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月刊「創」ブログ

死を望む者に死刑は処罰か

 12月18日、水戸地裁で金川真大被告(26)に死刑判決がくだされた。昨年3月、死刑になりたいという理由で、JR荒川沖駅で無差別殺人を行った事件だ。判決公判を傍聴し、毎日新聞の依頼を受けて寄稿した。19日付朝刊に掲載された記事は紙面の都合で少し短くなっている。元の原稿をアップしよう。 (篠田博之)

水戸地裁.JPG 判決公判を傍聴した後、被害者遺族の話を聞いた。家族を理不尽に殺害され、しかも金川真大被告からは一言の謝罪の言葉もない。遺族にとってはやりきれない思いだろう。
 一週間前、金川被告に面会した。私は宮崎勤死刑囚とは十年以上もつきあったし、凶悪事件で犯人とされた人たちと多数接触してきた。流布されたイメージと彼らの素顔にずれを感じることは多いのだが、金川被告の場合はそのギャップの大きさに驚いた。話してみると、ごく普通の青年。事件のことを知らなければ「好青年」との印象さえ持っただろう。
 自我が目覚める高校生の時に、生きることの意味を考え、生きていても無駄だと思うようになった。その年代には珍しいことではない。しかし彼の場合は、無差別殺人で死刑になって死のうと考えた。一般の人間には到底理解できない飛躍した論理だ。
 早く死刑にしてほしい。法廷で被告がそう主張する光景を、私は以前、奈良女児殺害事件の小林薫死刑囚の裁判で目にした。彼とは約一年にわたって接したが、殺意の認定を含め、裁判で語られている事件経過は事実とかなり異なるのだが、自分はもう死にたいと思っているから、争うことはいっさいしないと言っていた。そし望み通り死刑判決が出ると自ら控訴を取り下げ、刑を確定させた。裁判は茶番だ、とも言っていた。
 その彼の話を聞きながら、私は、自ら死ぬことを望んでいる人間に死刑判決をくだすことが本当に彼を処罰することになるのかという疑問に終始とらわれた。今回も、死刑判決がくだされる法廷でほとんど表情を変えない金川被告の横顔を見ながら、これで彼を裁いたことになるのか、と強い疑問を感じた。
 死を覚悟して小学校で無差別殺傷を行った宅間守死刑囚の場合も、早く死刑を執行せよと、確定後も訴え続けた。宅間・小林両死刑囚の場合は、社会から疎外され追いこまれていく何十年かの人生の中で、生きていても仕方ないという絶望に捉われた。しかし、金川被告の場合は、追いつめられるだけの人生も経験しないまま、死にたいという妄想に捉われて凄惨な凶行に走った。
 家族とも社会ともコミュニケーションの回路を絶たれていたことが、彼を妄想から現実に帰らせる契機を奪っていたような気がする。何か少しだけきっかけがあれば、金川被告はごく普通の人生を送っていたのではないか。本人と話してみてそんな印象を抱いた。
 到底理解できない動機で、自らが死ぬつもりで無差別殺傷を行う。そんな事件がこのところ目につく。死にたいと思って殺人を行う人間に死刑判決をくだすことが処罰になるのか。そもそも、人を裁くとはどういうことなのか。今回の金川被告の事件は、まさにそういう問題をつきつけたような気がする。

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