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4月15日奈良少年調書流出事件裁判に行ってきました

 4月15日に奈良地裁で行われた調書流出事件の判決公判を傍聴してきました。業界的には『僕パパ』問題と言われてますが、裁判はその出版のあり方が問題でなく、あくまでも鑑定医の秘密漏示が問われたわけです。というか、著者である草薙厚子さんや出版元の講談社でなく、情報提供者を痛めつけるというのが検察側、国家側の戦略なわけです。

 

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 傍聴希望者の倍率は2倍くらいかな。開廷前に裁判所のロビーで奈良在住の市民がいて「『創』の篠田さんですね、いつも雑誌読んでます」と声をかけられました。たぶん彼以外は傍聴したのは大半がマスコミ関係者だったと思います。吉岡忍さんら見知った顔も何人もいました。そういえば毎日新聞が、検証委員会の元委員だった山田健太さんも傍聴していたかのように書いてましたが、山田さんは来ていません。以前の公判には来ていたという意味で本人が言ったのを記者が聞き違えたのでしょうか。

 

 
 判決についての具体的な感想は長くなるので省略します。公判後、私も囲み取材を受け、一部の新聞にはコメントが載りました。

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 ただ私がいささか衝撃を受けたのは、判決後の記者会見での被告の元鑑定医・崎浜さんの言葉でした。会見で「資料を見せたのは間違いでなかったが見せる相手を間違えた、というのは今もそういうお気持ちでしょうか」という質問が出たのですが、崎浜医師は「その言葉が独り歩きしてしまってちょっと困っているのですが」と冗談まじりに言った後で、こう言ったのです。「それでは草薙さんや講談社以外ならよかったといえば、他にもそういうジャーナリストはいなかったのです」。これ衝撃的な発言ですよ。

 今や崎浜さんと草薙さんは敵味方のようになっていますが、崎浜医師は草薙さんが広汎性発達障害について詳しいジャーナリストだということは認めていたわけです。それを信頼して協力したのに、全く自分の意思に反した本になってしまった、ということなのです。


 崎浜医師は自分の意図は今でも間違っていなかったというのですが、その意図とは、自分が鑑定した少年が決して世間に思われていたような殺人犯ではなく、少年に殺意はなかったということを何とかして社会に知ってほしいということだったのです。それを知ってもらいたくてジャーナリストに内部資料を見せたわけです。草薙さんはその使い方を間違えたわけですが、じゃあ他のジャーナリストなら崎浜医師の意図をくみ取りそれを社会に伝えるということができたかというと、そういうところはなかったというわけです。


 会見場でそれを聞いていて重たい気分になりました。つまり、崎浜医師が自分のリスクを覚悟で訴えたい真実があったというその局面で、それをきちんと受け止めて社会に伝えるジャーナリズムが存在していなかったということ。結局、これは今のジャーナリズムが本来の役割を全く果たせていない情けない状況だということを示しているわけなのです。だからジャーナリズム界は草薙さんと講談社を責めるだけでなく、崎浜さんという情報源をきちんと掴み、あるべき報道をなしえたところがなかったという、この現実を深刻に受け止めるべきなのです。

 この事件は全体を通して、つまり国家権力が本格的に介入した後の対応を含めて、まさにジャーナリズムの脆弱性をもろに浮き彫りにしたもので、もちろん講談社の責任は大きいのですが、他人事のようにそれを責め立てるのでなく、もう少し皆が自分のこととして問題を受け止めなければいけないと思います。

 で、何となく重たい気分になって、実は一夜明けた16日は大阪へまわり、林真須美さんに接見しました。彼女の近況を含めたこの報告は、また一呼吸置いてアップします。(篠田博之)

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