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『週刊朝日』が連載中止事件について10ページの検証報告

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 『週刊朝日』1130日号が、橋下徹大阪市長についての佐野眞一さんの連載中止をめぐる経過報告などを10ページにわたって掲載している。同じ文書は朝日新聞出版のホームページにも公開されている。こんなふうに文書が公開されるのは良いことで、多くの人がジャーナリズムのあり方や差別表現をめぐって議論してほしい。

佐野さんの原稿が編集部に届いてから、社内でも掲載に反対する声が上がっていたといった詳細な経緯は、これらの文書で初めて明らかにされた。雑誌統括が「こんなことを書いていいと思っているのか。掲載できると思っているのか」と編集長と激しくやり合ったというくだりなど、生々しい記述もある。

前社長の辞任により就任した篠崎充社長は「会社は記事の掲載中止、本誌発行後の回収など根本的な措置をとることを判断すべきでしたが、タイトルや表現の『おわび』にとどまり、対応の決定的な遅れを招きました」と回収もあり得たことを明らかにしている。

問題の連載記事についても「人権意識が決定的に欠如した差別記事でした」「ジャーナリズムの仕事からかけ離れたものでした」と厳しく断罪している。

ただ文書全体を読んで、疑問も幾つか感じざるをえない。根本的な疑問は、連載の方向性が差別的だったとして、企画が立ち上がって取材・執筆まで何カ月間も問題にならなかったのはどうしてなのか、ということだ。

会社側の見解は、新聞の倫理基準で佐野さんの原稿を断罪した、という印象だが、その基準からすれば、佐野さんの代表作『東電OL殺人事件』も、被害女性の実名が書かれており、人権侵害の作品ということになる。

河畠大四編集長(当時)が「これは佐野さんの原稿ですから」と言って掲載前に会社を説得するくだりが文書にある。新聞記事とノンフィクション作品の違い、雑誌における署名記事の扱いなど、微妙な問題が一連の総括文書で捨象されているのも気になる点だ。

公開文書には書かれていないが、10月18日の最初の謝罪が、筆者の佐野さんが知らないうちに発表された経緯も含めて、一連の騒動には何だかなあ、と思う点が少なくない。

(月刊『創』編集長・篠田博之)

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