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月刊「創」ブログ

柳美里さんとの一件をめぐるデマと誤報について

作家・柳美里さんとの一件については『創』12月号に詳しい経緯を書いた通りだ。その後2014年10月30日付で「覚え書き」を交わし、そこで確定された金額を11月4日に振り込み、決着がついた。柳さんもブログ「土壇場で篠田さんが示してくれた誠意に感謝します」と書いてくれた。だからもう改めて触れる気にはなれないのだが、幾つかのことだけ書いておこう。というのも、この間、ネットには事実と違うことが大量に書かれ、それが消えずに残っていたりしているからだ。

 そもそもネットの世界には、何かを書く時に「裏をとる」という発想そのものが存在しないらしい。個人が匿名で悪罵を書いているものは見る方も「裏をとっている」とは思わないしリテラシーも働くのだが、悪質なのは一見「報道」の装いをとっているサイトだ。間違ったことを書いているのでそれを指摘しようとしても、そもそも連絡がとれない。匿名で裏の取れていない情報を書くというのが通例になっているようなのだ。

 ひどい騒動になった一例は、10月31日に柳さんがブログに「篠田さんは、嘘つきです」と書き込んだ件だ。2012年の創出版30周年記念パーティーに執筆陣がたくさん来てくれたという話で、私が「柳さんも参加されました」と嘘を言っているというのだが、唖然とした。そんなことを言うはずがないからだ。

 実は、その発言は「メディアクリティーク」という業界紙に載っていた。記者が取材に来たのに答えて私が説明し、コメント部分の確認も行ったのだが、驚いたことに、確認したコメントに、その後記者が手を加えていたのだった。

 私が確認した段階で原稿はこうなっていた。本誌前号に書いたのと同じ話だ。「2012年6月に『創出版30周年記念&ジャーナリズムを語る会』を開催しましたが、そのときに個人で雑誌を1冊支えるというのは無理なことなので、みんなで支えて続けていく方法はないかという提案があり、原稿料を出資という形に回していただいたり、いろいろなお願いをしました」

 ところが実際に発行された「メディアクリティーク」を見ると、「2012年6月に『創出版30周年記念&ジャーナリズムを語る会』を開催し、柳さんも参加されましたが~」となっていた。わかりやくするために言葉を補ったというのだが、常識ではありえないことだ。柳さんがその業界紙を見て「篠田さんは嘘つきです」とブログに書き、それがネットで増幅された。

 業界紙記者は謝罪に訪れ、このような謝罪訂正を関係各所に送付した。

《記事中における「柳さんも参加されましたが、」の部分は、篠田氏の原稿チェック後に担当記者の田辺英彦が事実を誤解して勝手に書き加えたものでした。2012年6月の『創出版30周年記念&ジャーナリズムを語る会』に、柳さんは出席していません。また、篠田氏も「柳さんも参加されました」という発言はしておりません。この誤報をもとにして柳さんがブログを書かれるなどの波紋を引き起こしてしまいました。ここに、誤報であったことをお知らせして訂正し、篠田博之さん、柳美里さん、読者のみなさまにお詫びいたします。株式会社 出版人》

 謝罪訂正を載せたという意味では、この業界紙も精一杯の誠意は示したのだろうが、一度ネットで流布された後で、その業界紙の謝罪訂正を読んだ人などほとんどいないだろう。でも誤りを訂正しただけましな方かもしれない。創出版は社長と経理の2人しかいないとか、調べればすぐにわかるでたらめを平気で書き散らしているサイトの方が多いのだから。『創』は原稿料が1枚2万円なのにそれを払っていないという誤りも流布されている。出版界を少し知っている人なら原稿料1枚2万円などというのは大手出版社でも通常ありえず、まして『創』にはありえないのだから、報じる前に確認するのが普通だろう。実際に確認を求めてきたのは、皮肉なことに前述の業界紙「メディアクリティーク」だけであった。

 確認を求められたのでこう答えた。掲載されたそのままを引用しよう。

「1枚2万円という話はしていません。『創』は当時、400字原稿1枚4000円を基準にしており、コラムはほとんど4ページなのですが、当時はどの方にも謝礼は5万円なんです。柳さんのコラムは、彼女を応援するというつもりで始めたので、負担にならないように、写真を入れるので原稿は短くても構いませんとお伝えしました。実際、連載開始当初は、ページの半分以上を彼女がブログにアップした写真や画像で構成していました。カラーグラビアのページなので写真中心でよいと思ったのです。ですから本文ページの連載コラムの執筆者の方たちには4ページだと原稿用紙10枚分を書いていただいているのですが、柳さんの場合は、原稿の分量は最初は2枚か3枚くらいだったと思います。今思うとそこから、原稿400字1枚分が2万円、というふうに思われたのかもしれません」

 事実確認を求められれば説明していた。

しかし実際に確認を求めてきたのは1紙のみで、ネットでは誤った話が平気で増幅されている。ネットはそれ自体は革命的なメディアだが、誤報虚報の横行は何とかならないものか。

 

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