」と思うようにしていました。「運よく働けていたとしてもきっと辛かったはず」と合理化をしながら、気持ちをコントロールしていました。 

 就活の終盤には某総合出版社からも内定をいただきました。面接はESをじっくり読みこんだ上で行われていました。「デザインをやっていたのになぜ漫画編集なのか?」という質問が多かったですが、そもそもデザインをやろうと思ったきっかけが漫画であることや、出版社の選考を進めると単純に一番気持ちが動くことを素直に伝えました。最終面接の前には漫画誌以外の全雑誌にも目を通し、総合出版社に勤めたとして、漫画以外に携わる可能性についても考えました。最終的にはコンテンツの幅の広さから自分の適性をより広く捉えられるかもしれないと思い、進路を決めました。

 最後に、就活を通して本当にたくさんの方にお世話になりました。その方達の真心ある手助けがなければ、最後まで就活をやり通せていなかったと思います。ご恩に報いるべく、懸命に働こうと思います。この場をお借りして、お礼を申しあげます。ありがとうございました。


出発点はスポーツ記者になりたいという思い

Fさん/全国紙、通信社内定:
1年間の韓国留学を終えた大学4年の1月に、就職活動を始めた。しかし、なかなか気持ちを切り替えられず、しばらくは久々に会う友人たちと遊んでばかりいた。

新聞か出版か放送か思い悩んだ末に…

Kさん/放送局内定:
1年間の韓国留学を終えた大学4年の1月に、就職活動を始めた。しかし、なかなか気持ちを切り替えられず、しばらくは久々に会う友人たちと遊んでばかりいた。


多浪・既卒就活の末、出版社の編集者に

S君/出版社内定:
浪人時代も長く、いわゆる「マーチ」に届かない私大出身の私は、全国から秀才が集い、かつ高倍率であるメディアの仕事に就くことが果たして可能なのか、という不安があった。

一貫して広告志望だった私の就職活動

Yさん/広告会社内定:
「人のための課題解決がしたい」ただの綺麗ごとかもしれない。でも、これが広告業界を目指した私の心からの本音だった。私は小学生のころ、人と話すことが苦手で内気な自分にコンプレックスを抱いていた。